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「どういうことだ?めーがーみーさーまー!?」

この国にいるという女神の家に向かった斗真とシルフィ。

あれ?シルフィ怖がってない?

てかこの美女誰!?

「本当に隣にあるのかよ……」

 ギルドを後にした俺たちはすぐ隣の民家に足を運んだ。

「つーか神様がこんな民家に住んでて良いのかよ」

「隠居みたいなものだから良いんじゃない?」

 シルフィは軽くそう言うが、神としてそれでいいのだろうか……。

「……」

「……シルフィ?」

「あ、ひゃい!?」

 俺が声をかけるとシルフィは体をビクッとさせ驚いた。なんだこいつ。

「どうしたんだ?ヘンだぞ」

「べ、べつに……アルが怖いとかそういうんじゃなくて……」

 ぼそぼそと何かを呟いてるがよく分からない。

「誰が怖いって?シルフィア?」

 背後からの声に俺は振り向き……同時に固まった。シルフィも固まっていたが、それとは別の理由で。

 だってとてつもなく綺麗な方だったんだもん仕方ないよね。うん。

 腰まで伸ばしているらしい艶やかで美しい黒髪。少しつり目気味の黒い瞳。その右の瞳の下には小さなホクロが一つ。そのホクロが妖艶な雰囲気を放っていて思わずドキッとした。

 女性としては高身長であろうその身体を蒼いローブで包み、一般人であることを醸し出しながらも、それでも何か違う感じがする。神々しいというか……なんというか?

「ん?君はシルフィアの連れか?」

「え?あ、はい」

 シルフィとは違い、色っぽいその声音は俺を緊張させるのに充分すぎた。

「……ここでの立ち話もなんだ、中に入れ。茶ぐらい出してやる」

 そう言った美女は俺とシルフィの間を通り抜け、家の扉を開けた。

「……すっげぇ美人……」

 隣を通った美女からは言葉に表せないような……そんないい香りがして再び俺を硬直させていた。ものの数秒だったが、短い時間に二度も硬直させられるとは思わなかった。

「……ぜぇったい怒ってる」

「シルフィ、どうかしたのか?」

 シルフィの方を向くと……顔を青くして僅かに震えている女神がそこにいた。

「……行こうぜ、女神様」

「……や、やぁ……よ」

 どこの方言かな?

 早く行かないとさっきの美女に失礼だと思いシルフィの手を掴んで中に入る。

 何故かシルフィは抵抗したが、無理やり連れ込んだ。健全な意味で。


 ────美女宅・リビング


 割と広めのリビングのソファに俺とシルフィ、そして対面のソファに美女が座っている。

「……で?なんで一般人……もとい異世界人を連れている?シルフィア」

 シルフィはビクッと身体を震わせてガクガクと怯えだした。

 え?怖いかなこの人。優しそうに言ってるように見えるけど。

 シルフィの様子から見るに、この美女がこの国にいるという女神様と思う。それもかなり怖いみたいだが、そうは見えないけど……。

「早く話な?さもないと……」

「わ、分かった分かった!分かったから!!」

 シルフィは身振り手振りで女神様を止めるように慌てた。

「……っとその前に自己紹介忘れてたな」

「ここで!?」

 シルフィの言葉に、何か文句でもある?というような目を向ける女神様。殺意込み。

 ……薄ら見えてきたかも。

「私の名前はアルス。そこの馬鹿を筆頭にこの世界を作った神の一柱だよ」

「……やっぱり女神様か」

 自分の予想が的中し、思わず口に出してしまった。

「ふぅん?私が女神だとよく気付いていたな。大抵の人間は気付かないものだけど」

「え?」

 控えめに言ったとしても女神としての風格は滲み出てる気がするけど……。

「まぁいいか。シルフィア、話せ」

「……はい」

 まだビクビクしていたシルフィはしぶしぶ話し始めた。

 この世界で起こっていること。

 これからしなくてはいけないこと。

 俺に話した内容を少し要約こそしているが話した。

「……まてシルフィア、何か勘違いしているようだお前は」

「へ?」

 目を丸くして首をかしげるシルフィ。無論、俺もえ?ってなった。なに?勘違い?

「先代魔王はとっくに死んでるぞ」

「「……………」」

 …………ん?

「それでは私は少しトイ……」

「待てアホ女神」

 逃げようとするシルフィの服の襟を掴み引き戻す。

「どういうことだ?ん??」

「ひ、ひぃぃぃ!?」

 あれ?おかしいな、俺的には笑顔なんだけど。

 若干アルス様も引いてらっしゃる。

「どういうことだ?めーがーみーさーまー!?」

「わわわわわわ私も分からないよ!?」

 だいぶ怖がってる。怖がってるよこの子。なんか楽しい。

「……そこら辺は私が説明しようか」

 まだ引きながらもアルス様が説明してくれるようだ。なんとお優しいことだ。

「先代魔王は死んだ……三人の息子達による反逆でな」

「反逆?何でそんなことに……」

「さぁな。それは知らないが、ともかく三人の息子達が殺したんだ。今はその後の部隊を整えてる最中ってわけさ」

 つまり、先代魔王と戦った時に出た損害を今埋めているということらしい。

「そんな大戦らしいことは聞いてませんでした」

 チラリとシルフィを見ながら語尾を強くしてそう言った。

 全くこのアホ女神は、天界で何してたんだよ。

「アホじゃないし……」

 ボソリと呟くシルフィ。何故バレたし。

「いや?大戦は大戦だが、あくまでも魔物達の領地……魔界で起こったことだ。特に人間には危害も何も無かったよ」

「え?そなの!?」

 向こう側が大変な時こっちでは平和だったのかよ……。

「魔界と人間界の大体の境界は知ってるな?」

「はい」

 シルフィの説明が合ってればの話だが。

「その境界自体は昔と場所は変わっていないはずなんだ。けれど先代魔王を殺した息子達が体勢を整え終わったら……」

「少しづつ進行されて行くって訳ですか」

「まぁそんなところだ」

 今は体勢を整えている最中だというが、先代魔王を倒したんだ、それでも脅威だろう。

 しかも息子達三人、だ。セインクの時にも魔王討伐に何時間も掛かった。一体一で時間がかかるのだ。三人もいれば俺一人では不可能な気がする。

 考え込む俺に対し、アルス様は少し笑いながら何処からか取り出した扇子?で俺を扇いだ。

「そう考え込むな。要するに、だ。今のうちに倒さないと後々面倒になるんだよ。私達神は下界に降りてきて力は発揮出来ない。私達は助言しか出来ない」

「……ねぇ、斗真」

 アルス様の話に割り込み、俯いたままこちらを向いたシルフィが先程の怯えの声とは全く違う、願うような声で話し掛けてきた。

「私ね、この国……いや、人間界が崩れて欲しくないの。魔王に侵略されてめちゃくちゃになっちゃうのもこの世界の運命かもしれない。私達が作ったのはあくまでも土台とそれと結びついた人達だけ。その人たちがどう生きるのかは私達は知らない。その人たち次第だから……そういう生き方を見たかったから。でも!」

 ばっと顔を上げたシルフィの目には、薄ら涙が溜まっていた。

 ────それはただ美しかった。

 女神と一目瞭然のその姿が俺の目の前で、自分の願いを……他人を、種族すら違う人間を思う願いを俺に対し聞かせてくれている。

「その生き方が見れなくなるのは嫌!自分達で世界を作ってようやく分かったことなの!平和ってこういうことなんだって……悲しみ、憎しみとか……そんな冷たい感情もあって……喜び、楽しみみたいな温かい感情もあって……それらが人々を支えているものだって気付いたの!」

 溜まっていた涙はドラマを見ているかのように綺麗に頬を伝ってポロポロと座っているソファを濡らす。

「それを失いたくない……見れなくなるのは嫌なの……だから……」

 再び俯いたシルフィは絞るような声になって言った。


「お願いだから……世界を救って」


 と。

「……シルフィ」

 なんて言えば良いのだろう。

 俺はかっこいい主人公にはなれないだろう。

 異世界に連れてこられて、世界を救ってと頼まれて。

 正直混乱している。

 でも確かに確信的に変わらないことが一つある。


「そんな顔するなよ。言われなくても救ってやるから」


 ────女の子の涙を見せられちゃ、引き下がれねぇ。

 それだけが俺をその回答に導いた。

「ほ、本当に……?」

 ゆっくりと顔を上げたシルフィはまだ流れる涙を拭うことなく俺を見つめた。

「あぁ、本当だよ。救ってやろうじゃねぇか」

 俺は異世界人。

 世界を救ってと頼んだ相手は女神。

 普通は交わることのない一人と一柱。

 それが交わるとなると、それはもうフラグだ。

 世界は救われるってな。

「色々問題もあるし、分からないことだらけの今の状況でどうにかこうにかやってくしかないなぁ」

 武器とかどしよ。素手でやり合いたくない。

 少し考えていると、俺の制服(まだ制服だぜ!)の袖をシルフィが引っ張ってきた。


「ありがとう」


 泣きながら、涙を流しながら笑顔でそう言った女神は全く困ったものだ。

 ……可愛いじゃねーか。

 少し苦笑いした俺は改めて決めた。


 この世界を救ってやる、と。

第三話です!

改めて決意を固めた斗真はこれから先どうなっていくでしょうか。

次回

『そのステータスは』

遅い更新ですけど、待っててくれると嬉しいです。

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