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行く道にいた者

秘剣獲得から一夜明け、マキシアへ向かう日となった。

しかし、クエスト前に様々な波乱の予感がして────?

 三度目なのか……と打ちひしがれながら今日も朝を迎えた。

 昨日、一昨日に引き続きシャナは裸だった。

「いい加減服着てくれ……」

 一昨日のステラと加工屋に行った時。

 昨日の秘剣クエ。

 翼竜(ワイバーン)擬似竜(デミ・ドラゴン)との戦いの疲れこそ抜けてはいるが、その後にあった喧嘩及び戦闘による疲れが出ている。

 さらにそれに加えては、偶然の産物の宝剣とサーシャの持つ秘剣についてシルフィに散々問い詰められた。

「勝手に危険なことしないで!!」

 俺は叱られる子供のようにシュンとしてシルフィの説教を受けていた(しかも正座で)。

 救いとしては、ステラが「私の屈辱を怒ってくれたの」と言ったことと、サーシャが「私の……迷い、に……踏ん切り……つけさせてくれた」と言ってくれたことだ。それによりシルフィの説教も多少は和らいだ。

 ちなみにシャナは宿舎で寝ていたそうだ。

 シルフィは何をしていたんだ?と聞くと、

「何って……アルスのとこでお茶してた」

 と返ってきた。シルフィらしいっちゃらしい。

 そして一時の修羅場の後、俺達は眠りについた。

 そしてイマココである。

「……了承」

 昨日、一昨日と同じようにしぶしぶ着替え始めるシャナ。

 ステラ、サーシャと続いたところで今度はシルフィ────

「あ、おはよ。朝ごはん食べよ」

 ────と思ったが、裸で目覚めるわけでも、寝惚けて抱きつくわけでもなかった。

 どこから取り寄せたのか、テーブルにサンドウィッチが並んべていくシルフィ。

「どうしたんだ、これ」

「アルスに食材貰ったの。なら作ってみよっかな〜って♪」

 アルス様から色々と貰ったらしい。パン(多分)やトマト(多分)、チーズ(多分)、レタス(多分)、ハム(多分)があると言っていた。

「そんな怪しまなくても……基本は斗真のいた世界と変わらないよ?」

「んー……まぁ、それについては心配なさそうだな」

 ゲテモノじゃないなら良いだろう。

「ほら、早く食べよ」

「サーシャ達起こすか?」

「そのうち起きるでしょ」

 そう言って俺の分、と皿に乗せたサンドウィッチをこちらに差し出す。

「なんか自信ありげだな。サンドウィッチなのに」

 切って挟むだけだろ。

「分かってないなぁ……ソースくらいあるよ」

 そのソースに自信があるらしく、ニヤリと笑う。

「ま、いいか。いただきまーす」

 サンドウィッチを手に取り、口に運ぶ。

 うん、ハムを焼いてるのか香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。

 美味そう……と思うだろう、ここまでは(・・・・・)

 口に入れた瞬間────朝もはよから視界は暗転した。


「……あったま痛てぇ……」

 朝のゲテモノサンドウィッチの件があり、俺の朝は最悪のものとなった。

 ハバネロにドリアン、完熟しすぎたバナナ、一味、ゴーヤ(クソ苦いタイプ)を大量に混ぜた、まさに味覚の天変地異のような味に俺は昏倒した。

 再び目を覚ましたのはそこから二時間後だった。

 胃の弱い人なら死んでもおかしくないほどマズイ────いや毒だった。

「ご、ごめんって……まさか私がこんな料理が下手だなんて……」

 目を逸らしながら申し訳なさそうに謝るシルフィは、昨夜の俺とは反対にシュンとしていた。

 美少女作の朝ご飯────ギャルゲのような展開に少しは喜んでいた。

 しかし、俺は失念していた。


 ギャルゲや漫画には────料理下手の美少女ヒロインがいると────!!


「大……丈夫……?」

 サーシャが心配そうに俺を覗き込む。

「お、おう……!?」

 突然目の前に顔を寄せてきたサーシャに俺は少し反り返りながら、少しでも顔同士の距離を離そうと身を引いた。心做しか、顔を赤くして。

 その様子にサーシャは少し微笑みを漏らす。

 ……はっ!?いかんいかん……あまりにも可愛すぎて見とれてた……。

 ────二人の様子を少し膨れながら見ている少女が一人いた事に、シャナのみ気づいていた。


「とりあえず、だ。経路については、荷車に便乗させて貰えるらしい。そこで現マキシアに一番近いらしい、ダルムイに行こうと思う」

「……!!」

 サーシャが少しだけ反応を見せた。

「サーシャ?」

「……」

 静かに俯くサーシャから俺は薄ら気付く。

 詳しい事情までは分からないが、特別……というよりも因縁?に近い場所らしい。なるべくそこには触れないようにしないとな。


 ダルムイ……か。

 サーシャは、思わず反応してしまったことに少しだけ後悔していた。

 破壊王アスモデウスに襲撃された場所。

 父と母を亡くした場所。

戦神(アストルテ)』と別れる前に行き、泣いた場所。

 サーシャにとっての『因縁』に近い場所であるそこに、また赴く。

 そのことにほんの少し、恐怖していた。

 迷いは無い。

 しかし、記憶が消えるわけでもないためか、身体に染み付いた恐怖は抜けていなかった。

 ダルムイとサーシャに特別な関連性があることを斗真たちは知らない。

 知られたくは……ないが、話したら楽にでもなるだろうか。

 でも、今はまだ────

「……とりあえず、荷車に乗ろうぜ。結構揺れるらしいから酔うなよ?」

「分かってるわよ……その時は介抱して欲しいわ」

「お、おう?いいけど……」

 ────と不意に斗真とステラの会話が耳に入る。さらにステラは顔が赤い。

 少しだけ……そう少しだけ。

 サーシャは膨れた。

 そして、僅かなステラに嫉妬の目を向けていたことに気付く。

(あれ……なんで……?)

 ────幼少期から修行ばかりだった少女はまだ、この気持ちの名前を知らなかった────


(仮説。ステラとサーシャの主様(マスター)に対する思い……は同じである)

 シャナは、斗真に顔を赤らめながら介抱を頼むステラと、それを快く思っていないような表情のサーシャを見て、そう仮説を立てた。

 身体の主軸は機械のシャナだが、ステラとサーシャが持つ気持ちの名前を知らない。知る由もない。

 対象(・・)がいないのだから。

(疑問。当機にも同じ思いを持つことは可能か?)

 そんなことまで考え出し、しかし無駄な気がした。

 ────再び考え出すことになるのだが、それは今はまだ訪れない先の話────


(んー……ステラとサーシャ……まさか、ね)

 最近斗真がステラと話すとサーシャが、サーシャと話すとステラが不機嫌になる。

 薄ら勘づいている(・・・・・・・・)シルフィは荷車に乗りながらそう考えていた。

 明らかに斗真への応じ方、斗真が別の人に対応している所を見る様子が以前と異なっている。

 と言ってもまだ十日も経っていないはずなのだが……。

「シルフィ?どーした?」

「え!?いや、何も……」

 不意に斗真が声を掛けたせいで、少し声ふが上ずってしまった。

 その様子にすら不機嫌そうにするステラとサーシャ。

 うぅ……やりにくい……。

 少し苦笑いしながら荷物のないスペースを作り、そこに座る。

 荷車は、縦七メートル横五メートルほどの広さで、大半が荷物だが、五人が座っても余裕のある広さだった。

 シルフィ入り口近くの角に座り、その横にシャナ。

 シルフィの向かい入り口側の角に斗真。

 ────そして、

「トウマ、酔ったら介抱よろしくね?」

「……ステラ、酔い無効の魔法……使える」

「んなっ……ま、魔力がもったいないじゃない?」

「二時間、乗っても……ステラなら数分で……回復出来る量の……はず」

「じゃ、じゃぁサーシャはどうなのよ?」

「私……自己強化は、防御と……攻撃……付与属性(エンチャント・エレメント)……だけ」

「わ、私が掛けて────」

「嘘……酔い無効の魔法……自己強化例、のみ」

「うっ……詳しいわね」

「母が魔道士……だったから」

 ────とまぁ、入り口で言い争い(ステラの圧倒的敗北臭)を繰り広げているわけである。

「私……使えないから……トウマに……介抱、してもらう……」

「ん?いいぞ。ほら、座れよ」

 少しだけ話を聞いていた斗真はサーシャを隣に座らせようと、床を軽く叩く。

「と、トウマ!?……うぅぅぅ……もういいわよ!」

 ステラは不機嫌そうにそう言うと、シャナの隣に荒々しく座る。

 シャナと斗真は「?」と不思議そうにステラを見て、シルフィは半目で苦笑いし目を逸らした。

 反面サーシャは、どことなく嬉しそうに斗真の隣に座った。

 ────あぁ……面倒なことになりそうだ。

 この時そう確信したのはシルフィだけだった。


 ……面倒なことになった。

 荷車が出発してから数十分経っていた。

 日は少し東に傾いていたが、ほぼ直上まで登り、心地よい暖かさとなっていた。

 そのためだろう────斗真は眠ってしまった。

 ここまでは良いのだ、ここまでは。


 眠る斗真が────サーシャの太ももを枕にしていなければ。


「うぅぅぅぅ……」

 ステラは悔しそうにサーシャを見ながら小さく唸っている。

 方やサーシャは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑む……というよりもニヤけていた。

 スゥ……スゥ……と規則正しく呼吸する斗真の寝顔は、好青年を思わせた面持ちとは違い、子供のようだった。

 サーシャはそっと斗真の髪を撫でた。

 斗真の髪はサラサラで、撫ている方が心地よくなってくる感じがして、ますますニヤけてしまう。

 そのニヤけを見てさらにステラが不機嫌になる。

 うわぁ、悪循環。

 シルフィは二人の様子を見ながらただただそう思った。

「……んぅ……」とたまに寝言を言う斗真に、シルフィも流石に微笑み浮かべる。

 ここに来て十日も経ってなくて、想定外なこともあって、疲れてるもんね。

 肉体面で疲労が取れても、心はそうはいかない。

 簡単に心の疲れは取れない。それが人間。

 ────よくあの世界で生きていけるよ。心底感心しちゃう。

 斗真の元の世界(・・・・)のことも知るシルフィは、ストレスが溜まりやすい環境が所狭しとあるあの世界を正直嫌っていた。

 その中で生き抜いていた人間には、頭が上がらない。神様だけれども。

 本当に────感心しちゃうよ。


「……ん……?」

 いつの間にか寝ていたらしい。疲れが取れていなかったのか、この暖かさによる眠気か。

 どちらにせよ、気持ち良く寝ていたことに変わりはな……ん?

「トウマ……おはよう……」

 そうサーシャが声を掛けてくる。

「ん……おはよ」

 まだ俺の声は眠気を含ませていて、その眠気に二度寝してしまいそうになる……ってそこじゃない!

 なんで上にサーシャ(・・・・・・)の顔がある(・・・・・・)

「良く……眠れた……?」

 優しそうに声を掛けてくるサーシャに俺は「お、おう」と恥ずかし混じりの声を出す。

「と、とりあえず起きるから……」

「まだ……寝てても……良いよ?」

 もう少し休んで────と言わんばかりに、起きることに少し抵抗(・・)するようなサーシャの言葉に「そ、そうか?」と甘んじてしまう。

 はっきり言わせてもらおう(声に出さないが)。


 膝枕マジ最高すぎて昇天しそう────と。


「……ん?なんだぁ?ありゃぁ」

 荷車の運転手が何かを見て声を上げる。

「なんか近づいて……うわぁぁぁ!?」

 ────次の瞬間、大きな衝突音と衝撃で完全に覚醒した。

「……出るぞ!」

「了解!」

「う……ん……!」

「……分かってるわよ!」

「了承」

 俺の合図で、それぞれの武器を手に外へ出る。

 そこには────


「対象確認。フェイズBに移行。コンタクトを開始する」


 ────数機の機皇類(・・・)がいた。

「……!!」

 向こうから出向いてきた……?なんのつもりだ……!!

「ニシオトウマ。我が名は『アルタレスタ』。貴公は我々機皇類と共に来てもらう」

 成人の男のような機皇類────アルタレスタはそう言ってきた。

「……どこにだ」

 返される言葉は予想は出来ていた────


「我が機皇類一号機『始まりの機皇(デウス・エクス・マキナ)』の元へ」


 ────この時から、既にクエストは……戦いは始まっている。

二十五話目です!

実はこれから忙しくなりそうなので、更新ペースが落ちるかも知れません。

なるべく落とさないように努力はしますが、考慮、お願いします。


次回「マキシアへ向かう前に」

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