答え
迷いの中にいるサーシャは、記憶をたどる。
その中から見出した答えとは────?
私は、王都から遠く離れた田舎町で七歳まで育った。
父はトラバントの子孫として名を知られていた有力な『戦車』で、よく頭をガシガシと撫でる豪快な人だった。
母は魔道士家系でもかなり強い魔道士で、優しくも厳しく、怒る時は怒る、そんな人だった。
優秀な両親だったが、私の能力は父寄りであったために母から魔法を習いはしたものの、魔力質の関係で攻撃魔法が使えず、父の防護魔法には適性を示した。
私が防護魔法を重複発動できるのも、父から受け継いだ能力と、僅かに受け継いだ母の魔道士としての能力が可能にしている。
私は『戦車』としての力をつけるために、修練に励みだしたのは四歳。それから三年の月日が流れ、七歳になった時の話。
────厄災の襲来。
魔王軍幹部が私を町を襲ったのだ。
当然私の父も駆り出され、前衛の盾役。
母もバックアップ部隊に組まれ、回復役。
────しかし、そんなものは無に帰した。
魔王第二部隊幹部『破壊王アスモデウス』。
それが町を強襲した魔王軍幹部である。
不意にどこかに現れては、そこを破壊し尽くす災厄として恐れられていた。
魔族内乱の後百年近く現れていなかったため、慢心していた人々は、ことごとく殺されていった。
私の家のそばには森があり、そこに逃げ込むことで難を逃れた。
森に入る直前、父と母が私を見つけた。
「盾を信頼しろ。剣を信頼しろ。それが強くなる秘訣だ」
父は笑顔でそう言った。
「強くなりなさい。誰かを守る強さを持ちなさい。いつか、あなたにも守りたいものが出来るから」
母はそう言って私を抱き締めた。
────走れ、生き延びろ、強くなれ。
そう言って両親は私を送り出した。
────恐怖だった。
後ろを振り返れば、アスモデウスが作り出した『死の世界』。
父と母が死んだ世界。
足が擦り切れても、何度も転げて膝を打とうとも。
走って走って走った。
後ろを振り返れば地獄。
わけがわからいぐらい走った。
でも────不思議と涙は出なかった。
代わりに湧いたのは『強くなりたい』ということだけ。
走り続けて、足も動かなくなって、倒れてしまった。
そんな時だ、頬に傷があった『彼』が私を背負って森奧の小屋まで連れていき、看病をしてくれた。
彼は、父も認めた若き『戦車』だった。
────弟子にしてくれ。
私が彼に言った最初の言葉だった。
その後故郷の惨状を伝え、怪我が治るまで、そこで療養をしていた。
森の反対側にも町はあったが、アスモデウスは来なかったらしく、しかし平和な暮らしから一変し、遠くに行く人々が多く、廃れていった。
一年の療養を終えると、彼と一緒に半月かけて修行もしながら少し離れた街に行った。
そこは、避難した町の人々が流れ込んできたこともあり、活気づいた小規模な都のような所だった。
森の中に小屋を構え、そこで二人で暮らした。
もちろん、療養を終えた時に町へ────私の故郷へ行こうと言われた。
しかし、私は行きたくなかった。
一年という月日でさえ、私の心は整理が終わらせられなかった。
「……今はまだいい。でも、いつか見に行かないとな」
彼は優しくそう言って、頭を撫でてくれた。
その手はとても優しかった。
父の撫で方とはかけ離れていた撫で方。
でも────父のような温もりを感じた。
正式に弟子になったのはこの後だった。
修練に明け暮れ、さらに一年が過ぎ、九歳になった頃、彼は勲章を貰った。
人々は彼を勲章の名で呼ぶ。
────『戦神』、と。
しかし、彼との生活は特に変化を見せなかった。
少し忙しくなっただけ。
さらに二年の月日が経ち、私は十一歳になった。
それなりに実力を積み、B級モンスターなら一人で倒せるほどになった。
彼の功績であるが、彼は「才能かな?」と謙虚におどけていた。
ある日、私と彼が住む小屋にギルド役員が訪れた。
「大規模作戦のため……『魔王幹部討伐軍編成』に『戦神』であるあなたも参加してもらう」
私はまだ弱かったから呼ばれなかった。
彼が旅立つ二か月前に、私と彼は、私の故郷へと足を運んだ。
────あの時のままだった。
焦げた木材。
焼けた土地。
立ち込める死の感情。
振り返れなかった地獄の光景が残されていたのだ。
その時だ。私はその時初めて────泣いた。
声を上げ、涙をボロボロ零して泣いた。
その時の私は、強くなりたいと願う『戦車』ではなく……一人の少女として泣いた。
彼は何も言わず私を慰めてくれた。
それ以来────泣かなくなった。
彼は旅立った。
それを機に私も旅に出た。
知識は彼から教わった。相手との渡りかたも、野宿の仕方も。
彼から学んだ。
彼が旅立って数年……私は十五歳になった。
その時に聞いた噂に、私は耳を疑った。
────魔王幹部討伐軍が壊滅して、『戦神』は行方不明。
私はクエストを受けた。受けて受けて受け続けた。
いつしか『戦車』の強者として、クエストのお陰で救った街があったために『守護者』の勲章をもらった。正直いらなかった。
私は────強くなりたかった。
行方不明と聞いてさらに二年。
マモンが現れた。
────倒したい。
そう思った。
しかし、たまたま組んでいた魔道士の二人がかりでも倒せず、死にかけた。
────そこにトウマが現れた。
僅かに流れた回想に、私は自嘲気味に笑った。
何も強くなんてなっていないではないか。
いつまで守られてる。
いつまで弱虫の少女でいる。
私は────強くなりたい。
あの悲劇を見たくないだけ……いいや違う。
「私は────『特別な人を守る強さ』……が欲しい」
そう、ただそれだけではないか。
父を失い。
母を失い。
『戦神』も────失った。
失ったものが多いから、もう────失いたくはない。
ならば────強くなればいい。
強くあればいい。
私は────守りたいだけなのだから。
私の表情を見たオルレアンは微笑する。
『答えが出たか』
「……はい、御先祖様」
今頃御先祖か、と苦笑いするオルレアンにサーシャは笑みを……自信のこもった笑みを浮かべる。
『ならば……示せ!!』
「もち……ろん……!!」
再び地面を蹴り出す二人は────笑っていた。
分からないと言った。それは嘘ではない。
先程まで忘れていた記憶を辿った結果、理解というより確信した。
自分が懇願するものについて。
それならば話は早いものだ。
────己が願いのため、全力を尽くす。
ただそれだけ。
私は────強くなる。
そう思いながら、剣を……振りかざす。
二十三話です!
短くなってきました……三千文字に戻したいです(切実)
次回『秘剣に示すもの』




