解放、ユニークスキル
実力を試す。
ゲームの世界での知識を頼りに一つのクエストを受ける斗真。
だがそこに一人の来訪者が────
西門を出て三十分ほど歩いたところに小さな集落がある。
セインクでは『ナガスタロム』という名前がついていた。略称のナガスタで呼ばれることが多かったそこで、とあるクエストを受けることが出来た。
『Absolutely indestructible rock』……壊してみろよこの岩をという意味で付けられたクエスト名だ。
内容は、とある大岩を壊すだけ。
しかしゲーム時代では、筋力値全振りのアタッカーにでもならないと破壊不可能とされ、このクエストを受ける者はいなくなった。
ただ、クリア報酬が秘剣ということすらも忘れられていたということには正直驚きだった。
ここへ来たのはその秘剣が目的ではない。ただの実力試し────いや、『神器の継承者』の力を確認するために来た。
集落の中心にいる長らしき老人の元へ向かい、「大岩のことを教えてくれ」という。
「若いのよ……大岩を砕かんとするか」
集落長の返答……これがクエスト開始の合図。リタイアするか────クリアするしか戻る方法はない。
「もちろん」
「ならば、この奥の森へ入り、真っ直ぐ進め。かの大岩はしばらく行けば分かろうぞ」
集落長に言われるがままに森へ入る。森に入ったら既に大岩は見えている。その方向へと足を運ぶ。
数分歩くだけで、大岩の元には到着した。
十数メートルはあるその高さと、五メートルはある奥行に黒い色をしているため、圧迫感がある。
────このクエストにはとあるストーリーがあった。
昔、この集落を拠点にしていた戦士がいたという。
その戦士の持つ秘剣は強力な力が秘められていた。
その秘剣を振るい、数々の困難から集落を救い、いつしか崇められるようになったという。
その秘剣は戦士が死ぬ間際に洞窟に放られ、大岩で蓋をされた。簡単には使わせないという意味を込めて。
そんな話。
実際には強力な剣というだけらしいが、一体どんな剣かは知りたいところだ。
が、
「……つけてきてるんだろ、出てこいよ」
「……トウマ」
木陰から『守護者』────サーシャが出てきた。
この街から出る直前にようやく気づいたが、ステラと宿舎前で別れる時からつけていたらしい。
「何しに……ここへ……?」
「……ユニークスキル」
俺のユニークスキル────『神器の継承者』は、俺の知る神話上の武器を召喚する能力だ。
今までにもエクスカリバーにならび、ケリュケイオン、バルムンクを召喚している。
エクスカリバーは、アーサー王伝説に登場する『約束された勝利の剣』。
ケリュケイオンは、神々の伝令役、ヘルメスの持つ神器。
バルムンクは。ニーベルンゲンの歌に登場する英雄、ジークフリートの持つ剣。
どれも名高い神器だ。
俺はそれらを召喚する能力を持っている。
昔から神話を好んで調べていた俺はその手の知識はかなりある。
それがこの世界で役に立つとは到底思わなかったが。
「この前の擬似竜の時に、掴んだはずの感覚を思い起こそうってな」
「……秘剣は……?」
やはりこの秘剣のクエストについても知ってるらしく、質問してきた。
「ついでだ。確かに欲しいが、俺の手には余る」
神器を召喚する俺にとって秘剣も宝剣も正直必要ないのだ。
万能……には届かないものの、俺のユニークスキルは強い。
「まぁ……見てな」
俺は手を前に突き出し、イメージする。
アーサー王に数々の勝利をもたらした、黄金に輝く一振りの剣。
「アーサー王に仕えし聖剣よ。我がもとに顕現し、その力を示せ……エクスカリバー!!」
虚空より黄金に輝く聖剣────エクスカリバーその姿を現す。
その柄を掴み、構える。
さらにイメージを重ねる。
エクスカリバーは勝利の剣。俺の力になってくれる聖剣。大地を、大海を、山岳を、空間をも切り裂くその力を────信じる。
エクスカリバーに光が灯り、その輝きを増してゆく。
次第にあたりを照らし、あの時……マモンに放った衝撃波と同じ力を込める。
振り上げたエクスカリバーに力と────思いを込める。
────俺はこの剣を信じる、勝利へと導いてくれる、と。
そして、エクスカリバーを貯めた力を一挙に解放する────!!
「エクス……カリバァァァァァァァ!!!」
振り下ろされたエクスカリバーの輝きは、光の柱となり大岩へと突き進む。
邪魔はできない。邪魔をするならば死を意味する。
空間をも切り裂く聖剣の一撃は大岩を────両断した。
ズドォォォオオオ……
音を立てて二つに分かれた大岩は、左右に倒れ、その重さに砕けていった。
その光景を眺めながら斗真は難しい顔をしていた。
「……まだ」
しかし、この結果から斗真は満足していなかった。
まだ足りない。
そう直感的に確信したからだ。
エクスカリバーの力はこんなものじゃない。
空間をも斬り裂くのだ、もっと引き出せるはずだ。
たかが大岩、両断出来なくて聖剣として語り継がれるわけが無い。
まだ……決定的に足りないものがある。
「……トウマ……」
サーシャも斗真の様子から察したのか、少し心配そうに呟く。
────高みを目指すあまりに散った者を知っている。
斗真はその者に似ている。
高みを目指すあまりに自滅した、偉大なる愚か者に。
「……ある程度の実力は把握したよ」
聖剣を虚空へと戻し、サーシャの方へ振り向く。
その顔には笑顔が貼り付けてあった。
「さぁて……秘剣、取り行こうぜ」
「……うん」
どうしようが止められない。
そう思ったサーシャは静かに肯定した。
洞窟はかなり奥行があるらしく、五分程度歩いても奥に辿り着くことが出来なかった。
落ちていた太めの木の枝に付与属性で火をつけ松明としている。
「……寒くないか?」
洞窟内は、湿気ておりそのため気温がかなり低い。
新調した装備でも肌寒く、徐々に体力が削られていく。
「大丈夫……」
少し微笑みながらそう返答してくれるサーシャは、しかし少し震えていた。
「……ん」
ロングコートを脱ぎ、サーシャへと差し出す。
クエストの前に風邪をひいてもらっては困る。
「え……?でもトウマが……」
「いいから」
半ば押し付けるように手渡す。
サーシャは少し困った顔をしたが、でもどこか嬉しそうにロングコートを羽織った。
「……あったかい」
その呟きは洞窟内でも響きはしなかったが、斗真の耳にはしっかりと聞こえていた。
松明で照らされたためか、少し顔を赤くする斗真(童貞)であった。
「……ん?」
洞窟の奥にキラリと光る物を見つける。どうやら最奥までもう少しらしい。
「……これが……秘剣か」
最奥の台座に突き刺された秘剣は、白銀に輝き、雪の結晶を思わせる装飾と共に、僅かな冷気を纏っていた。
秘剣『氷光の秘剣』
柄にはそう銘が掘られていた。
「これが……秘剣」
サーシャもその輝きに驚き、感嘆の声を漏らす。
松明に照らされた秘剣はその輝きを放ち、なんとも言えない圧倒されるような感覚に陥ってしまった。
その柄に触れようとしたその時
「ッ!?」
バチンという音と共に伸ばした手は強く弾かれる
「え……?」
目を丸くするサーシャ。もちろん俺も驚いているが、正直予想はしていた。
この世界の秘剣や宝剣、聖剣、魔剣は俺には使えない。
俺のユニークスキルは神器を召喚するもの。
でもそれはこの世界ではなく、元の世界の神話からのみ。
だがそれだけでは使えない理由を説明することが出来る要素はないが、確信はある。
「……サーシャ、触れるか?」
「やってみる……」
サーシャが秘剣に────触れる。
弾かれることはなく、普通に触れることが出来た。
しかし、
「……っ」
サーシャの顔が苦悶に歪む。
「サーシャ!?」
「……っあ……ぐぅ……っ」
苦しそうな声を漏らしながら、触れていただけの柄を掴む。
その瞬間、サーシャの中に秘剣が流れ込む────
『よぉ、久しぶりだな』
目の前にいる秘剣が────語りかける。
「……御先祖様」
『おう』
秘剣はサーシャの先祖……いや、伝記に登場する戦士その人。
「ここは────どこ?」
『俺とお前を繋ぐ空間……と言えばいいのか』
周りは薄い橙色をしている空間。
そこに私と戦士……オルレアン・トラバントは浮いていた。
「なんのため……?」
『死んだ俺は────秘剣に取り込まれた』
オルレアンは瞳を伏せ、さらに続ける。
『長年、半身みたいなものだったからな。逝くとしたら共にと思っていたが……本当にそうなるとはな』
少し苦笑するオルレアン。
サーシャはそんなオルレアンに少し微笑みを浮かべた。
『この秘剣はな、常人じゃ扱いきれない代物だ。例えそれが俺の子孫だとしても、だ』
とんでもない剣だとは知っている。
昔……父親から教えて貰った御先祖様の話。
平穏なこの街から飛び出して、人々を救ったという話。
その手に握る秘剣と────信じ合えていた話。
どれも子供の頃の私には、眩しかった。
強くなりたい。
そう願ったのはその頃からだろうか。
『お前は……サーシャ・トラバントは、この剣を欲しているのか?』
そうオルレアンが言うと、地面が出現し、重力が戻り、己の重さを感じる
「……もちろん」
脳裏によぎるあの光景。
二度と見たくない光景。
それを防ぐための力が……欲しい。
「……強く……なりたい……例え剣の力でも……いつかは……超えるから」
────両親を亡くし、孤独になった時。
────それから出来た大切な人を失った時。
そう決意した。しなければならなかった。
自分を保つためにも……
『ならば……』
オルレアンの手に『氷光の秘剣』が握られていた。
腰を落とし、構える。
『その意思を示せ、我が子孫よ』
「望む……ところ……!!」
自らの剣を抜き放ち、構える。
己の研鑽と、実力。それを見せる。
強くなる────あの時決めたことだから。
強くなる────トウマのような強さを求めて。
先祖と子孫が地面を蹴り出すのは同時だった。
────私は強くなる。あの人の背中を追いかけて。
祝!二十話!!
十話からさほど日が経ってないような気がしてます。
PV等も伸びてきており、非常に喜ばしいです!
深奥に刺さっていた秘剣とサーシャの戦いやいかに!
これからもよろしくお願いします!
次回『秘剣と私と』




