準備完了
朝────やはりまた大変なことになりそうな予感がする。
目覚めた時に斗真は────
加工屋に預けた素材はどうなったのか────?
さて、唐突だが既に次の日の朝だ。
ここで一つ問題を出そうと思う。
昨日の朝、俺は何を見た?っていう問題なんだが……分かるか?
そう、その答えは────
「また服着てないのかよ!!シャナ!!早く着ろ!!」
────幼女の裸である。
目が覚めるとそこには裸の幼女(機皇類)が。
ロリコン大歓喜(多分)であろうその光景は、おあいにくさま童貞の俺には刺激の強いものなのである。
ぶっちゃけ、目が覚めすぎて凄い。
昨日と同じように、しぶしぶ服を着るシャナの反対方向を向きながら着替えを待つ。
「……んぅ……トウ……マ……?」
昨日と同じく、このやりとりで起きた者が────しかし、ステラではなくサーシャだった。
サーシャは裸ではないだろうけど……。
「あぁ、おはようサーシャ」
「う……ん」
眠そうに瞼をこするサーシャ。
少しボサボサの髪の毛に、萌え袖になっている薄いピンクのシャツに青色のハーフパンツ(向こうの世界の服と結構似てる構造)。そして美少女。
ステラもだが、サーシャも美少女である。
真っ黒なボブの髪の毛に、同じく黒い瞳。
懐かしの日本人の美少女を思わせる顔立ちのサーシャは間違いなく可愛い。
体躯は『戦車』らしからぬ細身だが、いざという時は頼もしい『守護者』である。
しかし今のサーシャは守護者と感じさせない……なんともふわふわした雰囲気を纏っている。
「んー……」
まだ眠そうにしているサーシャは、ベッドから降りると、フラフラしながら歩き出す。
「こ、コケるなよ?」
少し心配しながらサーシャを見つめるが、向かう先が────どうも俺の所らしい。近づいてくる。
「んぅ……トウマ……」
「お、おう?」
先程まで寝ていたソファに空きを作り、そこにちょこんと座るサーシャ。
身長は俺より五センチほど低く、なんだか同級生みたいな感じがする。
全員の年齢までは聞いてない俺は今度聞いてみようかと思った。プライバシーとか言われそうだけど。
隣に座ったサーシャはまだ眠いらしく、ぼーっとしていた。
「サーシャ、今日も休みにしてるんだ……もう少しくらい寝てても良いんだぞ?」
「ん……」
やはり眠たいのだろう。声が眠そうだ。
「んぅ……」
……はっ、いかんいかん。つられて寝てしまうところだった。
どうもサーシャの眠そうな声を聞いてると、こちらまで眠気を誘われてしまう。
「催眠術かよ」と苦笑いする。
ふと見ると、サーシャは再び眠りについたようだ。寝息を立てている。
スゥ、スゥと規則正しい寝息に思わず微笑む。
そして────美少女の寝顔と寝息に僅かながらに焦りを覚える。
……やばい……超可愛い。
やはり『可愛いは正義』は心理だったらしい。
サーシャの寝顔は俺の心(童貞)を掴んでいた。
と、その時
ムニ
「────」
絶句というものは、こんな状況でもなるものなんだと後に思うが、今はそれどころではなく頭は真っ白だった。
腕には柔らかい感触。さらには、なにかに挟まれているかのような感覚だ。
────抱きつかれている。
そう理解するまで十秒ほど要された。
んんんんんん!?!?
ちょ、ま、え?
サーシャさんんんん!?
体は微動だにせず、ただ心の中で焦りまくる。
サーシャは眠りながら抱きついているようで、離れる様子はない。
かといって、無理やり離して起こすのも悪い気がする。
そして第一前提として────この状況を打破したくないという男心。
昨日一瞬見たステラの胸は小振りだったが、腕に感じているサーシャの胸はかなり大きい。
服越しでもその柔らかさと抱擁感というか、それは伝わる。
心臓が早鐘のように鳴りやまず、ドギマギしてしまう。
相手は寝てるんだぞ!!しっかりしろよ俺!!
身体は緊張で強ばり、上手く動かない。
平常心を保てず、顔は熱い。
「さ、サーシャさん?お、起きてらっしゃいます?」
少し声を掛けてみるが返事は無い。熟睡中のようだ。
────ここから目覚めるまでの三十分間、手を出すこともなく悶々としながらただ時間だけが過ぎていった────
「……」
「……」
「二人共なにかあった?」
「「べ、別に……」」
「?」
サーシャが再び目覚める頃は、まだステラとシルフィは寝ていた。
そして、寝惚けながら俺を見たサーシャは自分がしでかしたことを理解し、一瞬にして赤面、へたりこんでしまった。
サーシャが涙目になったところで自分が焦りとか緊張とか色々なものが吹っ飛び、精一杯フォローしていた。
どうにか宥めることに成功した後、起床したシルフィ達とこうして食事をしにギルドまで来たのは良いが、サーシャと目を合わすことが出来ないでいた。
「主様とサーシャ・トラバントは抱き合っていたので、そのことが関連性があると思われます」
「待てコラシャナぁ!?言うなって約束だろ!?」
「謝罪。失礼主様」
シャナには秘密にしてもら────っていたがそれも無に帰していた。
「だ、抱き合っていたって……」
赤面するステラに、震えながら拳を握り締めるシルフィ。
「────どういうことか……説明してくれるよね?」
今までに見せたことのない笑顔を見せるシルフィ。怖い。
「ま、待て早まるな!これには深い訳がぁ!!」
「言い訳は聞きません♡」
アルス様の家に行った時とは立場が逆転し、力いっぱい殴られた。
(私……凄いことしちゃってた……)
殴られて沈黙する斗真を横目で見ながらサーシャは自分がしでかしたことの重大性と────有り難みを僅かながらに感じていた。
誰にも見られないように少しニヤけるサーシャ。
実のところ、恥ずかしさ勝りだが嬉しかったのだ。
自分が、寝惚けていたとはいえ大胆なことが出来たことに。
(アストル……私、少し成長したかな?)
────昔、突然消えた師匠に心の中で問い掛ける。
「ふぅん……そーゆーことだったのね」
俺とステラは、昨日預けた武器を取りに加工屋へと再び足を向けている。
「流石ステラ……話を聞いて────」
「でもあなた……喜んでたんでしょ?」
「うぐっ……」
痛い所を突かれた。
実際のところ、童貞心を掴み取られ、さらには追撃に遭い、正直言うと嬉しかった。
だってこんなイベント、ギャルゲレベルでしょ!?俺凄い体験したんだよね!?
的な感じである。
「ま、良いんじゃない?これで」
「でも、連携とかに支障をきたす……ことはないか」
この状況下で連携に支障をきたすならば、早急に解決しなければならない。なんせ相手は『始まりの機皇』なのだから。
しかし、サーシャはプロである。切り替えはするだろう。して欲しい。
「さて、着いたけど……店長!」
「────おう」
奥から出てきた店長は────非常に険しい顔をしていた。
「な、なにかあったのかしら?」
「いや……それが……」
店長は杖と────短剣をわたす。
「す、凄い……魔力効率が凄く上がってる……」
杖を手にしたステラは感動の言葉を漏らす。
魔力効率とは、術者の魔力を流す時の伝道率である。
上がれば上がるほど、強力な魔法を打つことが可能になる。
っていやそこじゃないだろ!!
「これどうしたんだよ店長!」
短剣を渡された俺は店長に問い詰める。
それは────宝剣だった。
数々の鉱石と翼竜の爪は、見事に組み合わされ、強力な短剣となっていた。
しかし、宝剣へと変貌することは無い。
もちろん、この世界の宝剣の仕組みは知らない。
だが、普通の剣と違うということは充分感じ取っている。
「────実はな……嬢ちゃんの杖に使った宝玉が……先に作った短剣と共鳴したんだ」
「共鳴……?」
武器と素材の共鳴。それはつまり、武器の進化を意味すると言われている。
短剣と宝玉が共鳴した────つまり、『進化』したのだ。
それならば納得できる。ただ不可解なのは、なんで宝剣まで進化したのか、だ。
この短剣は、希少価値の高い宝玉と共鳴することで、そこまで進化したというのか────?
「俺にも原理は分からん……だが、これだけは言える。これは正しく『宝剣』に違いねぇ」
「お、おう……それはすげぇ。偶然の産物とはいえ最高じゃねぇか……ん?ということは……?」
────ステラの杖の強化は?
「嬢ちゃんの杖も強化出来たさ。たが、強力効力は半分近くに下がってる。兄ちゃんの思い描いた強化には程遠いだろうが……仕方ないことだ」
まだステラは感動のあまり目をキラキラさせて杖を見ている。実に幸せそうに。
……いざという時はフォローすればなんとかなるかな。
そう考え、「了解……」と店主に返した。
「……あと謝らなきゃいけねぇことがある」
「な、なんだよ改まってさ」
「実は……硬皮は防具に出来なかった」
なん……だと……?
「宝剣になっちまった短剣を抑える鞘にしちまったんだよ。普通の鞘じゃ、納刀した時に壊れちまうし……」
宝剣は、存在するだけでも効力があるものがある。
現に、この短剣もその一つになったのだろう。
その力を抑えるためには、それ相応のものを使用するしかない。
「なら大丈夫だ……でもなぁ……制服のままじゃなぁ」
この世界に来た時……それは登校中だった。
寝巻きと下着はシルフィが揃えたものを使っているが、普段着は揃えれなかったらしい(アルス様から借りたお金が足りなくなったらしい)。
これからクエストに行くにあたって防具なり服なり揃えないとやっていけないところもあるだろう。
せめて三着か……。
「店長、そこの黒のロングコートと半袖着、ロングタイプのズボンも売ってくれないか?三着あるなら三着で」
「え?あぁ……そういえば兄ちゃんのその服、珍しい素材だもんなぁ……まぁとりあえずは、武器代と衣服代だな」
「あ、あと革篭手と靴もな……てか揃いすぎだろこの店」
追加注文をした俺は店内を見渡す。
あちらこちらに武器もあり、冒険者用の衣服や防具、ポーションまでもが揃っていた。デパートかよ。
「兄ちゃん、支払い頼むよ」
「おう、いくらだ?」
「金貨五十枚……五十万セイクでどうだ?」
「うーむ……いざという時も考えて節制したいしな……少し安くならないか?」
「希望は?」
希望金額を聞かれると弱い。どうするか……。
「金貨四十枚、銀貨五十枚の……四十万五千セイクはどうだ?」
この手の駆け引きはどうも苦手だ。なんて言えばいいかよく分からない。
店長を顔を伺うと、
「ぬぅ……まぁいいだろう。四十万五千セイクな」
「よっし!」
まけさせることに成功した俺は小さくガッツポーズをする。
────これで、準備は完了だな。
支払いを終えた俺は、杖に見惚れていたステラを現実に引き戻し、店を後にした。
「凄いものを手に入れたわね……」
「確かにな。でもこれあいつ使うかな」
「え?あなたじゃないの?」
そう、この短剣は俺のためではないのだ。
シルフィのためである。
後方支援を主軸とするシルフィは、魔法攻撃以外もステータスが高いため、近接武器を持った方が安全性が高くなるのだ。
「シルフィのだよ……まぁ本人に聞いて見りゃいいことだ」
俺は、一度出した短剣を再び仕舞う。
シルフィに色々話聞かなくては。
「サーシャ、満更でもなかったようよ?」
「え!?そ、そうか……」
朝のことを思い出し思わず赤面してしまう。
「ふふっ」と笑うステラに続き、俺は苦笑いを浮かべる。
また、ゆるい空気か二人の間を流れる。
この世界に来てから、イベント大量発生で正直しんどかったが、ステラといるこの感じは不思議と癒しだった。
シルフィとは長くいるが、いわばこの世界に来たのも『仕事』というイメージが大きい。
だからなのかもしれない。
ステラとは、この世界で初対面から始まった繋がり。
もちろんサーシャやシャナも。
けれど全員でいる時と、ステラと二人でいる時は少し違う。
なんだか懐かしい────そんな感覚。
何故かは知らない。
でも、それが長く続けばいいなとは思う。
関係が崩れるフラグって思うやついる?あぁフラグだな。
そんなフラグが立ったなら……へし折るのみだ。
少しの誓いと、己が決意を胸に、宿舎に戻る────前に。
「悪ぃ、少し出掛けてくる」
「え?良いけど……」
────試したいことがある。
俺のこの能力の────真髄とやらを。
十九話です!
サブタイトルと内容が噛み合わない気がしてなりません。気をつけます。
次回『解放、ユニークスキル』




