マキシアへ
アルスの昔話を聞かされた斗真たちは何を思うか。
シャナの真意とステラの望み。
斗真はどうするのか。
「言わなくてよかったのか、依頼内容の詳細をさ」
機皇を創った張本神────アルス様が去った後、そう俺はシャナに問い掛けた。
────『当機の永久凍結もしくは破壊』
『始まりの機皇』が完全な停止を求めていることを、アルス様は知らない。
もう永遠に会えなくなるのだ。
アルス様が下界に降りてきた意味も薄れて────
「肯定。良いのです。創造神様は知らない方が」
俯きがちにシャナが答える。
アルス様に伝えたところで、止められるかもしれない。仮に止められなかったとしても、心に深い傷を負わせることになる。
「斗真……どうするの……?」
このクエストにはステラの望みである、シルフィへの『勲章の継承』が掛かっている。
ステラの望みを叶えるとすれば、受けなければならないだろう。
しかし、シャナの仲間を殺し、アルスの子供を殺すことになるこのクエストを即答で受けようとは思わなかった。
二律背反である。
俺が悩み詰めていると
「ただいま」
「ただ……いま」
買い物に行っていたサーシャと────ステラが帰ってきた。
「どう?話はまとまりそう?」
あえて二人には買い物に出てもらっていたが、さらに思い悩んでしまい、結果は出ていない。
そう伝えると、「そう。もう少しゆっくり考えてみたらどう」とブーメランギリギリな返答をされた。
「……ポーション……シルフィ用の……服とか……色々買ってきた……よ……?」
「あぁ……ありがとうな。二人とも」
二人の方は向かずに労いの言葉を掛ける。
「質問。主様。少しよろしいでしょうか」
「ん?あぁ」
「依頼内容を変更させることは可能か」
「んなわけねーだろ……ギルドで変更したら大事に────」
と言いかけたところで、頭に一つの解決方法がある。
このクエストの依頼主は紛れもなく────デウス・エクス・マキナ本人。
本人の意思を変えることに成功したならば?
それは依頼内容の変更も可能なのではないか?
そうすれば……ステラの望みも、シャナの想いも実現する。
ならばやることは一つ。
「デウス・エクス・マキナ……デウスの気を変えさせる」
「質問。具体的にはどうするつもりですか?」
「決めてない。会わないことにはこちらとしても何も出来ないからな」
デウスに会ってみて対策を考え……れないか。
ぶっつけ本番でどうにかするしかないようだな。
「ちなみにシャナはデウスについて何か知ってるよな?」
俺の質問にシャナは「肯定」と答えた。
しかし
「当機の情報はあくまでも戦闘兵装について。初代機の思考回路については情報はありません」
「つーことはやっぱりぶっつけ本番の駆け引きしかないな」
どうしたものか……。
「とりあえず方針自体は決まったようね」
「行く……の……?」
俺が悩んでると二人がそう声を掛けてきた。
「あぁ」
短くそう返答すると、シルフィが顔を顰めた。
「シルフィ?」
「……何かおかしい気がするの」
「は?何がおかしいんだよ」
俺が半ば呆れ顔でそう言うと、「なんとなく」と返ってきた。
「永久凍結もしくは破壊……デウスにとっての死を望んでるんだよね」
「そうなんじゃねーの?なんで今更……」
「じゃぁなんで自殺を選ばないの?」
「え?あ……」
確かにそうだ。自殺すれば一番早いではないか。
他殺を望むのは何故なんだ?その真意は?
ますます分からなくなってきた……
「んがぁぁぁぁぁ!!行ってみりゃ分かんだろ!!」
もう考えるのが面倒になり、叫ぶ。
「なにそれぇ……」
シルフィが半目で俺を見るが、どうしようもないのである。
情報がなければ対策も立てられない。
それだけでも動きづらいというのにこいつは……!
「行ってみたら分かるのね。なら行けばいいじゃない」
同じく半目で俺を見るステラ。
サーシャに至っては、特に変化はなかった。
シャナは────
「当機は……主様の指示に従うまで」
という頼もしい言葉をいただいた。
「……今日と明日くらい休んで、改めていつ行くか日程を立てよう。シャナ、マキシアの場所は分かるか?」
「肯定。しかし、最新の位置を把握するために一旦外に出る必要あります」
「了解。把握してきてくれるか?」
「了承」
そう言うとシャナはスタスタと外へ向かった。
バタンと扉を閉める音が部屋に響く。
────もうそろそろ聞いてもいいだろ。
「……なぁ、一つ質問いいか?」
「なによ……」
ステラがそう返事をする。
その言葉を聞き、ずっと疑問に思ってたことを、部屋にいる三人に聞く。
「人体改造────人間を別の種族に変えることは可能か?」
「バカ言ってんじゃないわよ!!」
ステラが叫ぶ。
「それは禁忌の考え方よ!?自分が何言ったか分かってるの!?」
本気でキレてるらしいステラは机を強く叩く。
「あぁ分かってる。だけどどうもその考えにしか辿り着かないんだ」
「……なんで?斗真はなんでそう思うの?」
至って冷静に、しかしどこか冷たい声音でシルフィが俺に対し質問する。
「なんかさぁ……どうしてもそうにしかなぁ」
「何がよ」
「シャナが人間にしか見えないってことだ」
シャナを見てると、普通の人間にしか見えない。
機械って聞くと、やはり機械音声と起伏の無い表情を思い描いてしまう。
しかし、シャナの声音には感情が感じられる。
それに加え表情も少なからずあるのだ。
さらに言うとすれば……デウスを助けたいと思う心の存在。
もし、人間の部分を残したまま機皇類になったとしたら────?
「……すまない、こんなことを考えるのはやめる」
「当然よ……もう言わないようにね」
ステラが冷たくも、優しい声音で呟く。
沈黙が四人を包む。
すると、不意に扉が開く。
「主様。現在のマキシアの位置情報を把握しました」
「……あぁ、ありがとう」
シャナから目を逸らしながらそう言う俺に対し、シャナは何も言わなかった。
「……今日と明日は休みましょう」
「そう……だね」
「装備……もう少し……整えなきゃ……」
装備との言葉を聞いて俺は翼竜と擬似竜で手に入れたドロップアイテムを思い出した。
「この街に有力な加工士いるか?ドロップアイテムを何か装備に……」
「したいのね。良いわ、紹介してあげる」
とステラ。
「その代わり明日一日、私と二人で行動してほしいの」
「ん?荷物持ちか?」
「……まぁそんなところね」
ステラは間を置いてそう答えた。心做しかというより普通にジト目で言われた。何故だ。
そんなやりとりをしていると、サーシャが少し膨れた顔をする。
「サーシャ?」
「別に……何も……ない」
そっぽ向かれた。何故だ。
「へぇ〜そうなんだぁ……」
何故か嬉しそうなシルフィ。何故だ。
なんだこいつらおかしい奴らだな。
「シャナ、明日はステラと二人で加工屋いくからさ、自由行動でいいぞ」
「了承。当機は兵装のチェックをしています」
「はいはい」
さて……何か色々とあるが、とりあえず目先のことを考えよう。
……イヤーな予感もするが、大丈夫だろう。
重い空気から一変して、ソフトな空気になったところで、俺の腹の虫が鳴く。
「あ……」
「ぷっ……」
シルフィが少し笑い、ステラが「しょうがないわねぇ」と呟き、サーシャが微笑み、シャナは首を傾げた。
三者三葉ならぬ四者四様である。
俺は苦笑いしながら「飯でも食いに行くか」言うと、四人は頷いた。
このメンバーなら、何が起ころうとも大丈夫な気がする。
そう感じさせるものを、見つけていた。
────マキシア。地下空間最深層。
一機の機皇類は再び願う。
もう終わらせてくれ────と。
サブタイトルと合ってないような気がするのは読者の方々だけではありません。僕もですから!
というわけで十六話です。
サブタイトルの意味としては『マキシアへ(向かうためには)』的な感じです。
試験勉強の合間にちょこちょこ書いてますので、少々遅れてる気が……否めません。
ステラとの二人きりのお出かけ(デートですかヤダー)ですが、どうなるのでしょうか?
次回『二人になった意味』
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