真価
力を出し切ってない────?
サーシャの言葉に動揺し、そして確信した斗真の力の『真価』とは────?
(斗真!?何してるの!?)
斗真は擬似竜へと、それはもうゆっくりと歩いていた。
自殺行為に等しい行為を、怖がることなく、むしろ笑っていた。
シルフィがよそ見をした瞬間、サポート魔法が途切れる。
「しまっ……!?」
サポート魔法を失ったシャナが擬似竜の翼爪に打たれ、吹き飛ばされる。
当たれば吹き飛ばされるため、移動速度を上げて避けるしかなかったのだ。
避けることを織り込んでシャナは攻撃していた。
そのための移動速度強化の魔法だった。
しかし、途切れてしまったことによりスローダウンしてしまったのだ。
「……マス……タ」
シャナは損害を受けすぎて立っているのもやっとな状況だった。
シルフィとステラの援護がない時に幾度となく吹き飛ばされ、その度に損害を受けていた。
腕の機械部の故障、右脚の膝下の破損。
数え切れないほどの傷を負っていた。
それでも尚闘おうとする。
主様のためにも……
しかし、もう機体は動けない。立っているのがやっとな状況で何が出来るか。
機皇類としての頭脳を巡らせ────
「シャナ、少し休んでろ」
────ようとして、斗真の声に遮られる。
「サーシャ、シャナを頼む」
黙って頷くサーシャは、斗真がやってのけたことと同じ、付与属性による移動でシャナの元へ急いだ。
「……シャナ……」
「……質問」
やっと回復しつつある声でサーシャに問う。
「主様は……何故休んでろと?」
当然の疑問だ。
今シャナが抜けることによって、戦力が落ちる。
近接攻撃を斗真が一手に引き受けることになるのだ。負担は倍増する。
自分の武器……『竜殺しの聖典』でも、斗真の持つ竜堕剣ですらも攻撃が通らなかった。
ならばどう攻略するのか。
「……トウマは……大丈夫……だって」
サーシャ呟くように続ける。
「……『強い』から」
シャナは────理解出来なかった。
出会って五日。なぜここまで信頼を寄せることが出来る。
戦いを見たのもこれで二回目のはず。
ならば尚更理解出来ない。信頼する意味が分からない。
シャナでさえ……完全に信じていないのだから。
「トウマは……もう……負けないよ……?」
シャナから目線を外し、いざという時のため盾を構えながら、尚も歩く斗真を見つめる。
────大丈夫、きっと
そう思いながら。
────あぁ……もう大丈夫だな。
俺は……強い。
何故なら力があるから。
それ以上に────自分の剣が強いから。
これこそチーターじゃね?と自嘲気味に苦笑いする。
ようやく気付いたのか、擬似竜が斗真の方を向く。
「グルルルル……」と低い唸り声を上げる。
それでも尚歩く。
その目には────絶対勝利への確信が見て取れた。
「グオォォォオオオアァァァァアア!!」
その目を見た瞬間、擬似竜は咆哮を上げ、そのまま口に炎を蓄える。
────ブレス攻撃だ。
「斗真!!逃げて!!」
シルフィが叫ぶが、斗真は歩き続ける。
距離がじわじわと詰められていく。
あと十数メートルで擬似竜の眼前に立てる距離。
既にブレス攻撃の必中距離である。避けるすべこそあるが、斗真はそれを使わない。
何故なら────
擬似竜の口から炎球が打ち出され、斗真へと迫る。
「斗真ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「トウマ!!」
シルフィとステラが叫ぶがもう遅いのだ。
当たる────はずだった。
「もうお前に勝機はねーよ……トカゲが」
────切り裂くからだ。
竜堕剣の一振りで、炎球は真っ二つに割れた。
サーシャとシャナは当たらないところにいたため無傷。シルフィとステラは、斗真の後ろ側にいたためこちらも無傷だった。
「……反撃開始だ」
斗真は一言そう言うと、足に付与属性を発動し、幾度となく使った移動をする。
場所は────擬似竜の翼。
一気に移動した斗真はその勢いのまま、擬似竜の翼に竜堕剣の袈裟斬りを繰り出す。
その斬撃は────裂いた。
斬ったところから振り抜けたところまで。それはもう、綺麗に。
先程までの通らなかった斬撃とは全く違って、今度は通ったのだ。
「グォォォオオオオオアアァァァァァ!?」
突然のことに擬似竜は吠える。
────あとは一方的だった。
翼を裂いた斗真は、地面に着地するとすぐに脚へと斬りかかった。
深々と引き裂かれたことにより、擬似竜が苦悶の雄叫びを上げる。
その雄叫びを聞き流しながらさらに斬りつける。
胸、翼、脚、尻尾、そして頭部。
数々の斬撃により、擬似竜は満身創痍になっていた。
反撃も許されない、一方的な攻撃。
斗真は擬似竜の背中を斬りつけ、そのまま擬似竜の眼前へ着地した。
「よぉトカゲ。どうだ?心地よかったか?」
背中を見せたまま擬似竜へと声を掛ける。
紛れもない────煽り。
言葉が通じるか分からないが、振り向いた斗真の表情からなんとなく分かったのだろう。
最後の一撃とも言える炎球を吐き出す。
しかし────それも引き裂かれる。
「これにて閉幕。じゃぁな。『竜』」
竜に成れなかった翼竜に、そう声を掛け、竜堕剣を振り上げる。
正真正銘、擬似竜への最後の一撃。
そりゃ……最高の攻撃じゃないと失礼だ。
そう思いながら、己が握る剣とともに力を解放する。
「『竜堕剣』────!!」
打ち出される剣撃は────エクスカリバーの時に見せた衝撃波に似ていた。
竜堕剣の力の解放。
その衝撃波がそれを物語っていた。
それを受ける擬似竜は────静かに瞼を閉じた。
死を覚悟した戦士と同じような行動。
迫りくる衝撃波に擬似竜はこう思った。
────竜と言ってくれてありがとう、と。
それが擬似竜の願いだったのだから。
そして擬似竜は────死に際に叶った願いとともに消失した。
緊急な擬似竜討伐戦はこれで終わった。
翼竜からの連戦により、斗真も疲れていた。
もちろん、サーシャやステラ、シルフィもだ。
シャナに関しては疲れの概念があるか分からないが、少し俯いている。
「……帰ろーぜ」
「さ、さんせーい」
斗真の言葉にシルフィが賛同し、サーシャとステラはコクリと頷く。
サーシャがシャナを背負い(かなり軽かった)、ほか三人は歩いて山を降りていった────。
十四話目です!
いつもよりかなり短い話になりました。
でもこれでいいと思います。
さて、次話はいつも通りの文章量になっていくと思いますが、気にしないだくださいね!
次回『擬似竜討伐の次に待ち受けていたもの』




