神器の継承者
斗真は走り出した。
目の前の敵を穿つために。
その先に待つのは挫折?それとも希望?
それ以外にあるのは────?
開幕直後、擬似竜は口から炎球を吐く────ブレス攻撃をしてきた。
「『水霊の防護陣』!!」
とっさにサーシャが前に出て、水霊による対炎特化の防護魔法を使った。
サーシャの魔法によって防がれた炎球は、水蒸気とともに消えていった。
ステラとシルフィは後ろに下がり、サーシャの背後からは斗真とシャナが飛び出し、竜堕剣と『竜殺しの聖典』を握り締め、走り出した。
「『付与属性・雷』!!」
斗真は自分の足に雷を付与し、体勢を低くして地面を高速で移動する。
高速で移動した先は────擬似竜の懐。
足に付与していた雷を、竜堕剣に移し、それに加えさらに付与属性の効果を大きくさせる。
「はぁぁぁ!!」
低体勢からの切り上げ。
翼竜の時は通った一撃は────擬似竜には通らなかった。
「んな!?」
擬似竜の硬い鱗に阻まれた竜堕剣は、大きく弾かれる。
反対側でもシャナの攻撃は弾かれていた。
「グォォォオオオアァァァァァァ!!」
擬似竜は咆哮し、懐に飛び込んでいた斗真を蹴り飛ばす。
その蹴りにより斗真は地面を数回バウンドし、壁に強く当たった。
「がはッ………」
肺の中の空気が一気に外に出る。
マモンの時とは違い、呼吸がしにくい。
「斗真!?」
シルフィの叫び声が聞こえる。
それでも割と軽傷だったのか、すぐに上体を起こすことが出来た。
シルフィたちの方を見ると、サテラが魔法を展開させていた。
「舞うは氷精……降り刺すは氷槍!!」
詠唱。魔法を元々の効力で発動することが出来るための文言。
普段ステラやサーシャ、シルフィが使うのは略唱と呼ばれ、効力も少しながら弱まっている。
中には略唱ながらも詠唱した時の効力を保てるという強者もいるらしい。
「極寒の境地に立ちし氷撃の槍!!」
ステラの発動させる魔法の魔力が上がっていく……気がする。
ぼんやりとだが、大きくなっていることを感じていた。
────そして魔法が完成し、辺りに冷気がたちこめる。
「貫け『氷迅衝槍撃』!!」
虚空より、巨大な氷槍が出現し、猛烈なスピードで擬似竜へと向かっていく。
方向は擬似竜の……腹部。
氷迅衝槍撃は、その魔法の強さ故に極大魔法として数えられるそれは、冷気を纏う氷の槍は、万物を貫くとしていた。
それを使うのが魔導師であるステラなら尚更その威力は高い。
────いける……?
そう思った。
俺はいけるんじゃないかと思った。
魔導師がどのくらい強くなれば与えられる勲章か分からないが、勲章持ちというだけでやはり強いのだろう。
ならば効果が絶対にある。
ほぼ確信した。してしまった。
────だからこそ、ショックが大きい。
ステラの極大魔法は、擬似竜の爪に────砕かれた。
「え……?」
マモンの時と同じように唖然とするステラ。
「そんな……だって……私…………」
────魔導師なのに。
「ステラぁ!!」
ステラは膝から崩れ落ち、ただ擬似竜を見つめた。
シャナがステラの異変に気づき、それを織り込んだ攻撃を繰り出す。
その中俺は壁際から走り出し、ステラの元へ急ぐ。
付与属性を駆使して、コンマ数秒で着かせた。
「ステラ!おいステラ!」
呆然としているステラの方を揺するが、反応がない。
────二度も己の魔法を打ち砕かれたせいで、心にきてる。
直感的にそう思った。
セインク時代でも、現実世界でもよくあったことだ。
その時に何をしようとも圧倒的な力で捩じ伏せられる感覚。今でも悔しい記憶しかない。
自分の最高点をはるかに上回る強さ。
人の心を折るにはそれで充分なのだ。
「ステラ……!!」
シルフィはステラの状況に気付くと、魔力の溜めを中途半端に切り上げ、斗真たちに「目を隠して!」と言うと、魔法を発動した。
「『神王の咆哮』!!」
雪男戦で見せた新編纂魔法。
雷が擬似竜へと向かい、目の前で爆ぜた。
膨大な閃光となって辺りを一瞬照らした。
編纂魔法の応用という、とんでもない所業である。
しかし、この時そのことを喜べるほど余裕はなかった。
「斗真!ステラは!?」
「……心折られたっぽい」
ぼうっとしているステラを見てシルフィは唇を噛み締めた。
するとシルフィはステラに近づき、
────パンッ
と甲高い音を立てて頬をはたいた。
「────」
「何勝手に折れてるの?まだ、終わってないでしょ!?私達に強さの理由を聞くんじゃなかったの!?」
────あんたもあの男も何者なのよ!!
ステラが叫んだ言葉には、強烈な渇望が隠れていた。
『強さ』という、自分に足りないものが。
「……分かってるわよ、そのくらい」
ステラは鋭い目線でシルフィを睨み、さらにいう。
「でも私の極大魔法ですら意味無いのよ!?こんなバケモノにどうすれば良いのよ!!教えなさいよ!!なんであんた達は強いのよ!!どうしてなのよ!!」
その叫びは、斗真へも向けられていた。
俺だって……同じだ。
気がつけばそう呟いていた。
「俺の剣技もあいつには通ってない……俺に何か足りないんだ」
俺は────弱い。
そう言ってるようなものだ。
ステラはその言葉を聞くとさらに叫ぶ。
「あんたが自分のことを弱いって言うのは勝手よ……けどね、その謙虚さは私には偽善にしか聞こえないわよ!!あんたの言ったことは『みんなで倒したから自分だけの功績じゃない』って言うのと同じなのよ!!」
より強い────渇望。
強さを望み、追いかけ……そして今挫折しかけている。
「……お前の言いたいことも分かる。だがな」
俺はステラを睨み返す。まるで昔の自分を憎むかのように。
「てめーの強さと俺の強さを一緒にすんじゃねぇ」
俺の強さは、高みを目指せる心の強さだ。
でもまだそれを手に入れた訳じゃねぇ。
そう言った。自分で。
ステラは、は?とでも言いたいかのように俺を見るが知ったこっちゃない……ない。
「俺らみたいに強くなりたい?アホなの?」
────マモンにしたように今度はステラを煽る。
「お前が俺になれるわけねーだろ。俺の強さを身に付けたところでお前の強さじゃねぇ」
「じゃぁどうしろっていうのよ……」
「決まってる」
真っ直ぐステラを見つめ、少し微笑む。
「『高みを目指せ』、だ」
ステラはもちろんサーシャもシルフィもシャナも知らない言語の言葉。
しかし、ステラには言いたいことが少しだけ分かった気がした。
「あんたは────」
「みんな……そろそろ……」
斗真たちが話してる間、ずっとサーシャとシャナが目くらましをしていたとはいえ、擬似竜の相手をしてくれていた。
負担も大きい、少し休んでもらうべきだ。
「もう一回目くらましをして総攻撃を仕掛けるよ!」
シルフィがそう言うと、ステラもスッと立ち上がり、杖を構える。
その目に絶望も、挫折もなかった。
それを見て安心した斗真は走り出す。
シルフィとステラの魔法がシャナをアシストし、攻撃してくれる。
「悪ぃ!!」
サーシャの横を通り抜けて行こうとしたその時
「待って」
「サーシャ……?」
俺は振り向き、サーシャを見る。
何か、気迫に満ちたサーシャと目が合う。
思わず慄いてしまう。
「トウマ……このままじゃ……負ける」
「────!!」
斗真も感じていた。
このままジリ貧で続けていても、勝ち目は無いということを。
たとえステラが立ち直っても状況が変わることはないということを。
表情に出さずとも、感じていたのだ。
それほどまでに擬似竜が強い。
「……分かんねぇだろ」
「……」
サーシャは首を横に振る。
「だって……」
「トウマ……自分の……力……発揮してない」
────は?
俺が?力を出し切ってないってのか?
「サーシャ、どういうことだ」
俺はサーシャを少し睨み、問う。
その睨みにも怖気づくことなくサーシャは言う
「剣筋見れば……分かる」
サーシャは斗真のもつ竜堕剣を指さし────
「トウマは……自分の技術だけで……どうにかしようとしてる…………剣を……信頼してない」
不意に、俺の中でなにかが落ちる音がした。
あぁ、そうか。俺に足りないものはそれか。
剣への絶対的信頼。
それがなかったんだ。
改めて竜堕剣の柄を握り締める。
────竜殺しの剣。その力を信じる。
あの擬似竜を倒すために、俺は
竜堕剣の力を借りる。
『剣技ってのはな……持ち手と剣の繋がりから生まれるものだ。決して持ち手の技術じゃない』
────ふと思い出した昔の記憶。
知っていたはずなのになぁ……
ここの世界に来て、思い出すことが多い気がする。
忘れ物を取りに帰るように、思い起こされる記憶の数々。
自然と、竜堕剣に話し掛けていた。
「……頼むぜ、竜堕剣……!!」
その言葉に呼応するかのように、竜堕剣は輝きを放つ。
不意に竜堕剣を持つ手が軽くなった気がした。
しかし、不思議には思わなかった。
きっと、俺と繋がったから……そう思える。
斗真は強く思い描く。
『高みを目指せ』と。
サーシャに笑いかけ、サーシャが笑い返す。
それで終わり。意味は通じたはずだ。
俺は擬似竜へと足を向ける。
────擬似竜を倒す方法を見つけたから。
十三話目です〜!!
機皇編のしょっぱなのクエストに機皇類の描写が少ないということに気付いた今日このごろ。
もちろん機皇編なので、機皇類もたくさん出しますよ?ほんとですよ?
さて、次回予告に移りたいと思います!
次回『真価』
活動報告も見てくれると嬉しいです!




