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擬似竜降臨

苦戦しつつも翼竜討伐に成功した斗真だったが、そこに新たな敵が────?


────物語は急である。

 翼竜(ワイバーン)はA級とされ、一般冒険者にはクエスト提示すらされていないモンスター。

 (ドラゴン)には及ばないものの、その強さは市民を震え上がらせる。

「あー……俺強いはずなのになぁ」

 セインクで行ったレイドが出来なかったとはいえ、弱点属性を忘れ、竜堕剣(バルムンク)を使ってですら効果的なダメージを与えれなかったことに斗真はため息をついた。

 よくよく考えれば、肉質まで把握していた筈なのだ。それをもとに、身体に染み付いていたセインクの戦い方が通じないわけがない。

 さらにいうと翼竜程度のモンスターは、斗真の実力やステータスではソロでも余裕があるくらいなのだ。

 それを、連携まで駆使して三十分程(・・・・)の戦闘。

 時間が掛かりすぎだ。

「くそっ…………強さはあるはずなのになぁ。セインクと何が違うのかな……」

主様(マスター)

 寝転がったままでいた俺の眼前に、機皇類────シャナが顔を出してきた。

「!?」

 思わず上体を起こしてしまい……シャナの額と俺の額がぶつかった。

「〜〜〜〜〜〜っ!!」

 ゴチンという擬音が見えるほどの衝撃。

 くっそ痛ぇ!!

 シャナはぶつかった衝撃で後ろに倒れ込んでいた。

 目をぱちくりとさせ、ぶつかったところを抑えて一言。

「主様。痛い」

「そりゃオアイコだ!!」

 あぁ……たんこぶでもできんじゃねぇのか……?

「つぅ……で、どうしたんだよ」

 俺はシャナに話し掛けてきた理由を聞いた。

「返答。ステラ達がここへ向かっていることを感知しました」

 俺たちが翼竜と戦い始めて約三十分。入口の洞窟からここまで走って五分程。

 ステラ達の実力なら既に戦闘は終わり、ここへ来てもおかしくない筈だったので問題はなかった。

「そうか……まぁ予定通りだろ」

 まだ痛む額を抑えながら俺は改めて翼竜が遺していったドロップアイテムを手に取り、見つめる。

 鋭く尖っている爪は、黒光りし、それでいて艶があってとても綺麗だった。

 翼竜を倒したと自覚させるアイテム。

 翼竜そのものはセインクで何回も倒したはずなのに……そのドロップアイテムみると、初めて倒した時のことが思い浮かぶ。

 あの時も喜んだものだ。

 そんな感傷に浸りながら翼竜の爪を見ていると、再び何かを検知したのか、シャナが入口方面の通路に目を向けていた。

「シャナ?」

 シャナはすっと立ち上がると、じぃっと見つめる。

「シャナ?どうしたんだよ」

「主様」

 シャナの声色は変わっていない。

 それなのに焦って聞こえてきたのは何故だろうか。

「報告。ステラ達が速度を上げてこちらに向かい始めた。あと三十秒程でここに到着する」

 速度を上げて?何か急ぎのことでもあるのか?

「主様。もう一つ報告が」

「ん?」

 シャナが上を────ドーム型の空間の天井部中央にある穴を見る。


謎の強力生命体(・・・・・・・)が接近中。詳細不明」


 なん……だって……?

 翼竜を検知した時、『翼竜』としか言わなかったシャナが……謎の強力生命体……?

 機皇類は感知能力が優れているとステラから聞いていた。

 しかし、その感知能力に長けている機皇類ですら『謎』と表現するにあたって、それは翼竜を凌駕する強さを持つ何か(・・)となる。

 シャナの言葉に唖然としていた時にステラたちが駆け込んできた。

「ステラ、お前た────」

 俺の言葉を遮るようにステラが叫ぶ。


「撤退よ!!擬似竜(デミ・ドラゴン)が来る!!」


 そう言い終えた瞬間────ドーム型空間の天井の中央部が崩れ落ちた。

 そこから現れたのは、黒い、竜に似た何か(・・・・)

 限りなく竜に近いそれは……しかし竜ではないような気がした。

 突如として現れたそれに呆然とする五人の中で、斗真がいち早く状況を把握した。

「……ステラ」

 先程撤退(・・)といったステラに声を掛ける。

「デミドラゴン……ってなんだよそれ」

「……翼竜の突然変異体よ」

 竜が舞い降りてくる中、ステラが簡略化した一つの伝説を話す。


 ────ある地方の伝記の中にこう書いてある。

 竜の下位互換とされていた翼竜は、ある日竜に戦いを挑んだ。

 しかし、下位互換である翼竜に勝ち目はなく、多くの翼竜が死に絶えた。

 しかし、ある翼竜が一頭の竜を倒したのだ。

 その翼竜は、倒した竜の血肉を喰らい、我が糧としようとした。

 喰らえば竜になれると思ったからである。


 結果……竜にはなれなかった。


 しかし、その翼竜は竜と互角に渡り合う強さを手に入れた。

 竜そのものになれずとも、翼竜は竜の如き強さを手に入れた。

 けれども翼竜はそれを嘆いた。

 なぜ竜になれない。どうしてなれない、と。

 翼竜は竜になりたかった。

 いくら竜と互角になろうと、竜ではない。

 翼竜なのだ。

 その翼竜は翼竜の名を捨てたいがために竜を喰らった。

 翼竜に倒された竜は、死に際にこう言ったという。


 ────貴様に竜の名は名乗れない、と。


『竜殺しの翼竜』というこの伝記は、伝記が書かれた地方の伝説を元に作られた本である。

 伝説は伝説。実在するのが怪しい。

 しかし、その翼竜は実在した(・・・・)

 それが目の前にいる擬似竜である。

「主様。もう一つ報告が出来ました」

 シャナが擬似竜を見つめたまま俺に話し掛けてきた。


「当機のこの兵装『竜殺しの聖典(ドランベイン・シュイスター)』は、擬似竜伝説を元に製造されたものです」


「なん……だと……?」

 シャナの言葉に俺と、他の三人も驚いた。

 シャナの『竜殺しの聖典』は、竜特化の兵装であるらしい。

 しかし、元になったものと戦う時、通じるのか(・・・・・)

「さらに、当機の『竜殺しの聖典』の出力は、オリジナルの四割と設定で設計されています」

 劣化コピーとオリジナル。

 どちらが強いかは明白だった。

「どうすれば……」

 シルフィの嘆きをよそに、ホバリングを終え、地面に静かに、しかしズン、と重量感のある音を響かせ、黒い、竜に似た何か────擬似竜が着地する。

 紅い双眸を五人に向け、圧倒的なプレッシャーと殺気を放っていた。

 マモンの時もプレッシャーはあったが、ここまで大きくなかった。

 そう思わせるほどの重圧が俺を襲っていた。

「……逃げられない……だから……」

 サーシャが少し震えながらも、己が武器を構える。


「闘わないと……!!」


 それを鼓舞と受け取った四人はそれぞれ武器を構える。

 擬似竜の眼に鋭さが増す。


 ────本当に勝てるのか?


 チーターであるはずの俺はそう思ってしまった。

 セインクでまだ、低レベルだった頃の、竜と対峙した時の記憶が思い起こされる。

 圧倒的恐怖心。

 それが斗真を蝕む。

 しかし、ここで逃げようにも擬似竜は逃さないだろう。

 そう思わせるほどに迫力がある。

(いけるか……いいや、やるしかないか)

 そう思った俺は、顕現したままの竜堕剣の柄を握り締める。

 手汗が少し気持ち悪いくらいに出てきた。

 でも……やるしかないのだ。


 逃げ道は────残されていないのだから。


 擬似竜が戦闘態勢に入った斗真達を見て、吠える。

 その咆哮は翼竜とは段違いに大きく、恐怖心を駆り立てる。


 そんな相手を前に斗真は走り出す。

 生き残るために。


 そして────斗真は知らない。



 己のユニークスキルの────真の力を。

十二話です!

更新は明日になるかなーと思っていたんですけど、いつもより少し短いのかすぐに書けました!

十三話は少し遅くなりそうです……。

十三話以降も活動報告に記したとおり、更新が遅れます。ご了承ください。

さて!擬似竜(デミ・ドラゴン)と遭遇した斗真たちの戦いの行方は!?


次回『神器の継承者(イリキ・ヴァイス)

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