翼竜と竜堕剣
斗真が呼び出したものは、竜殺しの大剣。
はたして目の前の化け物相手に通じるのか?
そして────ステラたちの激戦はどうなるのか?
雪男。ギルドではC級モンスターとして登録されている。
モンスターの強さで表した階級はSからEまで存在し、Eならスライム程度、Sなら魔王幹部レベルとされている。
C級モンスターである雪男は、A級と渡りあう勲章持ちにとっては雑魚に等しいモンスター。
しかし
「『火炎蓮華』!!」
雪男の胸から蓮の華のように咲く炎が現れ、燃やす。
燃やし尽くして焦げたそれはもう……動かない。
「っはぁ……何体いるのよ……」
────連戦となれば話は別である。
斗真たちが洞窟の奥へと走り出して既に十数分。
斗真のレールガンにより殺されたスノーマンの断末魔を聞き、集まった多くの雪男を倒してきたが、終わりがなかなか見えない。
既に数十体は倒したはずなのにだ。
「ステラ……っ……!!」
サーシャが何体目かの雪男を斬り伏せる。
斬られた雪男は思わず後ずさりする。
しかし、それだけでは倒れず再びサーシャを襲う。
「……っ……くぅ……!!」
雪男の右手がサーシャをめがけて振り下ろされるが、間一髪のところで盾が間に合った。
その衝撃で、足元の雪が抉れた。
背中に冷や汗が流れる。
まともに喰らえばただでは済まない。
「このままじゃ……ジリ貧……っ!!」
もう一度雪男に剣を向ける。
右下からの斬り上げを繰り出すと、それは傷が深くもう起き上がることは無かった。
「やば……魔力が……」
高威力魔法の連発で魔力の底が見えてきたステラは顔をしかめる。
サーシャも防護魔法を発動しており、それに加え付与属性による消費も重なっている。
あまり魔力量が多くないサーシャは、既に魔法を使う余裕が無くなっていた。
「どうすれば……」
嘆きにも似た声を漏らした時
「『氷柱結界』!!」
────視認していた雪男が全て氷の柱に閉じ込められた。
「え……?」
「ごめん!遅れた!」
これまでシルフィは魔力を溜めていた。
魔力を溜めることにより、魔法の効果範囲を拡大出来る。シルフィは『氷柱結界』の効果範囲を拡げることで雪男の群れ氷漬けにしたのだ。
(それにしても範囲が広すぎるわよ!)
そう────広すぎるのだ。
魔法の拡大、それは魔力の大量消費を意味する。
魔法の効果範囲を拡げるにあたって、それに比例するように魔力消費量も上がっていく。
この広さの『氷柱結界』になると、一般冒険者では一発で行動不能……いや、魔力の消失に等しい魔法による死亡も有り得る。
しかし、シルフィの顔を見る限りそんな素振りはない。むしろ平気そうにしている。
「もう一撃……!!」
さらに魔力を溜めるシルフィ。
ここまで来るともう魔力量は計り知れない。
(今度は何をするのよ!?)
今度の魔法はそんなに溜める必要はなかったのか、すぐに魔法を発動した。
「『神王の咆哮』!!」
聞いたことのない魔法
新魔法の編纂。
それは魔導師であるステラですら難しい所業だった。
「んなっ……!?」
天上の王の咆哮による雷は、凍り付く雪男を貫き、滅殺する。
断末魔すら許されなかった雪男たちは雷に焼かれ、塵となり雪の中に消えていった。
「……っ……流石にきついよ」
────唖然とするしかなかった。
流石にきつい……ですって……
「何者なのよ……シルフィ」
「……え?」
雪男が消し炭され、消えていった吹雪の中で、ステラは拳を握り締める。
「ステラ……?」
サーシャが心配そうに見つめる中、ステラは叫んだ。
「あなたもあの男も一体何者なのよ!!」
ステラの目には薄らとだが────確かに涙が浮かんでいた。
強くなりたい。強くならなきゃいけない。
そう決意したあの日を思い起こしながら。
「……っ!シャナ!」
「応答。了解」
斗真の手には、十字の黄金の柄の中央に蒼い宝玉が埋め込まれた大剣があった。
銘を『竜堕剣』。
翼竜の翼の爪による攻撃を、竜堕剣でパリィし、すかさずシャナがスイッチで斬りつける。
しかし、翼竜は怯むことなく二度目の攻撃を仕掛けてくる。
今度はシャナが『竜殺しの聖典』でパリィし、斗真が斬りつける。
防ぎつつ攻める。それを繰り返す。
だが、
「こいつ……硬すぎだろ!」
斬撃は通ってはいるが、浅い。
竜殺しの力を持つ竜堕剣ですら効果はあるが、薄い。
このままではジリ貧だ。
「シャナ!一旦退がるぞ!」
「応答。了承した」
二人は大きく後ろに飛び、翼竜から離れる。
「くそっ……なんで竜堕剣が効かないんだよ!」
竜特化のこの剣が通らないはずはない。そう思っていたのだが、現状をいえば効いてないに等しい。
他の神器に切り替えたところで、ダメージが大きくなるわけでもないだろう。
────俺はチーターなんだろ!?なんで……!!
焦りが俺を満たしていく。
チーターとしてこの世界に来て、この世界を救うために来て、そしてこのザマ。
「俺は何の為に来たんだよ……!!」
そう呟きを漏らしてしまう。
勝てる。その確信はある。
しかし、それを証明する確証がないのだ。
方法を知らない。どう倒せばいいのかを。
セインクではレイドパーティを組んで倒していたが、今は違う。たったの二人だ。
「グォォォォォオオオオオオ!!」
翼竜の咆哮。
焦りとそこから生まれた僅かな恐怖心が斗真を襲う。
どうするどうするどうするどうする!!
翼竜が二人に突進する。
「警告。主様右へ」
シャナの警告に慌てて足に力入れる。
「くっ……」
同時に横に飛び避ける。
その時
────チャリン
「────!」
ポケットの中にある銀貨の擦れる音が、俺の耳に鮮明に響く。
その音には気付かず、翼竜はシャナの方を向いていた。きっとタゲを取ってくれたのだろう。
俺は必要な道具類は揃えてから出発していた。
だから金は必要ないはずなのだ。
ならばなぜ、銀貨を意図的に持っている来たのか。
(レールガンのためだろうが!)
レールガン。正式名称は艦載電磁加速投射砲。
この世界の技術でどうやって実現するのか?
────魔法である。
(つまり……付与属性……!)
自分自身や衣類……そして武器に属性を文字通り付与させる魔法。
それなば────竜堕剣に付与させればいいではないか。
(セインクの翼竜の弱点属性は……)
セインクの知識を思い出しながら、魔法を発動する。
「『付与属性・雷』!!」
────雷である。
竜堕剣が雷を纏い、その電圧の高さからプラズマ化し、青白く光る。
(いける……!)
そう思った時にはもう走り出していた。
反対側ではシャナは、どうにか翼竜の攻撃を防いでいた。
「シャナ!」
そう呼ぶとシャナは、翼竜の爪による攻撃をパリィし、大きく背後に飛んだ。
斗真はさらに重ね掛けで靴に雷を付与する。
────魔法の二重展開。
それは高位の魔道士の分野であるもの。
それを斗真は冒険者の立場でやってのけた。
瞬間移動にも等しい雷を利用した移動方法。
発動直後には既に翼竜の懐に潜り込んでいた。
「竜堕剣────!!」
己が持つ大剣の銘を叫びながら斬りあげる。
大剣から迸る雷が、翼竜を貫く。
「ギャオオオオオアアアア!?」
「怯んだ!!」
斗真は初めて怯ませたことに喜びを隠せず声を上げた。
そして忘れてはならないのが……魔法は展開し続けているということだ。
すぐさま突破口を見せてくれた銀貨ポケットから取り出し、弾く。
雷を纏わせたままの竜堕剣を水平にし、銀貨が落ちてくるのを待つ。
「レールガンッ!!!」
落ちてきた銀貨が竜堕剣に当たった瞬間打ち出され、翼竜の翼に傷を与える。
しかし、銀貨では流石に耐久性に問題がある。
本来のレールガン……艦載電磁加速投射砲で使用される玉であれば、翼を貫くことも可能だったはずだ。
だが、属性によるダメージを与えることが出来たことは翼竜討伐の決め手となりうる。
「シャナ!」
再びシャナの名前を呼んだが、こちらの意図を察したのか、既に斬りかかっていた。
「申請。主様、擬似魔法の使用許可を」
デミマジック……?
とっさに英語で訳して理解し、頷く。
すぐに跳躍し、効果範囲と思しきところから脱する。
「感謝。当機は擬似魔法を構築する」
シャナの手に魔法陣が展開され、その魔力の高さを感じさせるように、ビリビリと空気が張り詰める。
「擬似魔法展開『破壊の黙示録』」
シャナの手から放たれた魔法は紛れもなく────超極大魔法だった。
シャナの魔法は、空間破壊に等しいエネルギーをもって翼竜の四分の一を消し飛ばした。
機皇類には負けてられない。
そう思っていた斗真は、付与属性をフルに展開、より一層の属性を竜堕剣に付与させていた。
「シャナ!離れろ!」
「応答。了解」
シャナが後退したのを確認したのち、溜めた力を解放する。
「消し飛べぇぇぇぇええええええ!!!」
竜堕剣から放たれた巨大な雷の奔流は残っていた翼竜の身体を────消し炭にした。
竜堕剣を振り抜いた体勢のままでいた俺は、その腕をようやく下ろした。
身体には疲労感が巡り巡っている。
「……ふぅ……疲れた……」
思わず腰を下ろしてしまう。
翼竜がいたところには、翼竜の鋭利な爪が残されていた。
この世界にもドロップアイテムというものが存在しているらしく、今回のような翼竜レベルのモンスターはほぼ確実に落ちるらしい。
「主様、お疲れ様です」
いつの間にか近くにいたのか、シャナが俺に激励の言葉を掛けてくれた。
「あぁ。シャナこそお疲れ様。ちょっと休憩して洞窟を出ようぜ」
「返答。了解致しました」
シャナは俺の隣に腰を下ろした。
……機械といえど……シャナには感情があるように感じる。
そんか事を考えながらシャナの顔をじっと見ていたら、シャナがこちらの視線に気付いたのか、不思議そうな顔をした。
「質問。なんですか?」
「……お前って結構表情の変化があるよな?」
とりあえず質問してみる。
「返答。そうでしょうか」
どうやら自分では気付かなかったというようにキョトンとしていた。
やはり変化は見られる。
「……まぁ、いいさ」
特に気にするようなことではない。
「しばらくしたらシルフィたちが来るだろ。それまで休憩……っと」
斗真はその場で寝そべり、ドーム型の空間の天井を見つめる。
────翼竜を倒せた。
その快感と高揚感に浸りながら、笑みを浮かべていた。
しかし、物語に休みなどないものだ。
いつだって急である。
このとき────遠方より来る、黒き翼竜が来ているのを、この時知るものはいなかった。
十一話です〜!!
最近寒さより暖かさが目立つ気候みたいで過ごしやすいです!
なるべく早く更新していきたいですね……!!
次回『擬似竜降臨』