目隠し
私には愛すべき旦那がいた。結婚して五年経つが、未だに彼の仕草に心が震える。つまりはラブラブだという事。ただ彼の双子の弟、あの人はどうにも苦手だった。顔はそっくりで違うのは髪型くらい。声もちょっと旦那の方が高いだけ。去年ぐらいから定期的に旦那が晩御飯に招いていた。私達の家に部外者がいること自体、少し嫌だったがこれも付き合い。割りきってもてなしていた。
ただ弟を招いて半年くらい経ってから違和感を覚え始めた。私の下着が少なくなっている気がした。いつも使っている物ではなくて、たまにしか使わない派手な下着。そう、営みの時にしか使わないような下着が無くなっていた。旦那に相談する訳にも、なんだか馬鹿らしいのと恥ずかしいので徐々に悩みの順位は下位に落ちていった。
ある日、旦那がセックスの時に目隠しをしてみないかと提案してきた。彼の愛撫に愛情は感じていたけど、マンネリを抱いていたのも事実。面白そうだと思い、提案を受け入れた。
効果は絶大だった。視覚が遮られる事で他の感覚は敏感になった。付き合った当初の初々しい感覚が甦り、いつも以上に私は濡れた。そんな私に応えるように旦那も、いつもより早く絶頂に達していた。
その日から私達の営みに、目隠しは必須になっていた。時々、旦那はビデオ撮影してもいいかなと提案してきた。付き合っていた頃からの性癖。私はもちろん、と答えた。相変わらず、私は濡れ身体が勝手に欲を求めて動いた。こんな事を言えば痴女に聞こえるかもしれないが、この行為のおかげで今でも熱いままでいられるのかもしれない。そのビデオさえ観なければ良かった、のかもしれない。
ある日の夜、私は行為の前にビデオを観たいと提案した。どんな風に自分が乱れているのか、興味があった。旦那は渋ったが、なかば強引にカメラを再生した。寝室の三十二インチの画面に目隠しの私が映る。恥ずかしくなり私の中が湿りだす。するとカメラが動きだす。
「えっ、どういう事?」
旦那に質問した。誰か違う人が撮影しているのか。
「実は弟に協力してもらっているんだ」
「協力? どうして?」
更に恥ずかしくなった。身内に、いや身内だからこそ見られたくないところを。
「なんで言ってくれなかったの? それより、いつのまに入ってきたの?」
混乱している私をよそに、画面の中の私は激しく乱れていた。寝室に私の喘ぎ声と罵声が響いていた。
「何か勘違いしてないかな? 君を抱いているのは弟だよ。射精までの速さで分からないかい?」
「……嘘」
画面の中で私を抱いているのは、確かに旦那の弟だった。よく見ると、髪型や身体の筋肉のつき具合が違う。
「嘘よ、嫌、いやぁぁ」
私は旦那よりも弟の身体で感じていたの? そんな、そんなのってない。
「最初の一回だけで止めるつもりだったけど、君の感じ方があまりにも違ったからさ。正直、弟のあいつには嫉妬してるよ。まあ、君が好きなようにしていいよ」
どうしたらいいのか、すぐには答えが出なかった。ただ、それは頭の中だけの話だった。
「お、弟さんを呼んで」
「大丈夫、君の事はよく分かっている。弟は僕だよ、義姉さん。今日は兄が出張でいないから晩御飯からずっと弟の僕だったよ」
ああ、私は違いにも気付かないまま一人の男を愛した気でいたんだ。
もう、欲に委ねよう。