消しゴム
授業中に声が聞こえた。
「はじめまして☆」
最後に星のマークがあったかどうかは定かじゃないが、俺にはそう聞こえた。
俺はそんな能天気な声の主を探した。辺りを見回していたら先生に注意をされた。それもそうだ。今は四月でもないし、そもそも授業中に挨拶してくる馬鹿は、この教室の生徒の中にはいない。
「はじめまして☆」
そいつは俺の目の前にいた。
「はじめまして☆僕消しゴムだよ」
信じられなかった。一週間オナ禁しているから、ついに禁断症状が出たんだと思った。小さな消しゴムが喋った。角がまるくなり、ケースもない丸裸の消しゴムが挨拶をしてきた。
「僕、消しゴム☆なんでも消すよ」
そんな芸名みたいに星マークを使うなよ。分かったから喋るな。ボソボソと俺は消しゴムに話しかけた。月に行った人間は何人かいるが、消しゴムと話した人間は多分俺だけ。帰ったら寝よう。そしたら悪い夢で終わる。そうだ。
「それじゃあ、今から小テストやるぞ〜」
え〜、とざわつく教室。けど俺にとっては大したことないハプニングだった。
「僕、消しゴム☆なんでも消しちゃうよ」
消しゴムが目の前で喋ってるんだから。
「じゃあ今から、授業時間終わるまでな〜」
先生の合図で始まった小テスト。
「僕、消しゴム☆なんでも消せるよ」
相変わらず喋ってる。
「名前、なんかしっくりこないな」
俺はバランスに気を使う。書道を習っているせいなのか、自分の名前ですらバランスよく書けるまで手直しをしてしまう。
「僕、消しゴム☆なんでも消しちゃうんだ」
「ちょっと文字のサイズが小さいかな、ほれ、お前の出番だぞ」
「僕、消しゴム☆人だって消せるんだ」
「どういう意味だ?」
まあ、いいや。早くしないと時間が無くなる。
「僕、消しゴム☆」
ゴシゴシ。
「存在なんかも消せるんだよ☆」
俺が聞いた最後の言葉だった。