なんでも揃うコンビニ
深夜のコンビニ。田舎な地元では、この時間の客数はほぼゼロと言っていい。たまに来るのは、頭がめでたい若い連中ばかり。まあ、いるだけで眠気が飛ぶから、ありがたくもあるんだが。
その日も夜の十二時を過ぎ、同僚が帰って独りになった。田舎だからと、深夜は一人で店番がうちの店長の方針。強盗が来たらどうするんだ、と思う時期もあったがそれは昔の話。隣の隣の隣の家のペットが死んだ話が、夕飯でのトップニュースになるくらいの田舎だった。
深夜では珍しく感じる入店音が店に響く。休憩室で休んでいた俺は、ちょっとレジに顔を出して「いらっしゃいませ」と形だけの仕事をこなした。
休憩室にあるカメラを覗くと、帽子をかぶって上下スウェットのおっさんくさい人が雑誌コーナーにいた。立ち読み客か? お金にならない客ほど迷惑な客はいない。しばらくして動かなかったら注意しよう、そう思いながら廃棄したプリンを食べていた。
腹を満たし、とりあえず店内で作業をしようと立った俺。なんとなく観たカメラで異変に気付く。立ち読みのおっさんは、本も持たずに微動だにしていなかった。立ち読みより質の悪い客なのか? 面倒な事にならなければいいんだが。禁煙中だが煙草が吸いたくなった。しかし、あのおっさん一人残して外に出るわけにもいかず、僅かな苛立ちを覚え始めていた。
その後、作業をしながら監視をしていたが、三十分、一時間と時間が過ぎてもおっさんは雑誌コーナーの前で立ちっぱなしだった。
次第に苛立ちよりも、もしかしたら何かの病気かな? という疑問が出てきて声をかける事にした。
「すいません、お客さん……ひぃっ!」
お客の顔を見て絶句してしまった。鼻と目がなくのッぺらぼうだったからだ。顔が無いその人は、驚いた俺の方を見て、口角を上げてにやりと笑った。
「お、お客さ……」
情けない事に腰が抜けそうだった。どうする事もできない俺にその人は、
「ああ、すいません。イタズラが過ぎましたね。今、仮面を取りますから」
仮面? イタズラ? とりあえず、目の前の人は普通じゃないけど普通の人なのか? 声は野太くやっぱりおっさんだなと確信した。おっさんは顎からべりべりと仮面を剥がしていく。俺は怒りよりも、安堵の方が大きかった。
「ちょ、ちょっとまて!」
仮面を剥がしていくと大量の血が流れてきた。本当に仮面、なのか?
「ほら、これでびっくりしないで済むでしょう?」
男は血が滴る顔の皮膚をぶら下げながら、また口角をにぃと上げて笑った。その口の上は、初めて見る顔の筋肉と異様に白く映える目玉だけだった。
「あ、い、いや、その」
もはや悪い夢であって欲しいと思うしかなかった。
「ああ、そういえば買い物をしに来たんでした。店員さん、すいませんが、『顔』という商品をご存知ありませんか?」
顔? そんな商品は分からない。フェイスパックの事か? いや、こいつの言う『顔』はそんなジョークの様な物じゃない。
「ああ、ありましたね、ここに。さすがはコンビニだ。なんでも揃っている。やっぱり来て良かったですよ」
そう言うと、男は言葉の上品さとは裏腹に、乱暴に俺の腕を抑えつけ押し倒してきた。倒れた俺の上にのし掛かり、両足で俺の腕を踏みつけていた。
「ちょ、ちょっと待っ」
顎に男の手が触れ、全身の血の気が引いた。まさか、俺の顔を剥がす気なのか? 想像は現実になった。ガッと爪が顎に刺さった瞬間から、俺は記憶がない。無くて良かったと思っている。
その後、早朝のお客さんに俺は見つかり病院に運ばれたそうだ。次に目が開いたのは病院のベッドの上だった。
顔には包帯が巻かれ、鏡を見るのが怖い。店長も見舞いに来てくれた。俺の顔が剥がされる様子が、ばっちりとカメラに映っていたらしい。レジの上には大量の現金と、店のごみ箱にはあの男が持っていた皮の仮面が捨てられていた。
警察はこの男の行方を捜しているらしい。事情聴取、なんてのも受けた。俺の提案で、俺の顔を元に捜査をしてくれる事になった。それ以来、俺の似顔絵が毎日ニュースで流れる様になった。嫌な気はしたが、多分あの男なら顔を変えて生きているだろう。仕方がない。
自分の顔に出会ったのは、それから一年後の事だった。そいつは、コンビニで働いていた。




