あの世でも乾杯
「マスター、水割りおかわり」
「もう、今夜は飲みすぎですよ」
「いいや、今夜は酔いたいんだ〜」
その時、肩をトントンと叩かれた気がした。
「あれ、マスター? 今誰かここにいた?」
他のお客はみな座っている。俺の目も据わってはいるが、まだ頭は正常のはずだ。
「いいえ、誰もいませんが」
マスターはお冷やを準備しながら、首を傾げた。おかしい。叩かれた時の感触はリアルだった。
「とりあえず、休憩を挟んでください。……そういえば、あなたの席でそういう話をよく聞きます」
見るからに冷たそうなグラスが目の前に置かれた。
「なんでも、見える人によればあなたの隣の席にはいるそうですよ」
「いるって、なにが?」
「霊ですよ、霊」
「な〜に〜!? 化けてまで飲み屋に出るとはよほど酒が好きなんだな。マスター、何か洒落たカクテル作ってよ」
「今日はもうお酒は控えた方が……」
「違うよ、見えないこいつに奢るんだよ」
「そうでしたか、でしたら私からも奢らせていただきます」
「ちょっと待ってろ、誰だか分からんけど。今日はとことん飲もうぜ!」
俺にはうっすらと、喜ぶ人影が見えた。
「こちらになります」
「マ、マスター、それって!?」
「はい、ソルティードッグになります」
「……マスターも鬼だな」
一週間後、店を訪れたら閉店のチラシが扉に貼ってあった。あんな非道い事するからだよ、マスター。




