ジコ物件
私の部屋は事故物件らしい。私自身霊やらオカルト的な話は特別気にしていないので、家賃が安くてとにかく助かっている。らしい、というのは事故、という感覚が無いからかもしれない。
たしかに、これまでに金縛りやら部屋で視線を感じる事はある。だがそれくらい。今までの住人は恐怖のためか、部屋の鍵を新調し、私の部屋の扉だけ異様な重厚感が漂っていた。しかも三つも。キーケースが多少重くなるくらいのデメリットはあったが、メリットの方が大きかったので喜んで受け入れていた。
「あれっ」
ある日、冷蔵庫に入れていた紙パックのオレンジジュースが軽い事に気が付いた。私は大のオレンジ好きで、果汁百パーセントのこの商品を切らさないようにしていた。朝が弱い私は、カフェインなんかよりもオレンジの酸味を味わう事で目を覚ましていた。しかし、今はコップ一杯分もない。昨日の夜、寝ぼけて飲んだかな? もしかして、幽霊が飲んだ、とか。他に飲み物がある中で、これを選ぶとは。私と気が合うかもしれない。そんなくだらない事を朝から考えていた。
「いってきます」
見えない何かがいる部屋に向かって、私は呟きながら出社した。
コンビニの袋を持ちながら、慣れた手付きで三つの鍵を開けていく。しかし、最後の一個は施錠していなかったのか、鍵がまわらなかった。たまにある、私の凡ミス。今朝の事もあり、私はこれもこの世ならざるものの仕業なのか。背中をつうっと冷たい汗が流れた。
「た、ただいま〜」
暗い室内にびびりながら、内側から鍵を一つかけた。三つかける必要性は無いと思っていたから。
部屋着に着替え、オレンジジュースを冷蔵庫に入れ、買ってきた惣菜をレンジで温めた。
しかし、台所が水びたしだった。基本的に料理をしないから、台所はいつも乾いている。蛇口からはポタポタと水滴が落ちていた。
何かがおかしい。
今まで、気にしていない私だったが、さすがにちょっと疲れてきた。
「キャアッ!」
部屋が真っ暗になった。レンジのせいでブレーカーが落ちたのかもしれない。
――ギィ、ギィ――
その時、フローリングの床が軋む音がした。出た! ついに現れたと思った。できることなら同姓の幽霊が良いなぁ、とかグロいのは勘弁したい、とか間の抜けた心配をしていた。
――ガチャッ、ガチャッ――
二回、金属音がした。玄関から。
私がブレーカーをあげる前に、パッと部屋に明かりが戻った。
「キッ……」
私は目の前にいたものに悲鳴すらあげれなかった。
幽霊?
今ではそっちの方が良かったなと思っている。




