次はない
「ごめん、悪かったって。二度とさせないよ!」
「二度と? 前回も同じような事言ったわ。次は何て言うのかしらね?」
「だから、もうさせないよ。安心してくれよ」
「いいえ! 安心できないわ! あなたの事だからどうせまた若い子にちょっかい出すんでしょ!」
「ちょ、やめ! やめ、うわあぁぁ」
――プチッ――
妻が降りおろしたハンマーで、私の意識は持っていかれた。今こうして生きているのは奇跡 なのかもしれない。昔から、運は良かった。小学校の時の席替えもくじ引きで、好きな女の子の隣を引き当てたり、高校の試験の日も俺が目的の駅に着いてから電車が故障したり。一昨年なんか、年末でたまたま買った宝くじで二等が当たり、そのお金で行った旅行中に妻と出逢った。互いに旅行好きと趣味が合い、恥ずかしながら私は妻が初めての女性だった。
三十手前で初を通り越して、世間知らずだった私に彼女は色々と教えてくれた。とにかく優しかった。比較する対象はいないし、比較する必要性も興味もわかなかった。
あれは過ちだった。気の迷い、とでも言えばいいのか。一回目の入院の時に、看護婦さんに下の世話をしてもらった時。妻がいるときは妻がやるのだが。とにかく、たまたま妻がいない時に、看護婦さんにしてもらった。不覚にも私の物が反応してしまった。看護婦さんは笑って流していたが、その現場を妻に見られてしまった。妻は激怒した。俺は下半身を露にしたまま妻に罵倒された。なかなか滑稽な話。色んな意味で、貴重な経験をさせてもらった。
些細な言い争いからの今回の入院は、記念すべきものとなった。晴れて玉無しになったのだ。これで性欲が無くなるのかはまだ分からない。少しトイレの時が不安だな。痛いのかな。銭湯は? まあ、元々他人と同じ湯に浸かるのは苦手だったからいいか。
あれ、そもそも最初に玉を潰されたのって、どんな理由だっけ?
そういえば、母親が封筒を置いて行ったけどなんだろ? 市役所の封筒みたいだけど。
「あら、あなた起きたの? なにかあったらワタシに言ってね」
「ありがとう。……林檎が食べたいな、ウサギさん」
「分かったわ。ちょっと買ってくるわね」
やっぱり優しいな。あっ、おしっこしたくなってきた。やばいやばい。
さすがに次は生きてないな。




