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第三話 エルフの髪は迂闊(うかつ)に褒めるな! 前編

「どうかな? みんな十一歳ってことで、年も同じみたいだし、やっぱりるり子ちゃんが生徒会長やったらいいんじゃ……」

 ってなことをるり子ちゃんに陳情に行ったところ、るり子ちゃんはつまらなそうにあくびなんかしていた。

 今日のるり子ちゃんは、純白のブラウスに黒のジャンパースカートをはいている。なんでも、この後、どこぞのお偉いさんと会談なのだとか。

「あっは、それは……、予想以上に他愛ない子たちみたいですね」

「いや、一応、魔法とか使えるみたいだし、他愛ないってこともないんじゃない?」

 カステヘルミは回復魔法しか使えないらしいけど、それでも一軍の司令官だって言うし、アスセナは精霊を使役できるらしいし、ニノンにいたっては、そもそも剣を下げている。

 少なくとも、一般人ではないと思うけど……。

「んー、ツグルお兄さんは、核ミサイルのボタンを握ってるホワイトハウスの長にるり子が負けると思ってるんですか?」

 きょとん、と小首をかしげて、るり子ちゃんは言った。

「いや、まぁ、思わないけど」

「そう言うことです。しょせん道具は道具、技は技。生物としての強さを決めるのはそういうものではないのです」

「んー、なんかわかるような、わからないような。っていうか、なんか、上手く誤魔化された気がするんだけど……」

「あっは、だから、それこそが生物としての強さですよ、ツグルお兄さん」

 可愛らしくウィンクしてから、るり子ちゃんは、ああ、思い出した、とばかりに手を打った。

「そうでした、忘れてましたけど、早急に生徒会で何か目に見える形で活動をしていただけますか?」

「目に見える活動っていうと?」

「つまりですね、るり子は生徒会ですべきことは将来ヴィジョンの可能な限りの共有と各種族間の協力の形を模索することだと思うのですが、その実権を握るためには各世界の首脳に目に見える形で活動実態を示しておく必要があるんですよ」

「ああ、なるほど」

 この四葉学園生徒会が有用なものであることを内外に示す必要があるということか。

各種族の子弟が手をとり合い、一つの活動を行う。そういった友好的な姿を実績として示していった後にこそ、将来のことを決めるといった段階が訪れる。そのために、必要な、いわば下積みのようなものだ。

「まっ、ぶっちゃけカモフラージュですけどね、あっは」

 黒い笑みを浮かべて、るり子ちゃんが笑う。

「……相も変わらずお腹まっ黒なんだね」

「そんなことありませんよ? 見てみますか?」

 そう言って、ちらっとブラウスをたくしあげるるり子ちゃん。

 白く柔らかそうなお腹の真ん中、ちょこんと可愛らしいおへそが見え隠れする。微かに浮いたあばら骨は、さながら腕のいい職人の手によって作られた櫛のように美しい。

 なるほど黒くない。っていうか、肌すごいきれいだな。すべすべつやつやで、あのおへそなんか舐めたら甘い味がしそうなぐらいの……んっ?

「……なるほど、お兄さんは十一歳の女の子のおへそに見惚れる方でしたか」

 心なしか体を引きつつ、るり子ちゃんがつぶやいた。

「ハ、ハハハ……、ナニイッテルンダイ! イヤダナ……、オレハタダ、ホントニクロイカドウカ、カクニンシヨウトシタダケデ……」

「片言になってますよ。そんな舐めるように見つめておきながら言いわけなんて、見苦しいです、お兄さん」

 るり子ちゃんは、ジトっと上目づかいに俺を見つめて、

「舐めるようにっていうか、むしろ、舐めたいとか思いませんでしたか?」

「とんだ読心術だよっ……っ! しまった、つい本音……、じゃない、言い間違いっ! 今のはとんだ誤解だよ! って、言おうとしたんであって、けっして……なにしてんの?」

 るり子ちゃんは、片手に受話器を持ったまま、小さく首をかしげた。

「いえ、わりとリアルにいろいろな危機を感じたので、警察と陽菜子ちゃんとどっちに先に連絡すべきかと……」

「のーぉう! ちょっと待った。そ、そんなことしたら、生徒会長がいなっちゃうよ!」

 俺の言葉にるり子ちゃん、朝顔が開いたような可愛らしい笑顔を浮かべて、

「あっは! では、続けていただけるのですね、生徒会長。さすがはツグルお兄さんです」

 ……なんか、一生るり子ちゃんに勝てないような気がする。

ああ、なるほど、つまり、これが生物的な強さか。


 学長室を辞して、少ししたところで、俺はふと気づく。

「あれ? なんか、ちょっとにぎやかだな。エルフの校舎の方か……」

 ここで、少し四葉学園のことを説明しておこうと思う。

 総生徒数は一二〇〇名。各種族から平均して三〇〇名ずつの生徒が通っている。

 校舎は五つ。生徒会や学長室、職員室など全種族が必要とする教室が集まる中央校舎、俺たち人間族の集まる北校舎、魔族の集まる東校舎、ドワーフの集まる南校舎にエルフの集まる西校舎だ。

 今、俺がいる中央校舎を中心にして、ちょうど四葉のクローバーのように四つの校舎が並んでいる形である。

 建設当初は全種族を均等にしてクラス編成をすべきとの声もあったらしいが、無用の軋轢を生むよりは徐々に慣れさせていくべき、との意見が勝ったらしい。

 それ自体は、まぁ、悪い判断ではないと思うんだけど……。

「入りにくさはどうにもならないなぁ」

 他種族の校舎に入りにくいという弊害も生みだしていた。ちょうど、他学年の教室に入りにくいのと同じような感じで。

まして校舎の作り上、自分のところの校舎と中央校舎以外に入らなくても生活できるように設計されてしまっているので、自然、各種族間の距離はなかなかに縮まらない。

「その辺りは追い追いなんとかしないとなぁ」

 俺は小さくため息を吐いて、西校舎に足を踏み入れた。

 ま、別に入っていけないわけじゃないし、相手も言葉が通じる以上はさほど問題ないだろう。

「それにしても、空気が悪い世界ね。鼻が曲がっちゃいそう」

「本当、私なんか、風の妖精に常にシールド張ってもらってるわ……あっ」

 廊下を歩く俺の姿を見て、会話を止めるエルフの学生。ほんの少し後ずさり、俺から距離を置こうとする。

それは悪意のない、純粋な戸惑いから来るもの。未知のものに対しては誰しも抱くような他愛のないものだ。

まぁ、その反応は当たり前のことなのかもしれないけど……。

「やっぱり、趣味じゃないな」

 るり子ちゃんは難しいことを言ってたけど、俺としては、むしろ、この各種族ごとの間にある壁を取り払うこと、あるいは、それを可能な限り薄くすることこそ、一番に考えるべき課題だと思っている。こんな状態では、各種族の未来がどうだのと言ったことは考えていられないだろう。

 とはいえ、実際にどうすればいいのかなんて、わからないんだけどさ。

「とりあえず、アスセナを探すか。確か、アスセナのいる教室は三階だったかな」

 ところで、人間の場合、初等部から高等部まで年齢による学年分けが行われているが、他の種族の場合はその辺りが曖昧だ。

 というか、そもそも通っている者の年齢が実にアバウトだ。数百年単位で寿命があるとそうなってしまうのかもしれないが、エルフ族の最年長者は五十歳だそうだ。

 ちなみに、うちの母親より年上だ……。

 それでもまぁ、人生五百年として計算すると、十分の一。人間で言うと八歳ぐらい?

 まぁ、実際、彼らは十代後半ぐらいまでは人間と同じような成長をして、以降、老化が極めて緩やかになるというから、同じ感覚では語れないだろうけど。

 そんなエルフの中であっても、アスセナは一際小さい方だった。他のエルフに比べて頭一つ半は小さい彼女を探すのはなかなかに大変な作業なわけで、だから……、

「…………と、言ってるではありませんかっ?」

 その声が聞こえてきたのはラッキーなことだった。

 廊下の外れ、小さなエルフの女の子が数名の少女たちに囲まれているのが見えた。

 言わずもがなアスセナなんだけど……、なんか今日はすごい華やかな格好をしてるな。

「いくら族長の娘だからって、そんな言い方はないでしょう?」

 アスセナをとり囲んでいるのは、見た目、俺と同い年か少し上ぐらい。相手がエルフなので詳しくはわからないけど、アスセナよりは確実に年上っぽい。

 そんなことお構いなし、とばかりに、アスセナは声を張る。

「あなたたちに関係がありまして? 他人の価値観を否定する権利など、どこのどなたにもございませんのよ?」

 その言葉で、場の温度が一気に下がったような気がした。

 怒りを堪えるかのように、頬をひくひくさせているエルフの少女。取っ組み合いのけんかに発展しても不思議ではないぐらい雰囲気が悪い。

 これは、一応、止めに入っといた方がいいんだろうな……。

「アスセナ、ちょっといいかな?」

「っ? あっ、ああ、ツグルさま」

 俺に気が付いたアスセナは、打って変わって表情を和らげた。

「ごめん、ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

「構いませんわ。これから、生徒会でしょう? お供いたしますわ」

 そう言うと、アスセナは両手で俺の腕に抱きついてきた。まるで、エルフの少女たちに見せつけるように。

「あっ、えっと、すみません、そういうわけですから、ちょっとアスセナ借りていきます」

 そう言ってやると、エルフの少女は、ぷいっと顔をそむけてしまった。まぁ、ケンカしようって相手を横からかっさらわれたら、あんな反応にもなるだろう。

「なにか、もめごとだったの?」

「いいえ、大したことじゃありませんわ」

 アスセナは頬をほころばせて言った。

「それより、ツグルさま、今日のわたくしの格好、どうです?」

 両手を後ろで結んで、一歩後ろに下がるアスセナ。

 そうそう、それも聞こうと思ってたんだ。

「いや、可愛いことは可愛いと思うんだけど、どうしたの、それ?」

 一言で言ってしまうと、彼女が着ていたのは浴衣だった。それも、丈の短いカジュアルなやつだ。

 涼しげな水色の生地に色とりどりの金魚が楽しげに泳いでいる。

 短めの丈の下、むき出しになった華奢な太ももが白くきらめいていた。

小さな素足にはアクティブなスポーツサンダルを合わせていて、今からでもお祭りに繰り出せそうな雰囲気だ。

それにしても、サラサラの金髪と浴衣が実によく似合っていて、少しだけ意外な感じもするな。

「昨日、カジュアルなものをと言って取り寄せたんですけど……」

 ……なるほど、カジュアルなのって言って洋服屋じゃなくって、浴衣の専門店とかから取り寄せたのね。

 まぁ、確かにカジュアルはカジュアルだよな。浴衣にしては、だけど。

「でも、よくわからなくって、えと……、なにか、おかしいですの?」

 そわそわ、不安げに見上げてくる。どうやら、俺の反応が微妙だと気づいたらしい。

「いや、まぁ、似合ってはいると思うけどね、その服は浴衣って言って、お祭りとかの時にしか着ないんだ」

「むぅ……、そうなんですの?」

 改めて、自分の服を見ていたアスセナは、

「オシャレって難しいですわ」

 しょぼーん、と肩を落とした。

 あー、たぶん、カステヘルミに言われたことを気にしてるんだろうな……。

 昨日、さんざん、田舎っぽいとか言われてたからなぁ。ファッションという概念がない世界であっても、女の子は女の子。意地があるということなのかもしれない。などと考えつつ、俺は話を変えた。

「ところでさ、なんかエルフの人たち、ちょっとにぎやかじゃなかった?」

「えっ、あ、ええ……。そうですわね」

 微妙に言いよどみ、アスセナは目を逸らす。

「? なにかあるの?」

 重ねて聞くと、しぶしぶといった様子で答えてくれた。

「……草樹祭、エルフ族の大きなお祭りの一つですわ」

「へぇ、お祭りか」

「神がわたくしたちの世界に木に姿を変えた子神、すなわち世界樹をもたらしたことを祝う祭りで、一週間ぐらい続きますの」

「なるほど、それでみんなあんなに楽しそうだったのか」

 つまり、エルフ族のクリスマスみたいなものか。

「あれ? 待てよ……、お祭り、お祭りねぇ」

 それはいいかもしれない。

 頭の中に、るり子ちゃんの言葉が思い浮かぶ。

 目に見える生徒会の活動、お祭りなんか、もってこいなんじゃないか?

「アスセナ、生徒会室に急ごう」

「えっ、あっ、ちょっと……」

 俺はアスセナを急かして、生徒会室に向かった。


「これは、アスセナさま。今日は、お派手な服装で……」

 生徒会室にはアンネリースさんとニノンが待っていた。

「これから、お祭りにでも行かれるのですか?」

 きょとり、と首を傾げて、アンネリースさんが聞いてくる。

 サラサラの黒髪がふわり、と揺れ、甘美な香りが辺りに漂う。

「いや、実は……」

「そっ、そうですの! これから、お祭りに行くので準備しましたの!」

 胸を張って言いきるアスセナ。嘘を隠すために意識的に堂々としてるんだろうけど、逆にその態度が怪しい雰囲気を醸し出しているような……。

「ああ、もしかして、それって近くでやってるっていう桜祭りのことですか?」

 ニノンがストローでお茶をすすりながら言った。

「なんでも、近くの商店街主催でやっていると聞いていたので、行ってみたいとは思っていたのですが……」

「あー、確かにそんな季節だったなぁ。でも、あのお祭りは……」

「そうですのっ! 実はそこのお祭りに行く予定なんですの。ツグルさまと……」

 一つウソを吐くと、取り繕うために雪だるま式にウソが増えていく。

 後に引けないアスセナはあろうことか、そんなことまで言い出した。

 それでアスセナのプライドが守れるんだったら、いいんだけどさ。

「まぁ、それはそれとして、今日みんなに相談したいのは、そのお祭りのことなんだけど……、えっとアンネリースさん、カステヘルミは?」

「姫さまは本日、第六軍団の式典のために早退いたしました。会議には私が代理として出させていただきます」

「ほほう、魔王の娘はお休みですか」

 突然、渋い声が教室内に響いた。直後、アスセナの背後にびょう、と強風に運ばれるようにして、半透明の紳士の姿が浮かび上がる。

「ふふん、ならば一安心。こうして姿をさらせるというものだ」

……カステヘルミが怖くって隠れてたのか、エア精霊。

「っていうか、カステヘルミは回復魔法しか使えないんだろ? 別に魔法喰らっても平気なんじゃないのか?」

 現に、魔法を喰らったアスセナはピンピンしてるし。

「貴公はなにもわかっておられぬようだ」

 やれやれ、と首を振り、シルフは憐れむような目で俺を見た。

「……どういう意味だよ?」

 確かに魔法とか魔法生命体とか知らないけどさ。そんな目で見られるのはなんかちょっと納得がいかない。

「我ら魔法の影響を受けやすい魔法生命体は、魔力の塊をぶつけられただけで、消し飛ばされるのだ」

「消し飛ばされる? けどさ、風の精霊だったら、すぐ元に戻れるだろう?」

 そう指摘すると、シルフはふふん、と口髭をいじりながら、鼻を鳴らした。

「やはりわかっておられぬな。例え元に戻るからと言って、体を吹き飛ばされたい生き物など、存在すると思いますかな?」

「まぁ、それはそうかもしれないけど……。まぁ、いいや。それで話を戻すけど、実はさっき、学長から直々の要請があってね」

 俺はるり子ちゃんから言われたことを、ざっと説明する。

無論、不適切な部分は三重ぐらいにしたオブラートに包んで、である。

「なるほど……、そんなことがございましたの」

 アスセナは納得した様子で頷いた。

「まさか、ツグルさまが女の子のおへそが好きだったなんて……」

 浴衣の前の部分を開いて、お腹が出せないか試行錯誤しているアスセナ……って!

「どんだけいんだよっ! 読心術の使い手」

 るり子ちゃんだけじゃなく、アスセナまで。

「いえいえ、実は私がこっそり見張っておりました」

 半透明の紳士がえらそうに腕組みしていた。

「てめぇかっ! エア精霊っ!」

「情報収集は戦略の基本ですよ、会長殿、がっはは!」

 こっ、いっ、つっ……、カステヘルミに恐れをなして逃げだしたくせに……。

「それにしても、なるほど、学長という方も、どうやら侮れない方のようですね。きちんと将来を見据えた戦略的視点でやるべきことを見据えている。さすがは、この学園を設立された方、ということでしょうか」

 アンネリースさんが感心したように言った。

「でも、お祭りをするのはいいですが、お祭りって言うからにはなにかの記念とかそう言うのがないとだめなのではありませんか?」

 がしゃり、と音を立てて、首を傾げたのはニノンだった。

「んー、それなんだけどね、ちょうどエルフ族の大きなお祭りがもうすぐあるらしくって、それを学校内でも協力してやってみようって思ってるんだ」

「あのっ! ツグルさま!」

 その時、アスセナが意を決したように手を上げた。長いひらひらした袖口が翻り、少女の体をあでやかな空気が包みこむ。

「どうかしたの? アスセナ」

「はい、あの、大きなお祭りとは言っても大したことはないんですのよ? 本当です。ですから、この学校でやるなんて、とてもではありませんが……」

 浴衣の裾をギュッと掴み、うつむいてしまう。なんだか、少し様子がおかしい気がする。

「そういうことでしたら、微力ながら、魔族の側でも何かしらの技術提供が可能かと……」

 そう言うと、アンネリースさんは優雅に手の平を天井に向けた。しなやかな指先が愛撫するように空気を撫でる、と、次の瞬間、バチバチと空間がスパークした。

まるで、それは雷で作ったボールで遊んでいるような姿だった。

「ふむ、雷の呪文。レベルもなかなか」

 などと感心する大気の精霊シルフ。どうやら、精霊界の重鎮を唸らせるぐらいにすごい魔法らしい。いや、まぁ、こいつが精霊界の重鎮ということがそもそも信じられないんだけど、四大元素精霊とか言ってるしな。

「このように魔法の実演も可能ですし、場合によっては我が魔王軍が誇る空中戦艦の派遣も可能です。無論、姫さまの許可が得られれば、ですが」

 ……ド派手な提案をしてくれるアンネリースさん。いやいや、普通の学校でやるお祭りなんだけどな……。

「ドワーフ族もそれで問題ないかと思います。なんでしたら、一日鍛冶屋体験教室でも開きましょうか? こちらの世界にはない金属も何種類か持ってくることも可能ですよ?」

 ニノンの方はと言えば、かなり現実的なラインで提案をしてくれた。確かにそれならば実際にできるだろうし、やったらかなり盛り上がるだろう。主に製鉄関係の会社の人からは相当ありがたがられる気がしないではない。

 しかし……、

「いや、そのことなんだけどね、今回はそこまで大がかりにしないで、エルフ族のお祭りを手伝うだけにしたいんだ」

「えっ? どうしてですか?」

 ニノンがきょとりん、と首を傾げた。

「んー、確かに、各種族自慢の技術を展示なりして、技術提携なんかも試みるとすると、ものすごく注目を集めるイベントになると思うんだ。各世界のトップへの実績のアピールとしてはそれでいいと思うよ」

 魔族の魔法技術に、ドワーフの金属技術。見栄えはするし、注目も集めるだろう。

「でも、それをするのは、まだ早いんじゃないかと思うんだ。俺たちはまだ、お互いのことをほとんどわかってないだろう。だから……」

「なるほど。つまり、一番の目的はボクたちの親睦を図ることということですか……」

 がしゃり、と音を立て、ニノンが首を傾げた。うん、さすがに代表というだけあって、この子もなかなか察しがいい。

「そういうこと。だからむしろ、エルフの人には学校でお祭りを披露してもらう、俺たちはそれにお邪魔させてもらうぐらいの気持ちでやったらいいと思うんだ」

 互いの技術や文化を合わせて、一つの物を作り上げていくこと。

 それは素晴らしいことではあるんだろうけど、やるにはまだ時期尚早って気がする。

 せめて一年、この学校で生活してみて、異種族の文化に接した後ですべきことなんじゃないか、って思うんだ。

「なるほど、殿ヶ池様のお考えはよくわかりました。恐らく姫さまも反対はしないと思います。ですが、一応、この件については持ちかえって検討させていただきます」

「ドワーフ族もです。一応、父に許可をとらなければならないでしょうけれど、特に問題はないと思います」

「そうだね。でも、お祭りまでは日がないから、早めに相談してみてね……っていうか、その前に、アスセナはどうかな?」

「えっ、あの、わたくしは……」

 アスセナはひどく気が進まなそうな顔をしたけど、俺の方を見上げて、

「まぁ、仕方ありませんわね……」

 小さくため息を吐くのだった。

明日は日曜日なので、お休み。また月曜日からの投稿になります。

ということで、後編もセットで投稿します。

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