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第二話 注) 生徒会は託児所ではありません

 と、まぁ、そんな経緯で、厄介な仕事を押し付けられてしまったわけだが、やると決まったからには頑張らなければならない。

「まぁ、異種族といっても、相手も感情をもった人間なんだし、話し合えば大抵のことはなんとかなる……はずだ」

 これが同じ人型でもいきなり襲いかかってくるゾンビとかが相手だったら、話し合おうなんて気にならなかっただろうけど、相手は会話が通じるわけだしな。

 よしっと俺は気合いを入れる。

 それに、るり子ちゃんだって、きっとあの信頼してるって言葉の中には本音が混じってるに違いない。

 きっとそうだ! たぶん、恐らく……、一割、いや、一分? いやいや、一厘ぐらいならば、きっと……。そう思うことにしないと、心が折れてしまいそうだしな。

 ともかく、その信頼にだって、答えないわけにはいかない。

 よーし、っと気合いを入れて、俺は生徒会室へと乗り込んだ。

「って、まだ誰も来てないのか……」

 中央校舎の五階奥、学院で最も高く、奥まった場所に生徒会室はあった。

 重たい木の扉を開くと、そこには、重厚なデザインの円卓が置かれていた。

「今日は第一回の話し合いが持たれるってことだったけど……」

 生徒会は基本的に、四種族の代表者一名ずつで構成される。

今後のことを決めるのは、もちろんだが、当面はこの学院で持ち上がった問題を解決して行くのが仕事である。

「にしても、ちょっと眠いな。人が来る前に少し寝ておこうかな」

 春の日の午後、ポカポカした南向きの教室は、昼寝をするには格好の場所である。

 俺はそのまま、円卓に突っ伏して、目をとじた。

 ……どれぐらい、時が経っただろうか?

 ふいに、俺の鼻先に、心地よい花の香りが漂ってきた。

 これは……なんの匂いだろう?

 おずおずと目を開けると、白く美しい太ももが目の前に見えた。

 珠のようなすべらかな肌は、うっすら輝きを放っているかのように美しかった。幼さを残した膝小僧、ふっくらマシュマロのように柔らかげなふくらはぎと、華奢な足首、木を編みこんで作った靴に収まっていたのは、可愛らしい小さな素足だ。

 ちょっこりした指の先では透きとおった爪が美しく輝いていた。

 思わず、そのまま見惚れてしまいそうになった俺は、慌てて視線を上げた。

 机の上に、ちょこんと腰かけていたのは小さな女の子だった。年の頃は十代の前半。うちの妹とそう変わらないように見える。

 木の葉で作ったような緑色のドレスを身につけた少女は、妖精と見まごうばかりに、なんとも可愛らしかった。

 肩のあたりまで伸ばした金髪は絹糸のごとく繊細で、風に揺れるたびにキラキラ輝きを放っていた。

 その髪をかきわけるようにして、つん、と尖った耳が飛びだしていた。

 ――エルフ?

 それは紛れもない、第一の異世界、大森林の住人たるエルフ族の特徴だった。

 ってことは、この子がエルフの代表だろうか? まだ小学生ぐらいに見えるけど……、でも、エルフの人は長生きだって聞くから、見た目では判断できないか。

「まぁ、他愛ない男っぽくてなによりですわ。ねぇ、シルフ」

 思わずずっこける。

 ――いやいや、他愛ないって、るり子ちゃんと同じこと言ってんじゃん……、俺ってそんなに他愛ないのか?

 深刻な悩みに陥りそうになりつつも思う。

 ――それにしても、彼女、誰と話してるんだ?

「これならば、手玉に取るのなんかちょろいもんですわ……あら?」

 大きな瞳を可愛らしくぱちぱちさせて、少女が俺の顔を覗きこんだ。

「目を覚まされましたの?」

「あっ、えっと、うん」

 若干気まずさを覚えつつ、おずおずと顔を上げる。

 少女は俺が起き上がるのを待って、にっこり輝くような笑みを浮かべた。

「はじめまして、わたくし、エルフ族族長の娘、アスセナと申しますわ。エルフ族の代表ですの」

 アスセナはスカートの裾を持って、ちょこん、と頭を下げた。

 短い裾からちらりと覗く、華奢な幼い太ももが輝いて見えた。

「あなたが、人間の代表、生徒会長さんですの?」

「ああ、えっと、俺はツグル。殿ヶ池告です。よろしくお願いします、アスセナさん」

「敬語じゃなくって構いませんわ、ツグルさま。それと、わたくしのことは、どうぞ、アスセナ、とお呼びください」

 なるほど……。まぁ、本人がそう言うんならいいかな。

「じゃあ、アスセナ、改めてよろしくね」

「はい、よろしくお願いいたします」

「ところでさ、早速なんだけど、さっき誰と話してたんだい?」

 アスセナははて、と首を傾げていたが、すぐに、

「ああ、あれですの」

 納得と言った様子でうなずいて……、

「エア精霊ですわ」

 さらりと衝撃的なことを言った。

「エア……精霊?」

「はい、そうですわ」

 ……エア精霊って。えーっと、つまりあれだよな? ギターを持ってないのに弾いてるつもりになるのがエアギター。友だちがいないのに、友だちがいることにして会話するのはエア友だち。

 じゃあ、エア精霊ってのは、つまり……、精霊がいないのに、いるつもりになって会話してた……、ってことなのか?

 心なしか、得意顔で平らな胸をはるアスセナ。

 ざっ、残念だ! この子、すっごく残念な子だ!

「ほら、シルフ、ツグルさまに挨拶を」

「どうも、エア精霊のシルフです。以後、おみしりおきを」

「うぉーいっ!」

 アスセナの後ろから突如、半透明の紳士然とした男が現れた。ちょび髭と頭につけた王冠がそこはかとなく大物感を醸し出している。

「って、いるじゃんっ! しかも、めちゃめちゃ強そうだしっ! 全然、エアじゃない!」

「いえいえ、エアですよ。大気(エア)の精霊、シルフです」

「接続詞っ! そこ、接続詞大事よっ!」

 大気(エア)“の”精霊とエア精霊では天地の差がある。

「ふふん、ちなみに、族長の娘たるわたくしは、この他にももう一体、火の元素精霊を使役することが可能ですわ」

「おおっ! なんか、アスセナがすごい子に見えてきたよ」

 残念な子なんかじゃなかった!

「火と風の精霊だけが友だちですわっ!」

「やっぱり残念な子だったっ!?」

 ほかのエルフはどうした?

「時に、アスセナ、なにかやって来ますよ。強大な魔力をもった者がね」

 シルフが思案深げに言った。

「強大な魔力?」

「私と同等、否、それ以上の力をもつ者です」

「四大元素級精霊であるあなたより強い魔力ですって?」

 なんだかよくわからないが、ものすごい存在がここに向かっているらしい。

 あれ、待てよ? もしかして、それって?

 ばぁん、と音を立てて生徒会室のドアが勢いよく開いた。

 入ってきたのは、すらり背の高い少女だった。細みの体にぴっちり張りついたレオタードのような服、漆黒の生地は大きめに開いた胸元の、透きとおるように白い肌をより一層際立たせていた。

 ツンと膨らんだ胸の形が見えてしまいそうで、思わず俺は目を逸らす。

うわぁ、すごい美人だな……。

 紫色の切れ長な瞳、すっと通った鼻筋の下でルビーのような赤い唇、黒い髪をさらりと揺らし、少女は妖艶な笑みをうかべた。

「あっ、えーっと、君が……、代表者かい?」

 慌てつつも聞いてみる。っと!

「いかにもそうじゃっ!」

 少女の外見にはそぐわない意外にも幼い声。

 って、あれ? なんか、声が下の方から聞こえたような……。

「ふむ、ここが生徒会室か。世界の行く末を決めるにしては、いささか貧相な場所じゃな」

 ぴょんこ、っとレオタード少女の後ろから飛びだすようにして現れたのは、アスセナに負けずおとらずに幼い少女だった。

 アーモンド形の瞳、その色は血のように紅く、深い。その肌はさながら真珠のように、白く滑らかだ。

頭の両側で結んだ髪は青みを帯び、いささか現実離れした美しさを誇っていた。

 ものすごく可愛い女の子、ではあるんだけど、

「えーっと、君……が?」

「いかにも、余が魔族の代表者、魔王の一人娘にして、魔王軍六大軍団の一つ、不死身のアンデッドたちをすべる不死身団の長、カステヘルミ・アド・ハイセルリッターじゃ」

「魔族の代表……」

 魔族はこの世界につながった第二の世界、天空の城の住人だった。

 その言葉を裏付けるようにして、カステヘルミの背中で大きな翼がばさり、と広がる。

 桃色のキャミソールを微かに揺らして動く翼は、まるで天使の翼のようで、神々しくさえあった。

「この者は、余の護衛と副官を兼任する、バンパイアのアンネリースじゃ。余ともども、よろしく頼む」

 黒髪の少女はスッと一歩足を引き、見事な礼をした。

「第六軍団副団長、雷槍のアンネリースです。以後、お見知り置きを」

 膝の上あたりまでを覆った黒いハイソックス、薄い靴下の生地越しに、少女のすらりとした美しい脚線が露わになる。

「して、どちらが人間の代表じゃ?」

「ああ、えっと、俺がそうなんだけど、一応。名前は殿ヶ池告っていうんだ」

「ふむ、なるほどのぅ、そちが……」

 カステヘルミは興味深げに、赤い瞳で俺を見つめてから、

「つまり、そちが『勇者』というわけじゃな」

「いや、違います」

 唐突な指摘に思わず敬語になってしまう。

「なぜじゃ? 人間界の代表なんじゃから、勇者で合っておろう?」

……なんか、根本的に誤解してるぞ、この子。

「ふふん、そうか。わかったぞ、あれじゃな? 人間の世界では「能ある鷹は爪を隠す」という言葉があるらしいが、つまりその才を隠そうというわけか」

「いや、そういうわけでも……」

「なるほど、そちは相当できるとみた。どうじゃ? 余の部下とならぬか?」

――おっ! なんか、聞いたことがあるセリフだぞ。この後、半分世界をやる、とか言うんじゃないか?

「余の部下となった暁にはこの世界の……」

 ほら、来た!

「えーと、そうじゃな……、大体五パーセントほどをそちにくれてやろう!」

「微妙にせこいっ! いやいや、ここは半分とかじゃないのかい?」

「なにを贅沢なことを言っておるか。よく考えてもみよ。よいか? もし、我が魔王軍が世界を占領したとしてじゃ、三十パーセントを魔王である父上がとるとする、残り七十パーセントを六団長で分ける。そこは良いか?」

「ああ、うん、まぁ……」

「ということは、各軍団長に十パーセント前後の所領が与えられることになる。さらに、余は魔王の一人娘、ということはもう十パーセントぐらい上乗せしてもらえるかもしれん。となると余の治める土地は全部で二十パーセント、そのうちの四分の一をそちにくれてやろうというのじゃぞ? これはかなり破格ではないか?」

 なるほど、そう聞くと確かに結構いい待遇なのかもしれない。

けどなぁ、俺、そもそも勇者じゃないし、それに、人間界の魔王といっても過言ではない、あのるり子ちゃんの期待を裏切ったとなると後々で怖いからな。

 まぁ、断るのは決定事項としても、後々、関係がこじれるのも好ましくないな。

 ここは禍根を残さないように断るために……。

「いやぁ、それでもやっぱり部下になるんだったら、半分はもらわないと」

「ふふん、この欲張りめ! じゃが、もらえるものはもらおうという交渉姿勢は気に入った。よろしい、ならば余の体も半分つけよう。出血大サービスじゃ」

「出血の意味がちがうよっ! なに、その、余の体の肉も1ポンドつけよう、みたいなノリ! シェイクスピアもびっくりだよ!」

 そんなものもらってどうしろって言うんだ。

「そうですわ。ツグルさま、体を半分だなんて、ケチくさい話ですわ!」

 横から口を挟んできたのはアスセナだった。

「わたくしならば、この身の全てを差し上げますわ」

「ふふん、余と張り合おうとは生意気な。何者じゃ? 名乗れ」

「わたくしはエルフ族の代表、アスセナですわ」

「ほほう、聞いておるぞ、エルフ族か。たしか、精霊やら妖精やらと言う魔力生命体を使役できるとか聞いておったが……、察するにその後ろのがそうかの?」

 ちらり、と瞳を動かすカステヘルミ。その瞳に射すくめられた途端、大気の精霊シルフが体を硬直させる。

「シルフ? どうしたんですの?」

「魔力生命体である以上、使役者のあなた以上に魔力に敏感である、ということでしょう」

 静かな声で答えたのはアンネリースさんだった。その声は職人の手で作り出された弦楽器のように、聞いているだけで陶然としてしまいそうなほど美しい。

「恐らくその精霊と私はほぼ同程度の魔力を有していると推測いたします。数値にして、四万前後といったところでしょうか。けれど……」

 一度言葉を切って、小さな舌で唇を舐めてから、アンネリースさんは衝撃的なことを言った。

「姫さま、カステヘルミさまの魔力は……二十万です!」

「「なっ!」」

 唐突に、ぶわっと強風が吹いた。次の瞬間、シルフが姿を消していた。

「あっ、あら? シルフ、どこですの? シルフ?」

 ……どうやら、逃げ出したらしい。

「ふふん、哀れなものじゃな。どうじゃ? そちも詫びて去るならば、許してやらぬではないが……」

「だっ、だだ、誰が。わたくしには、やりたいことがありますの。このようなことで諦めるなどっ!」

 と言いつつ、完全に腰が引けているアスセナ。それを見たカステヘルミが、ふふん、と鼻を鳴らした。

「どれ、あまり事を荒げてもつまらぬ。かるぅくひねるだけにしておいてやろう」

 そう言いつつ、すっと指を天に向け、凛とした声で叫ぶ。

「ギガサンダー!!」

 同時に天井から凄まじい雷が降ってきた。

「きゃああああああああああああああっ!」

「アスセナっ!」

 雷の槍で貫かれ、アスセナが倒れた。バチバチ、と電光が走るたび、手足をバタつかせる。短いスカートの裾を跳ね上げ、幼い太ももが激しく床を蹴った。

「なんてことを!」

「ご心配なく」

 あわてて駆けつけようとした俺を止めて、アンネリースさんが言った。

「邪魔しないでくださいっ! アスセナがっ!」

「よくご覧ください」

 電撃を喰らい、のたうちまわるアスセナ……、その体が徐々に力を失っていき……いき?

「……あら?」

 おもむろに起き上がった。

 不思議そうに自分の体を見降ろして、それから首を傾げているアスセナ。見たところ、何のダメージも負っていないように見える。

「あ、れ? なんで……?」

「姫さまが使えるのは回復魔法だけですので」

 後ろから、アンネリースがポソリと解説してくれる。

「えっ、回復魔法? でも、今、電撃がバリバリ、って……」

「低周波マッサージというのがこの世界にもあるようですが、それと似た感じです。見た目は少々派手かもしれませんが……」

 確かに、よく見るとアスセナの頬がほんのり紅潮しているように見える。体のコリがほぐれて、血行が良くなった……ってことなのか?

「ちなみに、姫さまには内緒です。姫さまはご自分が最強の魔族であると信じ込んでおりますので」

 なるほど、それは要するに、サンタクロースがいると信じてる子どもの夢を守るようなもの、だろうか?

「まっ、まさか……。余の魔法が通じぬというのか?」

 愕然とした顔で、カステヘルミが言った。

「不死身団のアンデッドどもに恐れられた、余の魔法を喰らって立ち上がるとは……」

 なるほど、確かにアンデッドは回復魔法でダメージ食らうって設定があるしな。ものすごい威力っぽい回復魔法を喰らったら大変だろう。

「ぬぐぐ……、さっ、さすがはエルフ族の代表ということか」

「ほ、ほほほ、そそそ、そーんな魔法攻撃なんか、効くはずがないでわありませんかっ!」

 震える声で言うアスセナ。言葉とは裏腹に、その瞳は微かに涙目になっている。

「ふむ、見直したぞ。ただの田舎くさい服を着た子どもかと思ったが……」

「っ! 今、今、田舎くさいって言いましたわねっ! わたくしのどこが田舎くさいって言うんですのっ! そもそも、子どもって、そんなに年は変わらないでしょうにっ!」

「自覚がないとは重症じゃな。服とか服とか、服とか、あとその靴じゃな」

 カステヘルミはアスセナの服装を鼻で笑い飛ばした。

「へ? どこかほつれたり、破れたりしておりまして? わたくし、新しい服を下ろしてまいりましたのに……」

「破れほつれなど論外じゃろ。というか、そもそもエルフの連中はみな同じ格好をしておるが、あれはどういうことじゃ? 個性というか、着飾ろうという意識が見えぬが……」

「着飾る? えっ、エルフには、いちいち服を目立たせようなんて言う発想がございませんので……」

「なんとっ! ファッションの概念がなかったのか……。それは、そのぅ、なんと言うか……、すまんかったの。バカにして……」

 すぅっと視線を外し、謝罪を口にするカステヘルミ。その口調には、溢れんばかりの憐みが込められているようだった。

「なっ、なっ……なぁ…………」

 屈辱のあまりアスセナが口をパクパクさせる。

「こっ、ここ、このようなお子様にバカにされるなんて、なんてことですのっ!」

 いやいや、アスセナだって十分お子様だから。っていうか、同い年ぐらいじゃないかなぁ。

「そもそもそこからして不見識じゃ。余は子どもではない。こう見えても今年で百十一になる」

「なっ、百十一……?」

 驚愕に目を見開くアスセナ。

「ちなみに、そちはいくつじゃ?」

「じゅっ、十一ですわっ!」

「はっはー、なんじゃ。そちの方がよほどお子様ではないか」

 勝ち誇って高笑いするカステヘルミと、悔しさに震えるアスセナ。

「へー、魔族の方って長命なんですね」

 俺はそばにいたアンネリースさんに話しかけた。百十一歳ってすごいな。まぁ、異種族ならそういうことがあっても不思議はないんだけどね。

っていうか、むしろ、俺としてはアスセナが十一歳だってことに驚きだ。

 エルフだって寿命四百歳とか聞いてたんだけど……。

むしろ、そんな長命の種族が十一歳の子どもに一族の命運を預けるとかどうなってんだ?

「ちなみに、我々魔族は生まれてすぐに繭の中に入り、サナギとしてすごします」

 アンネリースさんが再び解説してくれる。

「……なるほど、サナギ……、ですか?」

 へー、変わってるな。なんだか、蝶みたいだ。

「そして、百年近くその中で力を蓄えるのです」

「じゃあ、実質、十一歳じゃねーかっ!」

 カステヘルミ、完全無欠なお子様である。ほんと、エルフにしろ魔族にしろ、真剣さが足りないぞっ!

「ちなみに私は百十六歳です」

 しれっとした顔で、アンネリースさんが言った。

「あっ、じゃあ、俺と同級生ですね」

 なんだか急に胸がどきどきし始めた。

 なにせ彼女、レオタードというか水着というか、ともかく、すらりとした足がむき出しの格好をしているのだ。同い年の可愛い女の子がそんな格好してると思うと、ついつい目がいきそうになってしまう。

 俺は自制心を総動員して、なんとか目線を彼女の顔に合わせて、笑みを浮かべる。

「えー、まぁ、なにはともあれ、よろしくお願いします」

「こちらこそ、姫さまともども改めてよろしくお願いいたします」

 そう頭を下げてから、アンネリースさんは艶やかな笑みを浮かべて見せた。

 さて、と。とりあえず、アスセナとカステヘルミのケンカはとりあえず放っておいて問題なさそうだけど、残るはドワーフの代表者か。

 コンコン……。

「っと、噂をすれば、だな」

 ノックの音とともに静かにドアが開いた。

「失礼します」

 声変わりする前の少年のような、凛とした声が室内に響いた。

 どうやら、ドワーフの代表者が来たらしい。

 入口の方に顔を向けた俺は、中に入ってきた人物を見て、思わず言葉を失った。

 そこに立っていたのは百五十センチほどの身長の……、フルメタルアーマーだった。

 いやいやいやいや、いくらドワーフだからって、安直なっ!

 赤みがかった金属質な光沢、中世の鎧とは違い、すらりとした鎧は実に滑らかな動きでこちらに歩いてくる。

 ちなみに、ドワーフなんて言うと斧を持ってそうなイメージだが、この人物の場合には腰のところに騎士の持っているような剣をつけている。

「どうも、遅くなりました。ドワーフ族、族長が子、ニノンと申します。お見知りおきを」

 まるで騎士の礼のごとく、きびきびとした動作で、そっと頭を下げる。

 ドワーフ族は第三の異世界、大火山の住人である。伝説と同じく鍛冶や細工の技術に優れ、地球にはない金属の知識もあることが、会談によって明らかになっている。

 基本的に男は髭面のおじさん顔って聞いてたけど、この子ももう、髭が生えてたりするんだろうか? 声からすると少年っぽいけど。

「あの? なにか?」

「あ、いえ、えっと、はじめまして。人間族代表の殿ヶ池告です」

 ニノンは、こちらに体の向きを変えると、ガシャリ、と剣を鳴らした。

「鎧の中から失礼いたします。ニノンです。どうぞボクのことは、お気軽にニノンとお呼び捨てください」

 んー、いちいち仕草が格好いい。

 ドワーフ族長の子、というよりは王子さまとか、若き王とか、そんなイメージだ。

「若輩の身ながら、代表を務めさせていただきます。ご迷惑をお掛けすることもあるかと思いますが、よろしくお願いいたします」

 そして実に礼儀正しい。きっと兜の中では爽やかな笑みを浮かべているに違いない。

「ああ、えーっとこちらこそ。ちなみに聞いておきたいんだけど、ニノンはいくつなの?」

「はい、今年で十一歳です。昨日がちょうど生誕の日でした」

「……………………」

 俺は無言でニノンを見て、それから、まだわーわー口喧嘩を続けているアスセナとカステヘルミを見て、小さくため息を零した。

 ……なるほど、るり子ちゃんの言う通りだ。

「ホント、世界は理不尽で満ちてるなぁ」


これを書いた時にはエア○○というのが流行っていたんだ、という……。

時の移り変わりは早いですね。


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