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彼を見送っていると箱の入口に騎士がいた。同じ鎧をつけた人が何人もいて、その中に主様もいた。勘違いかもしれないが、目が合っている気がする。
「主様……!」
「こんな子供まで拐うなんて」
主様は私の傍までやって来て、私を拾おうとした。
「随分と軽いな……」
「私はモノですから、それも錆びた剣……」
「え?」
「えっ?」
言葉が通じている?
「主様、聞こえてますか」
「主様というのは俺のことか?」
「そうです、私の主様」
「聞こえてはいるが……主様とは」
「私の持ち主です、貴方は私を買ってくれたでしょう?」
えっ、と主様より後ろの騎士方々の方が驚いている。
何か変なことでもいっただろうか。私みたいな剣をこの人が買う筈がない、とかだろうか。主様も怪訝そうに私を見ている。
「あ、の、私は初心者向けの剣で……貴方の前世の方が私の持ち主だったんです。貴方は私の主様の生まれ変わりで、その」
上手く伝えられなかったようだ。後ろの騎士は可哀想に、隊長にそんな風に育てられてしまうなんて、なんて言っている。それに合わせて主様の眉間にシワが寄った。
「私は、主様に会いたくて、役に立たないかもしれないけれど、盾ぐらいになら……!」
「盾はいいから……」
「さて、誰が面倒見るか、だな」
「隊長に会いたくて来てるんだったらなあ」
「誰が面倒みるか、なんて決まってるよな」
「こんなに隊長に一生懸命になってる子を他の奴に面倒見させられないでしょう」
「待ちなさい」
こら、と主様は後ろの騎士方々に言う。彼らは楽しそうに口元を歪めて、主様を見ていた。主様はからかわれているのだろうか。
「まずは親を探すべきだろう」
「……隊長、この状態でまともな親が見つかると思います?」
「居たって表面だけ繕って引き取って、また別の場所に売られるだけかもしれない。それなら隊長が引き取った方が良くないですか」
「簡単に言うな」
「俺らもちゃんと面倒みるの手伝いますし」
「盗まれたっていうあの家に物ごと戻すのもどうかと隊長だって思うでしょ?」
「私は、もうあの暗闇の中に戻るのは嫌です……主様はもう迎えに来てはくれないですよね……」
戻ったら二度と会えない。縋るように主様の服を掴む。
私はその時に漸く気付いた。私に手足が生えたことに。
「わ、たし……手が……!」
「怪我でもしたか」
「手も、足もある……!」
表裏、持ち上げてみたり、下ろしてみたり、体を動かして確認をしてみる。顔があるだろう場所に両手でぎゅっと押してみた。その瞬間に彼らは笑った。優しい笑い声が鉄の箱に響く。
なんだか感じたことのない擽ったさがあった。ほんのり胸が暖かくなるような。
きっと錆の名残で体に傷跡のように茶色く変色した場所があるけれど、そんなこと大したことじゃない。体があるだけで、こんなにも人の傍に行けるなんて思わなかった。思わずにやけてしまう。
「私、主様と会えて幸せ。今も昔も」
色々なものを与えてもらって嬉しくて、幸せな気持ちになるの。
小さな体で主様に抱き付く。
大好きです、とても。私を大事に扱ってくれるあなたが。だからどうか見捨てないで。私をその腰に納めて。
疲れたせいか、瞼が落ちていく。置き去りにされたらどうしよう。このまま人間のように死んでしまったらどうしよう。
役立たずなのは理解しているけれど、一緒に居たい。我が儘なのはわかっているけれど。
手を伸ばすと抱き止めてくれる。あたたかくて気持ちいい。この腕にいつまででも抱かれていたい。
彼は柔らかい笑みを浮かべて私を見下ろしている。
「おやすみ」
――おやすみなさい、主様。
End.
勢いで始めて、無理矢理閉めた感たっぷりでお送りしました←
モノが人になる話が書きたくて。
書いたけども、無理矢理進めたので、また時間置いてから見直したいです。
久々に書いたので前よりも更にグダグダ感丸出しですみませんでした……。
主点の人物から何も見えていない状態で色々書くのって難しすぎる……。