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突然ガタンと私達を囲う箱が揺れた。固定すらされていない私の体は勢いよく叩きつけられた。脆い私の体は折れそうなぐらい痛いけれどどうにもならない。
何やら外が騒がしい。
この箱を引くものが馬を止めたようだ。
「騎士様、何かあったのでしょうか? 随分と人が多いようですが」
「ああ……街の方で盗賊か出たようでね。荷物の改めと身分の確認をさせてもらっているんだよ。悪いが順番を待ってもらえるだろうか」
「そうですか……この様子では今日中も難しいでしょうね」
「そうだな……すまない。今日改めのできなかった者の為に関所は解放する予定だから、良ければ止まっていくといい」
「親切に有難うございます」
どうやら関所で足止めを食らったようだ。
盗まれてからおよそ数日、私達の所有者は案外手を回すのが早いようだ。となればこのまま私達は関所を通るわけにはいかなくなった。中を改められればすぐにバレる。私は物としての価値はないが見た目は目立つ。それこそ彼の男が自分の物だと認識するには十分すぎる差が他とはある。
御者もそれくらいはわかっているだろう。その証拠に舌打ちが聞こえてきた。
それにしても他の仲間は何処に行ったのだろう。盗みに入った時は集団だった筈だ。声の感じから邸宅で指揮を執っていた者とは違う気がする。
「一人旅はどうだった?」
ガタンと今度は上から震動がきた。誰かがはこの上に乗ったようだ。それにこの声は盗みの時よく聞いた声だ。
御者は声が出ないようだ。
「最後になるから、きっと楽しめたろうねえ。ゆっくり余韻に浸るといい……おやすみ」
その後、御者の悲鳴が聞こえた。
肉を切る音に泣き叫ぶような人の声、金属の擦れる音、きっと関所の騎士が対応してくれているのだろう。けれど御者は助からない。きっと他にも死人が出る。彼はわざわざ見せしめに自分の仲間を選ぶくらいだから。
「貴様ら……!」
「フェッツェンデブルの騎士様、こんにちは!」
指揮者は嘲笑う。本当に楽しげに。