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モノの子(仮)  作者:
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1

 目覚めた時、そこは薄暗く鉄の板に囲まれていた。

 格子のある小さな窓から僅かな光が差すのみで、周りには箱や剣、弓などの武器類が鎮座していた。ベルトで固定されているが、それらは時折揺れている。

 移動しているのだろうか、窓の外から僅かに声が聞こえてくる。



 私は一体何者だろうか。

 ぼんやりと記憶の片隅に誰かの姿が見えるのにはっきりとしない。


 ――見つけないと。


 人だろうか、物だろうか、それすらも分からないのに漠然とそう思う。手も足も動かせないのに一体どうしろと言うのか。

 何故こんな風に運ばれているのか、誰か教えてほしい。


 ――こんなボロボロの剣にどんな用事があると言うのか。


 剣とは。ぽろぽろと溢れてくる覚えのない情報に戸惑う。けれども妙にしっくりきてしまう。

 私の頭の中にはある程度の情報があるようだ。ただそれを忘れてしまっているだけで。

 私に状況を知らせるように、情報は次々と溢れてくる。



 私は剣だ。


 誰の物でもない、既に役割を終えた寂れた剣だ。

 けれども私を所有していた男は私を棄てずに武器庫に放り込んだ。私を所有することが遺産を相続することのできる証とされていたから。

 だから私はここにいる。他の価値ある武器や宝石達と一緒に盗賊に盗まれていた。こんな錆びた身でも莫大な遺産を引き継いだ男が所有していたものならきっと何かしらの価値はあるのだろうと考えたのだろう。

 少なくとも男には価値があった。盗んだ男に価値があるとは到底思えないが。なければ棄てればいい、それだけの話だろう。

 もとよりそう大事な身ではない。

 棄てるように扱われるようになってから、私は人に期待をしていない。私にとって大事なのはあの人だけ。記憶の片隅にある、私の最初の主だ。


『俺には身の丈に合わないぐらい立派な剣だな』


 そう語って私を掲げる主様。

 私は名剣でもなんでもない、その辺りにあるような初心者向けの剣なのに大事にしてくれた。仲間達にからかわれながらも必ず私を腰に下げて冒険に出た。

 だから私は彼に報いたくて頑張った。その時はまだ私という意識は存在しなくても気持ちは変わらない。


 ぼんやりと見えた人は私の主様だったのだ。

 何百年も前に死に別れた私の大事な大事な主様。


 ――見つけないと。


 主様に会いたい。主様ならきっと今の私でも大事にしてくれるだろう。

 今までなら平気だった。だって私はまだ産まれてなかったから。けれど今は「私」と言う自我がある。


 寂しい、寂しい。


 会いたい。

 

 動けない体が憎い。私にも人のように手足が欲しい。そうしたら会いに行くのに。

 人は輪廻すると言う、だからきっと主様もどこかで生きている筈だ。


 私を見つけて。


 私も探しに行くから。


『ぬし、さま……っ!』


 

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