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花咲く頃に  作者: 優希
1/5

始まり

長いです。

小学生の時に書いたやつを直しながら打ってます。

よろしくお願いします。

―――私とは誰で、どこからやってきたのだろう。

分からない。自分が何者かも、何から生まれたのかも。

ただ分かるのは―――私は『存在し続ける』ということだけだ。


…退屈だ。

やしろに腰かけて足を組んだ姿勢のまま、長らく景色を眺めてきた。

温かく華やかな春。

暑く虫のうるさい夏。

肌寒い落ち葉の鳴る秋。

動物も眠る木枯らしの冬。

そして、また春が来る。

ただ、それを繰り返すだけ。自然とは単純だ。

一時は暇つぶしになるかと思ったが、もう駄目だ。退屈すぎる。

何十年か振りに体を動かしてみた。

首を少し動かしただけで、コキッと軽い音がする。

体中をパキポキと鳴らしながら、地面に降り立つ。

懐かしい重力に、大きく伸びをして体を慣らす。

さて、これから何をしようか。

くるりと社の周りを見回す。

少し前までは苗木だったのに、今はもう立派になった木々。

それに囲まれているせいで人に忘れ去られた、この社。

つい何百年か前までは人間がお参りに来ていたが、もうその人間たちも生涯を終えたことだろう。

そこら中に無駄に咲いている植物を愛でる、というのはどうだろう。

…いや、きっと退屈だ。どんなにゆっくり見て回っても、何年と持たない。

森にいる動物たちと戯れようか。

…そういえば、奴らは私を怖がって、ここには来ないんだった。

少し驚かしたり追いかけて遊んだだけでこれだ。動物は臆病すぎる。

どうしてこうも退屈なものに囲まれているんだ、私は。


「あれぇ…?おかしいなぁ…」


聞こえた声に、さっと振り返る。

おお…!人間だ、人間が来た!

感動した。久しく見ていなかった人間が来たのだ。

こうなったら、私の取る行動はひとつ。

よし、驚かしてやろう!

姿を消し、社の上に仁王立ちする。

いきなり姿を見せたら、きっと驚くはずだ。

人間が姿を見せた。

少年は、キョロキョロとしながら、不安げな顔で近づいてくる。

年は七、八歳に見える。昔は社の周りをこれくらいの子供が遊び回ったものだ。

挙動不審な様子から、道に迷ったのだろうと推測できる。

しかしまぁ…何ともひ弱そうな子だ。

やせ型で病的に白い肌をしているし、八の字に寄った眉が『誰か助けてください』と語っている。

驚かせたりしたら心臓が止まりそうだな、と思えてきた。

私は溜め息を吐くと、社に腰を下ろした。

こんな子供、驚かして何が面白い。

何の退屈しのぎにもなりはしない。


「わぁ…。神社だ…」


神はいない。だが、人間の子供にそんなことは分からないだろう。


「何か…お祈りとかしといた方が良いのかな…?」


お祈りって何だ。ここは教会じゃないぞ。

少年は自分の両手を握り、目を閉じた。


「えーと…」


眉間に皺を寄せて、必死に何かを考えている少年。

とりあえず、手は握るものではなく、合わせるものだと教えてやりたい。


「あぁ…うぅ…また今度にしよう…」


何も思いつかなかったらしい。諦める、という選択肢があったとは。

この少年、なかなか面白いな。

少年は社に背を向けた。迷子に戻るつもりらしい。

その小さな背中を何気なく目で追っていると、いきなり消えた。


「ふぎゃっ!」


その直後、聞こえた無様な悲鳴。

…何もないところで転ぶとは、本当に面白い人間だ。


「うぅ…」


立ち上がろうとしている少年に、私は思わず声を掛けていた。


「大丈夫か?」


その後の反応は、もう予想通りだった。

また転び、慌てふためき、生まれたての小鹿のようにプルプルと震えている。


「あ、あ、あ、あなたは…っ!い、いつから…っどこから…!?」


「いつ、と聞かれても、いつからかとしか答えようがないな。どこって、私はずっとここに居たぞ」


私が答えると、少年は頭を抱えて考え込んだ。


「居なかった…うん、居なかったよね…?でも、居るってことは居たってことで…あ、あれ?」


泣きべそをかいている少年に、私は仕方なく助け船を出した。


「まぁ、少年。そう深く考え込むな。人生とはそんなものだ」


「じ、人生…?」


適当に諭すと、少年は首を傾げながらも納得したようだ。


「えっと…とにかく、お姉ちゃんはずっとここに居たってことだよね」


そう呟いた少年は、またすぐに泣きそうな顔になる。


「お姉ちゃんは怖くないの?」


何が、と聞く前に、少年は言葉を続けた。


「だって、ここって、何か幽霊とか出そうな場所だから…」


なるほど、不安げな様子はそれか。


「安心しなさい」


私が笑顔を向けると、少年は顔を綻ばせた。


「いないんだね…」


「あぁ。何千年かここに居たが、そんなものは見たことがない」


「…え?」


少年のきょとんとした顔。少し可愛い。


「だから、長い間そういうのは居なかったから大丈夫だよってことだ」


「……」


少年は無反応だ。


「まぁ、とりあえず、お前が面白いってことは分かった。明日から毎日ここに来い」


少年に笑いかける。


「……う」


「う?」


聞き返すと、少年はいきなり涙をボロボロと零しながら叫んだ。


「うわあああああっ!よ、妖怪だあああああっ!」


「失礼な」


ぎゃあぎゃあ騒ぐうるさい少年を強制的に黙らせ、社に座らせる。


「いいか?私は妖怪ではない。ただ、ちょっと人間より長く生きてるだけだ」


「う…ぐすっ…」


まだべそをかく少年の肩を掴み、俯きがちの顔を覗き込む。


「私が今、お前を取って食うように見えるか?」


「ひぃぃっ!」


「見えるのか…。いや、食わないが」


そんなに怯えるな。そもそも私に『食べる』という概念はない。


「私はな、退屈なんだ」


「たいくつ…?」


「そう。何千年もずっとここに居るんだよ、私は。いい加減、退屈すぎて死にそうだ。お前みたいな面白い奴は、良い退屈しのぎになりそうだ」


私の言葉が難しかったのか、少年はじっと考えている。

そして、涙を流し始めた。


「なっ…何で泣くんだ!?」


涙を拭ってやりながら、少年に問う。

だって、だって…と少年は泣きながら、涙を拭う私の手を握った。

子供らしく、ふわふわで温かい小さな手だ。


「ずっと独りって…寂しいよっ…!僕だって独りは寂しいし…悲しい…っ!」


私の手に、少年の涙が次々と落ちてくる。

この透明な涙は…私のために流れているものなのか。

自分と重ねて、私の気持ちを想像して、寂しい、悲しい、と…。

何となく、愛おしいと思った。守ってやりたい、と感じた。

少年の手を優しく握り、額を合わせた。


「そうだな。私は、寂しいかもしれない」


だから、と私は続けた。


「これからは、君が傍に居てくれないか?少年」


少年は涙を流しながら、深く頷いた。


「絶対…!約束するよっ…!」


そう言って、少年は小指を立てる。


私は、その指に自分の指を絡めた。


「あぁ、約束だ。忘れるなよ」


少年は、また深く頷いた。

この約束は、きっと果たされると思った。

確証はないが、確信があった。


「少年、名前は?」


蒼太そうた。お姉ちゃんは?」


「私は…」


私に名などないと告げたら、蒼太はまた泣くだろうか。それは厄介だ。

少し考えてから、私は答えた。


「…そうだな。蛍、とでも名乗っておこうか」


夏の夜、儚く綺麗に輝く命。

蛍。

私が今まで見てきた生き物の中で、一番綺麗だったものだ。


「蛍…」


蒼太は復唱し、にっこり笑った。


「すごく、素敵な名前だね」




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