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1.2step

作者: 三堂いつち
掲載日:2015/08/11

本当になにもない話です。がっかりしても責任はとれません。

 唐突だが久米島歩には好きな人というのがいる。本人もそれは自覚しているしそれを伝えようと相手と積極的に話すことを心掛けている。が、結果は伴っていない。


「だから?」


 そのことを机に頬杖をつきながら本人の口から聞くのは相沢伊織という歩の友人だ。元々見ていればわかることを改めて、耳まで真っ赤にして話す本人から聞かされるというこっ恥ずかしいことに巻き込まれているということもあり聞き返す言葉には若干の棘が含まれたが歩は気づかずに続ける。


「そろそろ夏休み……城崎さんに会えなくなるのが辛い。どうにかできな?イオえも~ん」

「……帰るぞ」

「ああっ!ごめん、聞いて!帰らないで!」


 歩は椅子から腰を浮かせる伊織の肩を抑えて無理やり座らせる。その際伊織の口から「うぉ?」と声が漏れるほど歩は力を入れた。


「真面目に、真面目にやるから」


 必死に取り繕い引き止める歩。伊織はなら最初からそうしろ、と再び机に頬杖をついて歩に向き直る。そうは言いつつも付き合ってやるあたりは伊織も歩にどうにかなってほしいと思っているからである。

「ったく……」言いながら伊織は一つの提案をする。


「夏休みなら、それを上手く使えばいいんじゃね?」

「どゆこと?」


 歩は伊織がなにを言いたいのかわからないという風にキョトンと目を点にする。放課後の教室は慌ただしく人が出入りして彼らの話を聞きとめる者はそういない。


「夏祭りとか、プールとか、宿題やろうとか誘いようは色々あるだろ?」


 それに歩はなるほど、と意を得たと言わん表情を浮かべる。

 しかし、すぐに歩は腕を組み俯き気味に目をつむる。そしてうーん、と唸る。


「でも俺、城崎さんの連絡先知らない……」

「だろうな」


 伊織は目の前の男を憐れむように見下ろす。

 今までこの男なりに努力をしてきたのだろう。傍から見たら歩と城崎さんは仲のいい友達というか、友達以上恋人未満であるのはこのクラスでは周知の事実である。つまりは城崎さんも歩に気があり、それが周りに知られるほどなのだ。

 それなのに、なんの進展もない奥手な歩に付き合わされる伊織は「あれだけ話しててもか」とあきれる。

 そして伊織は自分の鞄に手を入れ、一片の紙を取り出した。


「これはとある筋から手に入れた城崎さんのメアドと携帯の番号だ」


 ピラピラと見せつけるように紙を弄ぶ。


「伊織、お前……」


 歩は驚きを隠すことなく伊織を見る。その表情のまま歩は口を開いた。


「正直気持ち悪いわ」

「……だな」


 若干へこみながら伊織は二つ折りの紙を机の上に置く。その時廊下から大きい音がしたが二人には聞こえなかった。


「で、どうする?」

「どうするって言ったって……」


 歩は机の上に置かれた紙を見る。


「人づてにこういうの聞くのは良くないだろ」

「そうか」


 夏休み前だという放課後の教室は明け話の窓から風が流れてきて一瞬の涼を感じさせる。その風に飛ばされないように伊織は紙を押さえつけながら手元に引き寄せる。


「じゃあすぐ聞いてこいよ」

「え?」

「お前、今行かなかったらウヤムヤにするだろ」

「それは……」


 あからさまに歩の目が泳ぐ。


「もう俺を巻き込まなくてもいいようにしてくれや」


 フッと伊織が笑う。

 それでも目はさっぱり笑っておらず語気も少し強めだったことに、歩は心臓がヒヤッとした。


「い、行ってきます!」


 ガタガタ、勢いに任され動く椅子は音を立てて床を滑った。床を蹴って駆け出した歩の背中を見送ってから手元の紙を見やる。伊織が二つ折りにされた紙を広げる。




 表裏何も書かれていない真っ白な紙だ。


 鞄を手に取って立ち上がり、伊織は教室を後にした。






 ▽


 唐突ではありますが城崎澪には好きな人が(略)。


「知ってる。多分みんな知ってる」

「え、みんなってどれくらい?」


 目の前の女の驚きようにあきれながらも付き合うあたり(略)。

 盛大に慌てている城崎澪を眺めながらため息を吐きながら、しょうがないかとあきらめる。そもそも澪の話につかまるのは中神舞ただ一人だけだからだ。


「どどどど、どれくらい広まってる?何人の記憶を消せばいいんだ?」


 舞は動転する友人に胸倉をつかまれユサユサがくがくと揺られながらも落ち着き払っている。


「落ち着け。じゃないと高校デ......」

「それは言わないでぇぇぇぇぇ」


 そして舞は最後まで言えずに投げ飛ばされ、壁にぶつかりどんっと大きな音を立ててから床に落ちた。


「うわああああ、ごめええええん」


 澪が慌てて倒れ伏す友人に駆け寄る。


「大丈夫か?」

「だいじょばない」


 笑顔で起き上がる舞の額からは赤黒い液体がしたたり落ちていて、一滴また一滴と床を濡らしていく。


「ごめん、本当にごめん」


 澪は謝りながらハンカチを取り出し頭の止血をする。その手つきは慣れているのかよどみがない。


「こんなことに慣れた自分が憎い」


 手当されながら舞はそうこぼした。しかしいくら口についても現状が変わるわけではないので仕方ないと立ち上がる。


「私ももうこんな目に合うのは嫌だ」

「うっ」


 澪は申し訳なさそうに目を逸らす。


「だからさっさとどうにかなってほしい。私のためにも」

「ごめん」

「というわけでイッテラッシャイ」


 くるりと澪の体を回し背中を押す。押された先には久米島歩がいた。


「がんばれ澪。私は血が足りないから寝る」


 そういって舞はふらふらと歩きだした。








 歩と澪は目の前にいる相手にしどろもどろしている。ここに二人の友人がいたならばまだ幾分かはマシに会話ができただろう。


「…...」

「……]


 訂正、話せてすらいない。いや、普段より話せていないと言うべきか。連絡先を聞きたいけどどう言い出したらいいのかわからない歩と話を切り出されるのを待っている澪。不毛だ。


「「あの、あ……」」


 そして声が尻すぼみになっていく。






 ▽


 その頃、舞はふらふらとした足取りで保健室へ向かっていた。周りが気を使って道を開けるほどにふらふらだ。


「いてー……」


 ぶつかった時に足もやったか、片足を引きずって歩いている。


「あ……」


 貧血に近い症状に舞はそう小さく零し倒れそうになった。が、持ち前のガッツで何とか踏みとどまり歩きなおした。


「助けようとして損した」


 舞が一歩踏み出すと後ろからそう声がかかった。舞が振り向くと鞄を持った伊織が割と近くに立っていた。


「そう?助けてくれてもよかったんだよ」

「だってあんな力強い足どりを見たらさあ」

「知らん奴に恩売りたくないじゃん」

「素直じゃない」


 伊織は自分と似たような苦労をしている女に苦笑を向けた。


「なにさ?」

「俺は知らない奴じゃないよな?」

「恩を売れと?」

「さあ、どうだかな」


 少し曖昧にしすぎたか、伊織が自分の発言を振り返っていたら舞が伊織の肩を掴んで後ろに回った。


「ん?」

かがめ」


 何を言われているのかわからずに伊織はその場に屈んだ。そしてようやく背負えということなのだと理解した。


「保健室、寝る」

「はいはい」


 短く目的地を指示されまた曖昧に返す。


「もうちょっとわかりやすく言ってくれればいいのに」


 伊織が文句のように呟くと耳元ですぅ、という息の音が聞こえた。


「早っ」


 その感嘆は背負っている人を起こさないように小さく呟かれた。






 ▽


 歩が澪のもとに来てから10分。いつも通りに話せるようにはなったものの歩はまだ目的の連絡先を聞けていなかった。


「そろそろ夏休みだね」

「な……そうそれ!」


 話の流れで発せられた単語を聞いて思い出したように大きな声を出した。


「ど、どうしたの?」

「あ、いやごめん」


 歩は多少しどろもどろになりながらもなんとか平常に取り直そうとする。


「夏休み、そう夏休み」

「やっぱりなんかあった?」

「い、いやそうじゃないんだ。そうじゃなくてその……



 連絡先、教えてくれない!?」

「へ?」

「夏休みになると会えなくなるし、城崎さんの連絡先しらないなあって思って、その、き、聞きたいなあって」


 歩は顔が赤くなっていくのを感じて顔を逸らした。


「いいよ」

「え?」

「だからいいよ、って」


 思った以上の即答に面喰ってしまった。が、澪の言葉の意味を理解すると急に頭が厚くなった。


「いいの?」

「いいよって」


 クスクス笑う澪を見て嬉しさと居たたまれなさがこみあげてくる。


「ちょっとごめんね」


 そういって歩は真っ赤な顔を背けて走り出した。


い「なんで走ってんだよ?」

あ「伊織なんで顔赤いの?

あ、い「......」



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[一言] 微妙な距離感にもだもだしました。 続きが気になる作品です。
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