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初連載です。
誤字脱字ありましたらご指摘願います。
宜しくお願いします。
「ロイヤル・ヴェネツィア公爵令嬢とここに婚約破棄を表明する!」
ロマネスク建築の大講堂に凛々しい声が響き渡った。
途端にそれを聞いていた周りの観衆が歓声を上げて喜ぶ。
(…よっしゃぁぁあ!やっとこの時が来たぁぁあ!)
目を見開き、驚いた表情とは裏腹に婚約破棄を告げられた当の本人も心の中で大変喜んでいた。
後はシナリオ通りに進めてさっさと退散するだけである。あくまでも「はいはいすいませんした」的な雰囲気を出してはならない。
「…な、何故!?何故ですかフィル!私は貴方と婚姻するのに最も相応しい人間!そんな見窄らしい平民とは違います!」
ヴェネツィアは心の中でほくそ笑みながら、血相を変えて金切り声を上げる。多彩な装飾が施されたステージの壇上へ、いやそこに立つヴェネツィアへの観衆の視線は、とても冷たく、そして怒りが込められている。
それをステージの壇上で聞いた総勢6人の見麗しい貴族の子息達とこの国の王子も全員額に青筋を張り、怒りの表情を顔に浮かべた。
「…皆、こんな、皆の前でやらなくてもいいんじゃ…。それに、私ヴェネツィアさんと仲良くしたいの。」
小動物のように震え、消え入りそうな小さな声で仲裁を図る女子生徒もいるが、わかる。口角が少し上がっているのと目が喜んでいる。
しかしその6人の見麗しい青年達(と観衆)は騙され、感化されたようで慈愛に満ちた表情で「ユリアは優しすぎる。これは断罪なんだ、我々が正しいんだ。」などと言っていた。
その中で婚約破棄を先程告げた皆より郡を抜いて美しい容貌をした第一王子は、ユリアというブロンドの美少女を優しく腕で抱き寄せ、そしてヴェネツィアの方を向いた。
(頼むよ…早くしろよ…)
そのゆっくりとした茶番劇と動作に内心呆れていた。こちらとしては一刻も早く屋敷に帰って荷造りをしたいのだ。18年間待ち続けた身としては、この一秒一秒に苛立ちを覚える。
「お前が私に相応しいだと?馬鹿げたことを。ユリアの方が、何倍、いや何千倍も慈愛に満ち、優しいまさしく王妃に相応しい人物だ!お前にフィルなどと呼ばれたくはない、この愚民が!」
ヴェネツィアを睨みながら荒々しく声を上げる。それに続いて、第一王子の後ろにいた青年達も怒りの表情を露にして、前へ出てくる。
「それに、つまらない嫉妬でユリアを虐めていたんだって?ホント許せない。死ねばいいのに。」
「命があっただけよかったと思え。」
「お前のその傲慢な態度に皆が呆れ、嫌っていたのに気づかないとは、人間以下だな。」
「沢山の人の証言もあるよ。姑息な虐め、嫌がらせ、どう言い訳するの?」
「ユリア以外にも沢山の人を傷つけたのも知っていた。お前のその媚を売るような態度も、昔から吐き気がするほど嫌いなんだ。」
一人一人がヴェネツィアに対して嫌悪の表情を浮かべていた。
「虐め!?虐めではなく制裁よ!この見窄らしい平民ごときが貴方達に声を掛けたりするから罰を与えてやったのよ!何が悪いの?」
ヴェネツィアは怒りを込めてユリアを睨みつけながら大声で言い掛かりをつける。
本当は「やってないわよ!」「証拠がある!」的なくだりもあったのだが長くなりそうなので省略をさせてもらう。だって実際にしっかり虐めてやったし。
ヒロイ…ユリアが少し目を見開いたのをヴェネツィアが見逃さなかった。
(やっぱりあんたも転生者ね。まあいいやあなたのお望み通りに逆ハーendにしてあげるからさ。)
「制裁だと!?何度も言わせるな!おい、この女を連れて行け。」
第一王子はヴェネツィアに怒鳴った後、後ろに控えていた護衛に者に命令した。
それを聞いた護衛の二人は、何も言わずにヴェネツィアの両腕を力強く掴んだ。
「や、やめなさい!平民ごときが、こんなことをしてただで済むと思うの!?」
ヴェネツィアはシナリオ通りに抵抗する。勿論その抵抗が護衛に効くことはなく、壇上から降り、そして大講堂の外へと引きずられるようにして連れていかれる。
「私は王族だ。そして既にロイヤル公爵家からお前は勘当されている。権力など皆無、ただの愚民にすぎない。」
「そんな!嘘よ!嘘よ!お父様がそんなこと!」
「ロイヤル公爵家から直々の申し出だ、さっさと消えろ。」
その第一王子の一言で、全ては終わった。
ヴェネツィアは大講堂の外の広場へ連れて行かれ、乱暴に投げ出される。石畳であるため、大分痛い。
護衛は痛みで顔を歪めるヴェネツィアを見たあと、黙って大講堂内へと戻って行った。大講堂からは外でも聞こえるぐらいの歓声が響いている。貴族が歓声をあげるのは中々ない。相当嬉しいのだろうか。
「うおっしゃああ!!!これでパティシエ修行に行ける!よし!」
ヴェネツィアも素の口調に戻し聴こえてくる歓声と同じくらいに喜び、大きなガッツポーズをした。
そのあとヴェネツィアは直ぐに行動を開始し、敷地の裏にこっそり用意しておいた質素な馬車へと乗り込んだ。
(全ては計画通り。とにかくパティシエになりたい一心で頑張ってきたんだから。)