さんぽ
よく晴れた春の日だった。信号待ちをしていると、突然外国人に話しかけられた。
彼は大学生くらいだろうか。白いシャツにジーンズといった、私と同じようなくだけた服装だった。
「あなたは、どちらの手を使って書きますか?」
と彼にいきなり質問された。
どちらの手で…、利き手のことを聞いているのだろうか。日本以外では左利きの方が多かったりするのかな。
「利き手のことかな?私は右手だよ」
と右手を上げて答えると、彼はにっこりと笑い、
「ジョークですよ。手だけでは、文字は書けません。僕は鉛筆で書きます」
と目を細めながら言った。
なるほど、気さくな人だ。
どちらの手で文字を聞くのかという問に、手だけではかけないから、鉛筆やシャーペンを使って書くと答えなければならない。そういうことか。
「あはは、騙されちゃった」
その時機械の鳥の声が鳴き始め、信号が青になった。私が渡ろうとすると、彼は歩き出さなかった。
「じゃあね、お嬢さん」
そう言って彼は手を振った。彼は私と話すために立ち止まったのか。日本人だったら、きっと好きになっていた。
「バイバイ」
私も手を振って、横断歩道を渡った。
振り返らなかった。