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光と闇の歯車  作者:
第1章
8/21

価値

暗闇の中にひかりが灯る。


「おい、起きろ!」


野太く乱暴な牢番の声。


私は俯いたままの姿勢で、目だけを動かして、誰が来たのかを見た。


「ッ!!」


瞬間、心臓が怯えた様に早鐘を打つ。めまいがする。


「中佐様が何の様だ」

「一階級上がって大佐になりました」


悟られまいと、馬鹿にした言葉を選び、強い口調で言った。それに答えられた返事は、予想外のもので、冷たく突き放す様だった。


私を捕えたことで、階級を上げられたのか。


私が居なくなったおかげで。邪魔者が居なくなったおかげで。気味の悪い奴が居なくなったおかげで。


奥歯をギリッと強く噛む。


「そんな目で見ないで下さい。自業自得って言葉知ってます?」


誰が自業自得だ。私は嵌められたんだ。そうとしか考えられない。


「判決が決まりました。貴方は斬首台での公開処刑です。九日後ですね」


淡々と告げられる生存期間。


薄情者。私はお前の弟子だった。少しでも情というものは無いのか?


「残り少ない命、懺悔な為に遣っては如何ですか?」


私は応えない。目を合わせず、俯いていた。それが少ない抵抗のつもりで。


「一つ問う。私の価値はどれぐらいだった」

「…………」


最後に聞いておきたかった。弟子だった者として。上官だった者として。王だった者として。一人の友だった者として。知るのが怖いくせにどうしても知りたかった。こんな機会、後にも先にもこの時だけだ。


「さあ。元から貴方に興味なんて持ってませんでしたから。王族だから一緒にいて差し上げただけです」


何かが壊れる音がした。胸に出来た穴が急速に広がって行くようだ。


「そうか。これまで御苦労だった」


礼をかく様なことはしたくない。それがどんなに辛くて、苦しくて、狂ってしまいそうでも。“彼”にとっては大変なことだったのだ。嘘でも私に付き合ってくれたのは、変わらぬ事実だ。


「そんな言葉要りません」


吐き捨てる様に言う。拒絶しているのが良く分かる。


私は嫌われている。きっと、“彼”からも、ルシアいや“彼女”からも。勿論将軍の“あの人”からも。


「ではこれで帰ります。また斬首台で」


最後は無視をした。聞かなかったことにした。


「悪いな。私はやっぱり死なない事に決めたよ」


完全に足音が聴こえなくなった処で呟いた。石造りの場所では声が反響し、良く響く。


「死んでなんかやるものか」


私の価値は私で上げる。役立たずだなんて言わせない。他に絶対に私を認めさせてやる。私は自由になる。国に縛られる事なく。


「脱獄……」

「おい、坊主。脱獄って本気で言ってんのか?」


どことなく投げやりに声を掛けられ、目だけを動かす。


「私に話し掛けたのはお前か?」

「おお坊主。どっかのお坊ちゃんか?一人称私とか」


前の牢に入っている男は、面倒臭そうに口を開く。だが、何処か好奇心の色が入っている様に思う。やる気の無さそうな半目は、物凄く胡散臭そうだ。


「本気だが?何か用か」

「おいおい餓鬼んちょ。せっかく少し揶揄からかったつうのに、面白くねえ反応だなぁ」

「用が無いなら話し掛けるな」


きつく睨み付けても、ヘラヘラと笑って何処吹く風だ。


「よし、本気なんだな?おし!良いだろう」

「…………」

「手伝ってやる」

「…………は?」


こいつは今なんつった!?手伝う?正気か!?


「床か壁に頭でも打ったのか?それともボケたたのか!?」

「今の子は本当に礼儀が無え」


溜息を付き、ああ嫌だと首を振る。それを見て思わず舌打ちする。話しが進まない。


「おじさん、揶揄う趣味はあっても、揶揄われる趣味も馬鹿にされる趣味も無いの」

「知るか」


お前の事なんか興味無い。どうでもいい情報だ。


「目的は何だ」

「まあ俺も脱獄したいんだわ。一人じゃ無理かもだが、二人なら出来るかもだろ?」


同意を求められても、返事に困る。現に自分は一人でやろうとして致し、出来ないかもなんて、思わなかった。出来なかったら死ぬ。出来たら生きられる。ただそれだけだ。


「お前、罪状は?」

「王族様への無礼行為だとよ。ありゃ事故だつってんのに」


不満そうに言うのだ、よっぽど理不尽な理由なのだろう。この国の法律は色々と面倒だからな。


「坊主は?」

「私がお前に教える義務は無い。が、九日後には死刑だ」

「俺も同じだ。じゃあ、死刑場の斬首台近くにある、牢獄へ移動するときが機会だな」


ああと頷く。いつの間にか、話しが本題に入っていた。流れが掴みずらい。


「処でよお、その足元に転がってるのは何だ?ペンダントっぽいが…………」


それを見て一瞬呼吸が止まった。転がっていたのは、金でできたペンダント。少し前まで身につけていた物と、形状が一緒だ。


「これは私の物じゃない」


そういいつつも、そのペンダントを足で手繰り寄せ、自分の首に掛けた。金属が冷たく、首に纏わり付く様だ。


「お前のじゃないんだろ?何で付けてんだよ」

「私の物じゃないが私の物だったんだ」

「ふーん」


聞くだけ聞いといてふーんとは何だ。無責任な奴め。聞いたのなら、最後まで聞け。


このペンダントは、王族の者だけが付けるのを許される代物だ。ルネアシア王国の紋章が刻まれている。まあ、これを身につけるのを見て、義理の兄弟達からはあまり良い顔をしなかったが。


「その笛は坊主のか?」

「ああ、これか。そうだ。私の物だ」


牢に入れられる時にも取られなかった。手の平に乗る小さく、薄べったい笛だ。私にとって、なくてはならない物なのだ。


「そんなことはどうだって良いんだ。それより、脱出経路を考えるぞ」

「あいよ。」


面倒臭そうだった目が、真剣さを帯びる。その顔が少し意外で頼もしかった。




ーーー私達は九日後、自由を。新しい人生の一歩を手に入れる。






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