追憶
ああ、私は一体どうなるのだろう。重くて拷問死。軽くて斬首といったところだろうか。
悲しみも悔しさも、憎しみも後悔も浮かばない。何も思い浮かばない。
「疲れた」
私の声は石造りの牢の中に、冷たく響いた。
何日かぶりに声を出した気がする。日の光も入って来ないので、どのくらいの時間が経っているのか解らないが、長い間声を出していなかった。
身体が重い。ねっころがりてしまいたい。
腕を少し動かすと、ガシャガシャと金属の触れ合う耳障りな音がする。腕が鎖の付いた手錠で壁に繋がれている今、ねっころがったら手首がなお一層痛むだろう。その前に、ねっころがるのすら面倒に思える。
頭が痛い。四肢が痛い。どうでもいい。痛いから何だっていうんだ。関係無い。
何故私は何時も何時も皆に嫌われるんだ。努力しても認められない。いくら功績を揚げても、不気味がられる。
「何故ですか。父様。母様」
物心付いた時から、長年抱いてきた疑問。
私が女だからか?私が弱いからか?
違う。答えは既に出ている。父様と母様から、答えは貰っている。
『お前を可愛い娘だと思ったことは、一度だって無い。貴様など要らん存在でしかない』
『貴方なんて生まれて来なければ良かったのよ』
冷たく嫌悪と侮蔑が入り混じった恐ろしい声。私は両親から名を呼んで貰ったことさえ無い。笑顔を向けられたことさえ無い。向けられたのは、負の感情。
『子供に癖に泣かないなんて、気味が悪い』
陰で良く言われた言葉。私だって泣きたかった。
だが泣いていたら、お前等はどうした?所詮子供。やっぱり弱い女だと嗤だろう。泣いても泣かなくても、批判され否定されることに変わりはない。
『大丈夫ですよ!赤い目だろうと何だろうと、私達は友達です』
ある少女が言った言葉。
『毒!?そんな!次は私が守ってあげますね』
優しい言葉だった。嬉しかった。
なのに、真意は違った。表面に騙された。
彼女は私を殺すための、暗殺者だった。毒を盛ったのも彼女だった。依頼人は父様だった。
結局私が彼女を殺した。嬉しいと思っていた筈なのに、殺してしまった。
全部全部、この目が赤いせいで嫌われる。一回だけ、この目をえぐり出してしまおうかと、考えたことがある。
『馬鹿!』
『ふざけんな馬鹿野郎!』
酷い罵声を飛ばされた。けど、何処か温か味のある言い方だった。
驚いていると、平手打ちをされた。
ルシアとヘイゼルとイリス将軍。私なんかに本気で怒ってくれた。そんなのは初めてで、どうすれば良いのか判らなかったが、私のことを大切にしてくれるというのは、理解出来た。
「それも嘘だったというのか…………?」
確かめる術はない。嘘でなかったと願いたい。私の唯一無二の存在だったから。
『あんたは、どうするべきかより、どうしたいかを少し考えた方がいい』
城を抜け出して、酒場で知り合った奴に言われた。そいつとは、色々話した。話しの分かる奴だった。
私もあいつの言った様に、自分のやりたいことを少しでもやっていたら、何かが違ったのだろうか。
私はゆっくりと目を閉じた。
今更考えても仕方がない。どうせもう時期死ぬのだから。