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光と闇の歯車  作者:
第1章
6/21

勘違いの基の裏切り

パーティー会場である大広間を、隅から隅までルシア捜し回る。


「何処にいるんだ!?」


ルシアは大広間にはいなかった。所用でも出来たのかと思い、少しの間待ってみたものの、一向に戻って来る気配は無かった。


思い当たる場所はあと、ルシアの部屋だけだ。


「ルシア、いるか?話しがある」


多少乱暴になってしまったノックの後、直ぐにどうぞという声がして、勢いよく扉を開けて足を踏み入れた。


「なっ!?」


入った途端に数人の兵士によって、腕を拘束されて、頭を上から押さえ付けられる。


「おい!お前等どういうことだ!説明しろ!!」


何故私が捕えられているのか解らないが、混乱状態のまま怒鳴りつけた。


一瞬怯んだ様子を見せ、腕の拘束が緩まる。その隙に兵士達の手から抜け出し、部屋の主を睨みつけた。


きっとさっきの奴等の仲間だ。ルシアがこんなことする訳がない。


「名を言え!!」


逆光で見えない人物は、ドレスを着ている様だ。その隣には男が二人。


早くこの部屋から出た方がいい。脳内が警鐘の音で一杯になる。勘が必死に警報している。


だが、私は動かなかった。危険だという本能を理性で無理矢理押さえ付ける。


「名乗れと言っているのが聴こえないのか!」


ドレス姿の女は答えない。その代わりにクスクスと笑う。


警鐘音が強くなる。部屋から出た方がいい。ここから出た方がいい。前にいる奴の正体を知らない方がいい。


「随分な口のききかたね」


優しさに含まれる冷たい声。良く聞き慣れた声。声を聴きたくなかった。


「ユミカ」


逆光の下にいた女は、コツコツと靴の音を響かせ、姿を表す。


「ルシア…………」


呟いた途端に、さっきの兵士達に再び取り押さえられた。


「ふざけるのもいい加減にしろ。ルシア、こいつ等に何とか言ってくれ」


冷静な振りをして、低く抑えた口調でルシアに言う。


「嫌よ。罪人を取り押さえないなんて、正気の沙汰じゃないわ」


聞いたことも無いほどの冷たい声。頭が冷えた感覚がして、身体の芯も凍った様になる。動悸は緊張と息苦しさから激しくなっていく。息が上手く吸えない。


今ルシアは何と言った?


「おい、冗談だよな?」


肯定の返事を期待して、ルシアを見上げる。だがあったのは、冷たく嫌悪の混じった目だった。


「重罪人、ユミカ・ルネシア。罪状は女王という地位に付きながら、国に盾突く反乱軍に手を課したこと」


嘘だ。そんな筈は無い。私はそんなことしていない。


「嘘だ!私は反乱軍になど!ルシア、何かの間違いだ!」


信じてくれ。私は何もやってない!


「罪人の分際で私の名前を呼ばないで頂戴。言い訳とは見苦しい」


何故!?どうして!?


「イリス中将とヘイゼル中佐を呼んでくれ。私は無罪だ!」


あの二人ならきっと、私の無罪を証明してくれる。


「だそうよ。お二方」


ルシアが振り返る。ーーーーそんな、まさか。


「イリス将軍…………。ヘ………イ…ゼル」


私の人生はもう終ったも同然だ。残るは絶望だけ。


「同じ将として、軍人としてがっかりしました。貴方もルシア様の覇権を狙う輩と同じだったのですね。」


実の父よりも父と慕った相手からの言葉。


止めてくれ。それ以上は聴きたくない。耳を塞いでしまいたい。でもそんなのは、腕を拘束されている今、どうしたって出来ない。


わたくしはずっと貴方は、国を愛しているのだと思っていましたが、違ったようだ。裏切りに手を染めるなど」


嫌だ。嫌だ。嫌だ。裏切ってなんかいない。


「申し訳ありません、ルシア様。こいつがこんな奴だったら、俺が処分してたのに。気が付きませんでした」


兄の様だと、師として慕った者の言葉。


処分という言葉が、深く胸に突き刺さり、グリグリと大きな穴を開ける。


それでも涙が出ないのが不思議だ。


「もう良いわ。その罪人を地下牢に入れなさい」


最後は名も呼んでもらえなかった。


私は結局役立たずな邪魔者だったのだな。


虚ろな気持ちで、何の感慨も無くそう想った。



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