回る歯車
もしも、私が普通であったなら…………。
もしも、私がまともであったなら…………。
今はもっと、違っていただろうか…………。
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可愛らしい鐘の音が鳴る。会議の開始の合図。
ユミカは長い長方形の机の、一番奥の席に堂々と座っていた。大人達の中で一人子供がいるのは、なんとも異様な光景だった。
「皆に来てもらったのは他でもない。パーティーの準備、進行の確認をするために集まってもらった」
その中で、臆することなく発言する姿は大したものだ。女王というだけのものはある。
「今から確認をしていくが、疑問に思った事や不手際が有ったら、すぐに言ってくれるとありがたい」
凛々しく雄々しい姿はユミカ自身によく似合っている。だが、それ故に妬みや不満も少なくない。さながら、目の上のたんこぶと言ったところだ。
ユミカが合図をし手元に多くの資料が配られる。その資料の内容を、すらすらと不安や緊張など、微塵も見せず確認して行く。おおかた、全てを覚えて理解しているのだろう。
ユミカを辱めてやろう、と言うのが丸見えな男は下卑た笑顔を顔に浮かべ、わざと答えずらい疑問を口にする。
「こんな控えめな装飾では、権威を示せないのではないですか?」
「食客名簿を見ていないのか?食客は全て同盟国に加入している面々だ。今更権威の大きさを示したとこるで、何か変わるとは思えない。相手側とて、重々承知のはずだ。それにーーー」
そこで一回言葉を切り、不敵に悪戯っ子そうに微笑む。
「きっと装飾よりも、美しく着飾ったルシアに見とれると思うぞ」
ユミカにしては珍しい冗談だ。皆がポカンとした後、少しの間があって緊張感のある空気が一瞬で緩む。だがそうでない者が一人いる。ユミカを辱めてやろうとした男だ。
下卑た笑みを屈辱と妬みに染めて、顔を醜く歪ませる。自分の歳よりも三分の一程度の小娘に、あんな言い方をされたのだ、顔位歪んで当然の事である。
「権威の大きさや品位に関しては、皆の腕の見せ所だ。任せたぞ!」
そうやって不敵に笑えば、皆が了承する。多くは渋々といった感じだが……。女王の命令とあっては従うより他無い。
「解散!各自準備に取り掛かってくれ」
凛とした声で場を絞め、会議は終了となった。
ーーーーーー錆び付いた歯車は間違いを引き起こす。
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「ルシア、準備は出来たか?入るぞ」
軽くノックしたあと、了承を得て扉を開ける。シルクの布をふんだんに使ったドレスを纏うルシア。対して私は男性用の物だが……。
そこにいたルシアは華の様に美しかった。薔薇の様な豪奢さに、百合の様な清楚さ。向日葵の様な明るさとチューリップの様な可愛いらしさ。例えるなら華だろう。
「何?私に見惚れちゃった?」
ルシアは私の顔を覗きこみ、その美しく愛らしい顔に悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。
「ああそうだな。見惚れてたよ」
面倒臭そうに返すと、えーと言って拗ねた振りをする。
「それよりルシア、誕生日おめでとう」
小さく微笑むと、ルシアは嬉しそうな顔をして言った。
「それだけ?贈り物は?良かったね。これでユミカがおばさんにならなくなった」
……………………。
喋らなければ、どっからどう見ても美少女なのに、勿体ない。
「ルシア。私はお前と六ヶ月しか変わらないが?」
「六ヶ月もだよ」
溜息をつき、肩を落とす。疲れた。
「エスコート役は私だが構わないか?」
それにクスクスと可愛らしく笑う。
「嫌と言ったらどうするの?そういうのは決める時に言うのよ」
それもそうだ。決定事項をわざわざ聞かなくても良いだろう。
「さ。行きましょう」
迎えに着た筈の私が最終的に促され、パーティーホールの大広間へと向かった。
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王の挨拶も問題なく終わり、パーティーも滞り無く進んでいる。これなら心配なさそうだ。
その頃私は休暇として、カーテンの後ろの隅にいた。
「疲れた…………」
最初はルシアのすぐ側で護衛をしていたのだが、人が多く寄って来る為、途中でヘイゼルと交換したのである。特に多いのが、貴族の若い男だった。
「あの小娘。調子に乗りおって!笑顔で厭味ばかり。気に食わん!」
「全くだな。女王だかなんだか知ったこっちゃない。」
また私達の悪口か。最近は減ったと思っていたのだが………………。
「だいたい、忌み嫌われた赤目の分際で女王になどあってたまるか!」
やはり私への批判は大きいな。
私の目はオッドアイだ。左目はエメラルドグリーンでいたって普通だが、右目が赤い。何時もは眼帯をして隠してはいるが、幼い頃はしていなかったので、殆どの者がその事実を知っている。
「そこで者は相談なのだが、俺と手を組まないか?」
「手を組む?何のだ」
「反乱を起こして玉座を狙わないか?」
!!
ルシアに知らせないと!押さえ込むだけのことなら、私にも出来なくはないがそうすると、なお一層火種を生んでしまう。
話していた男二人の顔を確認し、足音一つさせずその場を立ち去った。