最終話.例え神でも、誘拐犯は罰せられる
スープ国の転移魔方陣で、ミソシール国の王の玉座の前まで移動しましたわ。
スープ王の国王からミソシール国の国王に許可を取ってできたことだそうです。これは、巫女様一行をミソシール国まで送るということでできたそうですわ。普通はできません。
国王は私たちを見ると残念そうに声をかけました。
「ご苦労だった。思ったよりも早い帰還だな。して、息子たちはなぜ顔色が悪いのだ?」
「二日酔ですわ。国王様」
「情けないな」
「巫女様が優秀で、『魔の空気』に関わらなかったので羽目を外したのでしょう」
「スープ国コンソーメ神殿の神官長ですか」
「お久しぶりです。ミソシール国コーン神殿の神官長。この広間は他国に比べると随分、悪趣味ですね」
「そうでしょう。ところで、どうしてここに来られたのですか?」
「巫女様たちの旅が終わるとグロンテの神がこちらに見えられると聞きました。一国の代表として神のご尊顔を拝めたいのですよ」
「なるほどな。よかろう」
そうこうしているうちに、グロンテの神が現れましたわ。
「ミソシール国の国王、神官長。約束の娘を引き渡せ」
「わかりました。グロンテの神」
と神官長が言うと同時に周りの者たちが私たちに剣が向けました。
「悪いな。そこの小娘。我が国の犠牲となってくれ」
と私に言いました。
「どういうことですか?」
「仲間たちを殺されたくなければ言うとおりにしろ」
「さあ。仲間たちを思うなら私のところに来るがよい」
「分かりましたわ」
「ダメだよ。里桜ちゃん」
「そうよ。言うとおりにすることないわ」
「やめて」
「おとなしくすることですよ。今ここで余計なことをすると私たちは殺されます」
と皆をコンソーメ神殿の神官長がなだめました。
「よく分かったな。その小娘は理解が早い。他の者たちも、従えば悪いようにしない」
私はグロンテの神に従順にするふりをして、彼に近づきましたわ。
彼は自分の思い通りになったという表情をして、満足そうに手を広げています。
そこで、私は彼に近づいたと同時に壺を取出し、彼の頭をめがけて壺を振りおろしましたわ。そして、コンソーメ神殿の神官長は彼を壁に蹴とばしました。
割れた壺からは、『魔の空気』が溢れ出てきました。そして、城の壁に吸いつき腐らせていきます。
「どういうことだ。『魔の空気』を浄化したんじゃなかったのか」
とミソシール国の国王は慌てて言ってきました。
私とコンソーメ神殿の神官長は周りの空気を無視して、グロンテの神をボコっています。今までの恨みのこもった拳や怒りの蹴りを繰り出すコンソーメ神殿の神官長はキレがありすごいです。私の出番がありません。
少し暇になった私は、ハリセンを取出して掲げて
「出でよ。シュー・ア・ラ・クローム神」
と言うと、私の友人である神様が登場しました。コンソーメ神殿の神官長以外は騒然としてしまいましたわ。彼はいまだにグロンテの神をボコるという作業をしています。
「待たされてしまったぞ」
「申し訳ありませんわ」
「あの神官長は私の友人だ。して、里桜。助けに来るのが遅くなって済まない」
「気にしてませんわ」
「私が低級神の不始末をした間にお前は連れ去られていた。不始末を起こした低級神は、ここの低級神に雇われて不始末を起こしたそうだ。お前を自分の物にするためにな。アイツは、巫女とお前を拉致するために画策したようだ」
「迷惑ですわね」
コンソーメ神殿の神官長がグロンテの神をボコリ終えた後、グロンテの神を引き摺ってきて、シュー・ア・ラ・クローム神に挨拶をしました。
「少しぶりです。シュー・ア・ラ・クローム神」
「相変わらず、いい蹴りしているな。近いうちにまた手を合わそう」
「分かりました。コレはどうします?」
「神の世界に連れ帰り、コイツをすぐさま裁く」
コーン神殿の神官長は
「どういうことです? グロンテの神が裁かれるいわれはないでしょう?」
「知っているだろ。自分が管理する世界にも関わらず、ミソシール国しか加護をしなかったことを。その報いだ。神が人間から報酬を受けて、その国だけを加護することは許されないことだ」
グロンテの神は復活し、
「私は悪くない。あの娘が欲しいだけだ。そのために、国限定で加護することは悪くないだろ」
「お前は私の友人を連れ去り、穢そうとした。私の管理する世界の子供たちを連れ去り、この国の道具にしようとした。悪くないわけはないだろ。死を持って償え」
「私は悪くない。この世界のためだ」
「今まで、自分より格下の神が管理する世界だから泣き寝入りさせていたが、今回はそうはいかない。お前よりも私が格上だ。その私の世界の子供たちを連れ去ったのだから分かっているだろうな」
「私は悪くない」
「そうか。悪いがこの馬鹿神は神の住む世界に連れて行く。今からこの世界を管理するのは、モロヘイーヤ神だ。それと、今までのツケがあるからミソシール国は今日を持って、国としては滅びる。もちろん、コーン神殿もだ。コンソーメ神殿の神官長、ポタージュ国、スープ国、ビシソワー国に伝えろ」
「わかりました」
コンソーメ神殿の神官長は、すぐに転移魔方陣の中に入っていき、スープ国に戻っていきました。
今こうしている間に、ミソシール国の王城とコーン神殿が『魔の空気』によって、腐っていきます。
「里桜、海、実優、帆夏、これより元の世界に戻す」
「『魔の空気』は、大丈夫なのですか?」
「もちろん。『魔の空気』は、ミソシール国の王城とコーン神殿を滅ぼすために進化したものだ。他には悪影響を及ぼさん」
「ミソシール国の王城とコーン神殿が滅びれば、『魔の空気』はなくなるんですか?」
「いや、人々がいる限り『魔の空気』はなくならない。本来の『魔の空気』に戻るだけだ。この世界の人間が対処できるようにな。では、戻れ」
と言って、シュー・ア・ラ・クローム神は私たちに手を翳しましたわ。
こうして、私たちは元の世界に戻りましたわ。どうやら、あの日のあの時間のようです。学校の放課後の教室に戻った私たちは、別れてそれぞれの家に帰ります。
シュー・ア・ラ・クローム神によると、グロンテの神は神の住む世界で処刑されたと言っていました。グロンテの神が子どもたちを拉致した世界の神々たちが怒って、生きることを許さなかったそうです。
これにより、『異世界召喚』が世界を管理する神たちの法律により禁止されたそうですわ。