4.ミソシール国が隠す真実
はるか昔、グロンテの世界が危機に陥りました。
この国の者では対応できない事態になり、グロンテの神に人々は相談しました。
そこで、グロンテの神は言いました。
異世界の巫女を召喚しようと
それまでは異世界があることはこの国の人々は誰一人知りませんでした。
グロンテの神の知識と技術により、異世界の巫女様と巫女様を手助けする従者が召喚されたのです。
異世界から来られた巫女様たちは、この世界の人の助けを借りずに『魔の空気』を浄化し、この世界に平和をもたらしたのです。
役目を終えられたあとは、元の世界に帰られました。
しかし、巫女様一行だけに重責を負わせるのは忍びないとこの世界の人と力を合わせて、平和をもたらすようになるのは二度目の召還の時でした。
そこまでは、よかったのです。
数度目の時に、問題が起きました。
召還された巫女様にミソシール国からの同行者である第二皇子とグロンテの神が恋心を抱いたのです。
巫女様は、元の世界に恋人がおいででした。ですので、第二皇子とグロンテの神の思いにこたえることなく、元の世界に帰ろうとなさったのです。
それが第二皇子とグロンテの神の逆鱗に触れ、元の世界に帰る魔方陣をこの世界から永遠に失わせてしまったのです。
そこから、ポタージュ国、スープ国、ビシソワー国のグロンテの神への信仰がなくなり、巫女様が元いた世界の神を信仰することになりました。
グロンテの神はミソシール国だけへの加護を約束すると同時に対価として、数度目の召還時の巫女様と似た容姿の娘を何年かに一度要求するのでした。
ーーーポタージュ国 ビスク神殿 保存「巫女様召還の真実」よりーーー
今日、泊まる宿まで着くとなにやら言い争っている声が聞こえてきましたわ。
「おい、なんでタダじゃないんだ」
「こちとら商売なんだよ。タダで泊まろうとするなんて何様なんだい」
「こんな宿で、この料金は取りすぎだろ」
「馬鹿も休み休みいいな。この国では、どこも同じような料金だよ。これでも、良心的な価格だよ。この時期は人気のお祭りで他国からたくさん観光客が来るから、他の宿は満室でここ以外泊まるところがないのがわかってるのかい?イヤなら隣国まで行くことだよ」
「ふん、ここの宿の質が悪いからだろ」
「馬鹿言ってるんじゃないよ。祭りだから、国境付近より王都に近い宿に客が集中するんだよ。それぐらいの常識を知らないのかい。親の顔が見てみたいよ」
「くっ...」
馬鹿に引けを取らない言い合いをする宿の女将さんはすごいです。思わず、尊敬の目で見てしまいましたわ。ふと我に帰り、
「もうそろそろ止めないと、この宿に泊まれませんわ」
「そうだね。ここまで、世間知らずとは思わなかったよ。これだから、第一皇子か第三皇子にしろって言ったのに」とノアが言いました。
「馬鹿より、ましなのですか?」
「うん。第二皇子では外交が不安だから、任せたことがないんだ。あの通りの性格だしね」
「なるほど」
私は馬鹿と女将さんの間に入り、先ほどから続いている舌戦を止めに入りました。
「申し訳ありません、女将さん。連れが、世間知らずの者で」
「あんたはこいつと違って、礼儀正しいね」
「ちっ」
「はい。重ね重ね申し訳ありません。なにせ、没落貴族な者ですので昔の癖が残ってるのですわ」
「あんたも大変だね。まだ、部屋はあるからさ。どういうのがご希望だい」
「そうですわね。...四人部屋一つと一人部屋四つはありますか?」
「ちょっとまってね。......ちょうど、空いてるよ。ほら、これが鍵」
「ありがとうございます」
「明日まででいいんだね。お祭りは全部見ていかないのかい?」
「旅の途中なので。今回は、家の者に言われて神殿に行くのが目的なのですわ」
「へぇ。やっぱり、この時期の神殿の参拝者は少ないからかい?」
「はい。家の者にそう言われましたわ。それでは、ありがとうございます」
そうして、部屋に行き今夜はもう遅いということで部屋の中で食事をし寝ることにしました。
朝起きて朝食を済まし、ビスク神殿に行くことにします。
女将さんに言われた通り、参拝者が少なくてスムーズに神官長に会うことができましたわ。神官長は
「ミソシール国の方は、こちらの来客室でおくつろぎ下さい。異世界の方は、私についてきて下さい」
「どうしてだ?」
「ミソシール国の第二皇子様。あなたなら分かると思いますが、この世界を救う覚悟を問うためです」
「そうだな。行って来い」
なぜか、馬鹿が偉そうにして言いました。そうして、神官長室に着くと神官長は巫女様召還の真実を語りだしたのです。そして私以外を下がらせ、言ってきたのですわ。
「あなたの世界と私たちが信仰する神、モロヘイーヤ様に言われたのです。あなたにこれを渡すようにと」
と言って、アメジストの水晶を渡してきました。
「詳しくは申せませんが、大事な物ですので奴らに見つからないようにと」
「わかりましたわ」
そういうと私はハリセンを取出し、ハリセンの持ち手の部分に隠しました。
「それと、この封筒を。これは、次に行くビシソワー国のオイーモ神殿の神官長に渡して、お話をお聞きください。あの国で伝えられている『森の真実』についての詳しいことを聞くことができるでしょう」
「この国では伝えられていないのですか?」
「はい。ミソシール国とグロンテの神を警戒して、ポタージュ国、ビシソワー国、スープ国とそれぞれの国で別々の伝承を管理しているのです」
「ところで、今まで来た巫女様たちにこのことは?」
「知らないと思われます。モロヘイーヤ様のご神託により、あなた様にお話ししました」
「そうなのですか」
「それでは、ご友人と馬鹿ども、じゃなかったミソシール国からの監視者の方のところにお戻りください」
「やはり、あの者たちは私たちの監視をしているのですね」
「そうです。巫女様とあなた方を思い通りにしようとしているのです。では、あの者たちの思惑をうまくいかせないためにも、ビシソワー国に近い国境付近まで転移魔方陣をお使いください」
「ありがとうございますわ」
来客室で待っている友人たちとその他のところに行きました。
そして神殿内にある転移魔方陣を使い、この国を後にするのでした。