3. 『魔の空気』の浄化
国境までの移動方法をみんなで話し合っているところ、魔法研究所副所長のノアが魔方陣を使った移動方法を提案してきたのですわ。
「ところで、街中の移動はどうする? 国境付近まで、魔方陣で移動することができるけど」
「そうなのですか?」
「といっても、魔方陣での移動は国内だけだけどね」
「それって、ミソシール国だけが巫女様召還ができるから、他国を警戒しているということですわね?」
「うん、そうだよ。この国だけが持っている特権だと思われれるから、常に狙われてるんだよ」
「思い込みは...怖いですわね」
「そうだよ。努力もせずに、この国の技術を奪おうとするんだから。勝手だよね」
「ところで、どこから国境付近まで移動するのですか?」
「この国で、一番神聖な場所であるコーン神殿だよ。ここからは、ガブリエルに案内してもらうよ」
「わかりました。グロンテの神への信仰が一番強い国がミソシール国なのです。ですので、他国からの魔力干渉を受けないのですよ」
城から歩いて数十分のところに、コーン神殿がありましたわ。
「神官長補佐。父は?」
「城で、王様に謁見中にございます」
「そうですか。ここにある魔方陣で、国境付近まで行くことをお伝えください」
「畏まりました。いってらっしゃいませ。」
神殿の中央の少し先まで行った広間の中心の光射すところに魔方陣がありましたわ。
「グロンテの神のご加護を最も受ける場所なので、ここがミソシール国内のすべての魔方陣の中心になります。この魔方陣の中に立ってください。すぐに移動がはじまりますよ」
魔方陣からまばゆい光が溢れ、次の瞬間には国境検問所の建物の中にいましたわ。
そして、第二皇子であるビクトリアスを先頭にして建物の外に出ました。
目の前には、森が広がっています。
「ここからは、ポタージュ国になる。巫女様方、ここはミソシール国みたいに安全でないから、気を引き締めろ。今から行くのはポタージュ国内のビスク神殿だ」
と、ビクトリアスが言いましたの。
国境のすぐ近くに森があるのは、ミソシール国とポタージュ国の中が良好ではないからだそうですわ。ミソシール国だけが巫女様の召還術を持っていることに嫉妬して、入国を困難にして嫌がらせていると言ってましたの。しかし、そう単純なことではないと私は思いましたわ。そのことは、ビスク神殿の神官長に詳しいことをお聞きしましょう。
森の中を歩いていると、目の前にたくさんの薄黒い雲のようなものが浮いていましたわ。そして、その雲から人と同じくらいの大きさの何かが生み出されているようです。
アクレサンダーが、私たちを背にして
「この雲のようなものが、『魔の空気』です。そして、これから創り出されたものが『魔物』と呼ばれています。巫女様方はお下がりください。ここは私たちで何とかします」
と言って戦い始めましたわ。その時に、ビクトリアスは舌打ちして私たちを守るのが嫌で仕方ないという風に戦っていました。第二皇子という立場にあるんだから感情を隠さないのはどうかと思いましたわ。感情を隠すくらいできないのでしょうか?王族として最低限のことができないなんて、愚かとしか言いようがありませんわ。この瞬間、「この国、終わったな」と思いました。それに、帆夏さん以外守る必要もありませんのにね。そうこうしている内に、新たに背後から『魔の空気』が出現し魔物を創り出していきます。
第二皇子の態度に気を悪くした私たち三人は、八つ当たりするために魔物たちに狙いを定めました。
私は魔物を薙刀でなぎ倒し、実優さんは長剣でぶった切り、海さんは踵落としなどの打撃技で魔物たちを撃退しましたわ。
魔物を倒し終えた後に『魔の空気』たちが合体したのですが、そこから魔物が創り出されるということはありません。ただ、浮いているだけです。後は『魔の空気』の浄化だけだと思った私は、
「皆様は、もう少し先まで行ったところでお待ち下さい。これより、巫女様が『魔の空気』を浄化します。人が多いと集中できないので、お願いしますわ」
「今すぐすればいいだろ。言い訳せずに、早くさせろ」
「これだからデリカシーがない方は困りますわね。ガブリエルさん、コレを引き摺って先に行って待ってもらえませんか?」
「わかりました。確かに神聖な祈りに集中するには人がいない方がしやすいですしね。ただ、我慢できない方がいるのでなるべく早くしてくださいね」
といって、アレクサンダーさんと協力して馬鹿を引き摺って行きました。残ったのは、私と帆夏さんだけです。
「里桜ちゃん、どうすればいいの?」
「別に特別なことはありません。ただ、手で触れれば浄化されると思いますわ」
「じゃあ、どうして追い出したの?」
「信用できない方たちだからですわ。詳しくはあとで話すとして、やってみてください」
そうして、帆夏さんが『魔の空気』に触れただけで跡形なく消えてしまいました。私は念のため、そのあとをハリセンで振り払いましたわ。
「ビクトリアスさんお城を出た後、私たちを嫌っているのを隠そうとしなかったよね。口調も刺々しいし。どうしてだろ」
「考えても仕方ありませんわ。案外、前回の巫女様一行の態度が悪くてそれが伝わっているかもしれませんわね。だから、今回も同じだと色眼鏡で見ているのですわ。それに、馬鹿の態度が悪いままだと、あの国に対して良心を持たなくていいですし、好都合ですわ。なので、気にしないでください」
「うん、わかった」
先に行ってもらった人たちに追いつくため、私たちは森を後にました。