番外編ーミソシール王国の王様と神官長の思惑ー ~神官長視点~
召還前
先日、この世界グロンテの神に巫女様と従者の召還について尋ねたところ今から三ヶ月後に準備が整うとのことでした。
今、この世界は「魔の空気」によってもたらされる被害で世界の危機を迎えています。このため、我々はいつでも巫女様たちを異世界から召喚できるように準備を整えていたのです。
今から私は王都の中心に向かい、そのことを王にお伝えしなければいけません。私は歴代の巫女様たちの召還時からその後のことが書かれている「巫女様召還記」を持ち、国王に会いに行く準備を始めました。
城に着くと王をはじめとした重臣の方々が今か今かと私を待ち構えていました。
「神官長、巫女を召喚する日が決まったのだな」
「はい、王様。今から三ヶ月後にグロンテの神が巫女様方をお連れします」
「そうか。では、歴代の巫女たちと同様に『魔の空気』消滅の旅を終えれば、この国に留まるのだな?」
「もちろんです。グロンテの神がそうおっしゃっていました」
「ではお前たち、国中の見目麗しく実力のある男たちを探すのだ」
「わかりました。王様」
と言って、重臣たちが出て行ったので、私も退室しました。
巫女様達の召還。この国、このトーフ神殿にとって他国に権威を見せつける、数百年に一度訪れる大切な儀式。
国中を挙げて実力のある見目麗しい男たちを探すのは、巫女様たちを誘惑し元の世界に返さないための手段。
それは、巫女様たちを元の世界に戻す方法が存在しないと同時にこの国に留まらせ、国と神殿のために彼女たちを利用する。
歴代の巫女様たちはそうやってうまく利用できた。今回もできるはずだ。
見目麗しい男たちと訓練を共にし、旅で絆を築き、そして彼らの魅力で彼女らを虜にさせればすべてうまくいく。
私は思わず笑みを深くし、神殿に戻っていった。
召還前日
重臣たちを前に王は、巫女様たちを誘惑する男たちを選んだかと問いました。
選ばれたのは、第二皇子ビクトリアス・ミソシール、騎士隊長アクレサンダー・ハイデンブルト、魔法研究所の副所長ノア・ミストリア、私の息子でトーフ神殿の神官ガブリエル・メープル。
彼らも、今日この場にいます。
「神官長、彼らで問題ないか?」
「はい、王様。『巫女様召還記』を読む限り、これ以上の人選はございません」
「父上、いえ王様。歴代の巫女様と従者はかなり国庫にある財を圧迫したと聞きます。それでも、召還するのですか?」
「もちろんだ。巫女たちはそれ以上の恩恵をこの国にもたらすのだからな。ビクトリアス・ミソシール、アクレサンダー・ハイデンブルト、ノア・ミストリア、ガブリエル・メープル、必ずや巫女たちを虜にし、この国のために尽くすのだ。神官長、これからのことを彼らに説明してくれ」
そうして、彼らを神殿まで連れて行きこれからのことを詳細に説明するのでした。
召還当日
何時間も儀式をし、やっとグロンテの神が答えて下さって巫女様がこの国に召喚されました。
そうして、王様の前にお連れしたのですがその中の一人がかなり失礼なことを口にしたのです。
「了承もなしに異世界に拉致監禁誘拐をしたくせに、ただ働きして危険な目にあえとはふざけた態度でいやがりますね。馬鹿ですか?」
と言ったのです。私は血の気を引く思いでした。
その娘はさらに続けたのです。
「私は事実を言っただけです。本当のことを言われたから逆切れとは呆れますね。拉致監禁誘拐と事実を言われたくなければ、それに見合った時給出せや」
歴代の巫女様の従者はここまで失礼なことは言ったことがありません。国を救うのが当然の者であるのに、なんてことを言うのでしょう。
さすがに王の御前であるのに失礼したことに気付いたのでしょう。先ほどの無礼な態度を謝り、その動作がが見惚れずにはいられない礼儀正しい態度です。この分なら、問題ないでしょう。ただ、この時にこの娘に対する違和感に気付いていれば、これから起こる災いは避けられた。後になって、そう思うのです。
巫女様一行の旅立ち当日
王様との面会での会話は先日の礼儀正しい娘に任されているようです。私は安心しました。それに懸念していた「元の世界に戻れるか?」という質問がなかったことに安堵いたしました。役目を終えれば、元の世界に戻れると思い込んでいるのでしょう。そんなこと都合のよいことがあるはずがないにもかかわらず。彼女は、自分の要求を通そうとしたようですが、逆に王に遣り込められいます。当然ですね。この国の賢王と呼ばれる方なのですから。ですが即旅立ちは、王が許可を与えてしまいました。
巫女様と従者が退室し、私は王に即旅立ちの許可を与えたのはどういうことかと尋ねました。
「歴代の巫女たちの散財ぶりを知っているだろ」
「はい。それ以上の恩恵があるためこれまでの王たちは文句が言えなかったと」
「そうだ。それに、元の世界に戻る方法がないのだから早く旅立ってもらった方が都合がよい。奴らのご機嫌取りをしなくて済むのだからな」
「そうですね。この世界の住民の苦しみを分かって早く旅立つことを彼女は提案したことですし」
「今回は今まで以上に、こちらの都合のよい娘たちをグロンテの神が召喚してくれたようだしな。今宵は勝利の美酒を飲むとしよう」
「私はグロンテの神の感謝の祈りを捧げます。それでは王様、失礼します」
私は神殿に戻り、トーフ神殿に勤めている者たち全員とグロンテの神に感謝の祈りを捧げるのでした。