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怪盗黒薔薇  作者: 杠葉 湖
第8話 百合とニーナのマジックショー
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第8話 百合とニーナのマジックショー-3

 翌日の昼休み、眼鏡をかけた百合は中庭のベンチに腰掛けながら、図書室で借りてきた本を読んでいた。

 風が少し強くて寒さを感じるが、紅葉が吹雪のように流れる様は秋ならではの光景で、なんとも風情がある。

 『初心者のためのマジック講座』

 夕奈オススメの手品入門書だ。

 ニーナの影響を受けてか、とりあえず読んでみようと思う気になったのだ。

「この手品だったら私にもできそう……これはちょっと難しいかな?」

 ページを開いていくたび、本の世界に吸いこまれていく。

「こんな手品もあるんだ……あっ、これはニーナさんにしかできなさそう……」

 百合は夢中になってその本を読みふけっていた。

「あれ?百合?」

 ふと誰かに呼ばれた百合は、現実に引き戻されて顔をあげた。

「あっ……」

 そしてそのまま言葉を失う。

 それは通であった。

「ひょっとして、邪魔しちゃった?」

「い、いえ、そんなことありません!」

「そう?それならいいんだけど……隣、いいかな?」

「は、はい……」

 百合はうつむきながら答えた。

 通は隣に座ると、興味深げに百合の読んでいる本を見た。

「こんなところで本を読むなんて珍しいね。何を読んでたの?」

「え、えっと、マジックの入門書です」

「マジックの入門書?」

「はい、そうです……」

 百合は恥ずかしそうにその本の表紙を通にみせた。

「へぇ、意外だなぁ」

 通は驚いたようにその本をマジマジとみる。

「百合って、手品が好きなんだ?」

「えっ?あっ、は、はい……最近興味を持つようになりまして……」

「そうなんだ?僕も好きだよ。おもしろいよねマジックって。現実という鎖に縛られた窮屈な世界に夢という名の自由を与えてくれるようで」

「そ、そうですよね……」

 百合は緊張のためか言葉少なに答えると、通を見た。

「あ、あの……ひとつお聞きしてもいいですか?」

「なに?」

「どうして……意外だと思ったんですか?」

「えっ?」

 通はその言葉にドキリとしながらも正直に答える。

「ほら、百合って詩集や純文学っていうイメージがあるじゃないか。だからマジックだなんてちょっと意外だなぁ、なんて思ったから……」

「通君も私をそのようなイメージで見ていたんですか?」

「えっ?」

「私はベンチに座って舞い落ちる紅葉を眺めながら詩集を読む文学少女じゃなくちゃいけないんですか?」

 百合は少し悲しい思いになりながら通を直視した。

 眼鏡の奥に隠れた瞳が涙で潤む。

「ゆ、百合……」

 通も言葉を失った。

 静かにじっと互いの顔をみつめあう。

「あ~っ!?お兄ちゃんが百合ちゃん口説いてるぅ~!!」

 突然元気な声が二人の空間に割って入ってきた。

 驚いた二人はその声の主を見ると、中学の制服を着た少女がニヤニヤしながら立っていた。

「さ、沙絢!?」

「ど、どうしたんですか?こんなところで」

「あら?私の事は構わなくって結構なんですよ?お二人さん。どうぞ続きをなさってくださっても」

 沙絢の言葉に通と百合は顔を見合わせると、慌てて顔を背けた。

 沙絢はその様子を見て笑いだした。

「いいねー若いって。それじゃあ、若さに任せて、軽ーく口づけでもしてみましょうか!!」

「沙絢!!」

 通は顔を真っ赤にしながら、右手をグーにして沙絢の頭をぐりぐりした。

「痛い!痛いよお兄ちゃん!!」

 沙絢の目に涙が浮かぶ。

 百合はその光景を見てクスッと笑った。

「でもどうしたんですか?隣接してるとはいえ、珍しいですね。沙絢ちゃんがこちらに来るなんて」

「ちょっと用があってね。まぁ、どーせ同じ敷地内にあるようなものなんだし、沙絢もたまにはコッチに遊びに来なくっちゃ」

「そうなんですか?」

「そうなの。でもまぁ、帰り道に決定的瞬間の一歩手前を目撃することになるとは思わなかったけどね。それじゃあ百合ちゃん、お兄ちゃん、まったねー」

 沙絢は上機嫌な様子で手を振りながら、その場を立ち去っていく。

 再びその空間は静けさを取り戻した。

「……なんだか嵐のようだったね」

「はい……」

 二人は互いに顔を見合わせて笑った。

 少し気まずい雰囲気が流れた二人ではあったが、沙絢の登場はそれを解消するのに十分過ぎるほどの効果をもたらしたのだ。

「あっ、そうだ」

 通は思い出したようにブレザーのポケットからチケットを二枚取り出した。

「これ、ミスタートリックの超魔術ショーのチケットなんだけど、よかったら一緒に見にいかない?」

「えっ?わ、私がですか?」

 百合は思いがけない申し出に目を丸くした。

「あ、あの……百合が迷惑なら、別にいいんだけど……」

「そ、そんなことありません!!」

 百合は力強く首を横に振った。

「あ、あの、私……通君とご一緒、させて頂きます……」

「ほ、ホント?」

「は、はい……」

 チケットを受け取った百合は顔を赤らめながら恥ずかしそうにうつむいた。

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