表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪盗黒薔薇  作者: 杠葉 湖
第3話 ニーナの登校
13/45

第3話 ニーナの登校-5

 午後の授業も終わり放課後。

 ニーナは一人、夕暮れに染まった町の商店街を歩いていた。

「いやぁ、今日は疲れたなぁ。久しぶりに充実した一日だったわ」

 充実感に溢れたニーナは、ふと店のガラスに映った自分の姿を見た。

(あの時、あんな事にならなければ、あたしにももっと違う人生があったのかなぁ……)

 少しだけ寂しさがこみ上げてくる。

「あれぇ?百合ちゃん」

 突然、聞き覚えのある声がニーナの思考を遮った。

 声のする方を振り向くと、そこには通と沙絢の三笠兄妹が、買い物袋を持って立っていた。

「どうしたの?こんなところで?」

 沙絢は不思議そうに尋ねる。

「う、うん、ちょっとね」

 ニーナは言葉を濁すが、沙絢はピンと来たらしく、ニコリと笑った。

「そういうことですか。まぁ、立ち話も何ですし、この店でちょっと休みましょうか」

 そう言って、ニーナの手を掴むと、そのままニーナが見ていた店の中へと入っていく。

「えっ!?」

 突然の出来事に、戸惑いの声を上げるニーナ。

「さ、沙絢!?」

 通も慌てた様子で後に続く。

 三人が入った店は喫茶店だった。

 内装がファンシー系で装飾されており、カップルの姿が目立つ。

 中にはニーナ達と同じように、生徒の姿も見受けられた。

「いらっしゃいませ−。何名様でございましょうか?」

 店に入るなり、フリフリのかわいらしい制服を着た女性店員が人数を尋ねてくる。

「三人でーす」

 沙絢は躊躇することなく答えた。

「ではこちらへどうぞー」

「はーい」

 店員の後に沙絢はついて行く。ニーナと通も仕方なく後へとついて行った。

 そして三人は、窓際の席へと案内された。

「お兄ちゃんはそっちね。沙絢は百合ちゃんの隣ー」

 沙絢はそう告げると、案内された席の椅子へと座る。

 ニーナと通は顔を見合わせると、ニーナが沙絢の隣に、通が沙絢の向かい側に座った。

「いらっしゃいませー」

 店員が水を3つ運んできて、テーブルに置く。

「あ、スペシャルパフェください」

 すると沙絢は、メニューも見ずに注文を告げた。

「はーい。スペシャルパフェお一つですねー。かしこまりましたー」

 店員は注文をとる機械にオーダーを打ち込むと、そのまま店の奥へと消えていく。

「えっと……僕、まだ何にも頼んでないんだけど……」

「いいのいいの。お兄ちゃんは気にしなくても」

 沙絢は上機嫌で兄に言葉を返した後、ニーナを見た。

「百合ちゃんもこの店入りたかったんだよね。わかるよ。この店の制服、かわいいもんね」

「う、うん……」

 ニーナは苦笑しながら答える。

 どうやら、店に入りたがっていたのと勘違いされたらしい。

 とりあえず、ニーナは話を合わせることにした。

「このお店ってとっても有名だから。でも、一人じゃ入りづらくて……」

「わかる、わかるよその気持ち。沙絢も一人じゃ入る勇気ないもん。ここってカップル御用達の喫茶店だもんね」

 沙絢はウンウンと頷く。

(それでカップルが多いのね)

 ニーナはそれとなく辺りを見回し、状況を把握した。

「そういえば百合ちゃん、さっき買い物してる時にお兄ちゃんから聞いたんだけど、今日テストだったんだって?」

「そ、そうだけど……」

「はぁ、いいよなぁ……百合ちゃんは頭がよくって。沙絢なんていっつも赤点ぎりぎりだって言うのに……」

 沙絢はため息をつくと、何かを思いついたようにポンと手を叩いた。

「そうだ。百合ちゃん、今度うちに来て沙絢に勉強教えてよ」

「ええっ!?」

 ニーナは突然の申し出に驚きの声を上げたが、同時に心の中で叫んだ。

(これは大チャーンス!一気に百合ちゃんと通の仲を進展させなくちゃ!しっかりするのよ、ニーナ!!)

「ほら、四阿さんも困ってるじゃないか。沙絢、わがまま言っちゃ駄目だぞ。ごめんね四阿さん」

「い、いえ……」

 通の言葉に、ニーナは首を二度三度、横に振る。

「そ、その、もしご迷惑でなければ、沙絢ちゃんに勉強教えてあげようかなぁ、と」

「ホント!?」

 沙絢は目をキラキラと輝かせる。

「よかったね、お兄ちゃん」

 そして悪戯っぽく笑いながら通を見た。

「な、なんで僕なんだよ」

 通は慌てて横を見る。

 その仕草のおもしろさに、ニーナは思わずクスクスと笑った。

「あ、四阿さんまで……」

 通は恥ずかしそうに下を向く。

「お待たせしましたー。スペシャルパフェでございまーす」

 そこへ、タイミングよく沙絢の注文したパフェがやってきた。

「えっ……」

 あまりに大きさに通は絶句する。

 それは大きなガラスの容器にアイスやらホイップクリームやら果物やらが山盛りに飾られたパフェで、苺ソースやチョコレートソースがたっぷりとかけられている。

 少なくとも、一人で食べる量ではない。

「えへへ。沙絢、一度でいいからこれ食べてみたかったんだー」

 沙絢は嬉しそうにスプーンを持った。

「ここってカップルばっかりだから、ちょっと入りづらかったんだよね。百合ちゃんに大感謝。いっただっきまーす!」

 そしてパフェの一部をスプーンですくい、口の中へ。

「うーん!おっいしー!!」

 そして幸せそうな表情を浮かべる。

 ニーナと通は顔を見合わせ互いに微笑むと、スプーンを持った。

「いただきます」

「いただきます」

 そして沙絢と同じように、一口分をスプーンにすくい、口の中へ。

「ホント、おいしいねこれ」

「うん。沙絢の言ったとおりおいしい」

 それぞれ感想を述べる。

 そんな二人を、沙絢がにやにやしながら見ていた。

「うん?どうしたんだ沙絢?」

 通が不思議そうに尋ねる。

「えへへ」

 沙絢はニヤニヤしながら答えた。

「お兄ちゃんと百合ちゃんの、二人の初めての共同作業だなぁって思って」

『!!』

 ニーナと通は途端に動作を硬直させ、顔を赤くする。

「さ、沙絢!なんてこと言うんだ!!」

 通は沙絢に抗議の声を上げた。

「えー?沙絢、百合ちゃんがお姉ちゃんだったら嬉しいんだけどなー?」

 沙絢はからかうように、ニーナと通を見る。

(この子、百合ちゃんと通の仲を応援してくれている……!?)

 ニーナはうつむきながら、そんなことを考えた。

「ほら見ろ。四阿さんが困ってるじゃないか?ごめんね四阿さん。気にしなくていいから」

「あれえ〜?お兄ちゃん。顔が真っ赤だけど、熱でもあるのかなー?」

「こら!沙絢!!」

「えへへ〜」

 そんな三笠姉妹の和気藹々とした会話の中、ニーナはおもむろに立ち上がった。

「あ、四阿さん?」

 ニーナはそのまま通の隣へと座る。

「あ、あの……」

 通は戸惑った様子でニーナを見る。

 しかしニーナはそんなことお構いなしに、眼鏡を外し、テーブルの上へと置いた。

(頑張るのよニーナ!これも百合ちゃんのため!!恥ずかしいのは最初だけなんだからっ!!勇気を出すのよ!!!)

 そして通の頬に手を当てる。

「えっ!?」

 通は戸惑いの声を上げる。

「あ、四阿さん……?」

 通は顔を赤らめながらニーナを見る。

 ニーナはそのままゆっくりと顔を近づけ――

 自らの額を、通の額に当てた。

 そして、やや間を置いた後、ゆっくりと額をはなし、眼鏡をかける。

「……うん、確かに熱いかな。駄目だよ?風邪には気をつけないと」

「は、はい……」

 通はものすごくかしこまった様子で、小さく頷く。

 そんな二人の様子をドキドキしながら見ていた沙絢は

「えへへー」

 嬉しそうに笑うと、二口目のパフェを口の中へと運んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ