第17話 フロイデンベルク夫妻
平原を埋め尽くすかのような大量の兵士、兵士、兵士。森を抜けた平原。そこには見渡す限りをうめつくしたと言わんばかりに兵士がフロイデンベルク公爵の旗をこれ見よがしに掲げていたのであった。
「フロイデンベルク公爵とは相手に不足なしじゃな! 実に楽しみじゃ!! 」
そんなことを言って馬の手綱に力を込めて走り出そうと身を乗り出す伯爵。すると夜空に突然として兵士が掲げている旗の主人であるがフロイデンベルク公爵が現れた。いや、本当にそう表現するしかないほどに唐突に出現したのだ。それも敵兵であるオレたちすべてが見えるぐらいに巨大な姿でだ。
「我が名はバンハウト・フォン・ヴェルトハイム・フロイデンベルク。諸君らも、我が名を知っているだろう? アルカディア帝国最高位の魔術師にして公爵である!!」
親父がなんでここにいるんだという気持ちも忘れるくらいに夜空にオレはその光景に驚きを隠せなかった。いったい、人間を投影する魔術をどこかで聞きつけてきたんだろうか。いや、本当に驚きを隠せないぜ。だが、伯爵がヴァルデンブルグ王を夜空に投影した魔術をあえてここで使ってくるのはフロイデンベルク公爵の意地だろうな。いや、あの父親の性格を考えるとただ新しく知った魔術を単純に試してみたかっただけかもしれないが…
「ハノファード伯爵に告ぐ。諸君らは帝国。いや、このフロイデンベルクに敵対した。そう、生きて帰れるとは思わないことだ! 我が娘をよくも! うう、世界で1番に可愛い、リリア…。っう!? ゴホォ!!」
親父が突然に泣き出したと思ったら、急に吹き飛んだぞ!?
「アナタ? 無駄なことを話さなくてもよろしくてよ?」
って、急に親父が夜空から消えたと思ったら母上が映し出されたぞ!? 彼女も戦場に来ていたのかよ!?
「我が一族に仇なす存在はすべて消し去るのみ! 反逆者ハノファード覚悟なさい!」
「ママ〜! 伯爵と男の沽券をかけた戦いをするんだから邪魔をしないでくれよ。彼の力を考慮して領地にいる全兵力を結集したんだからさ…」
親父の奴はバカだろう。いや、前から馬鹿だと思っていたけど。大馬鹿だよ。領内にいる常備軍をすべて引き連れてくるって考えられるか!? 領内で何かあったらどうする気だよ。
「アナタ、ではそろそろ戦闘を開始なさったらいかがかしら?」
そんなオレの気持ちなど知らないフロイデンベルク公爵夫妻はなおも話を続ける。
「わかったよ。貴公らはこのフロイデンベルクに敵対した。そう、生きて帰れるとは思わないことだ! 我が一族に仇なす存在はすべて消し去るのみ! 全軍、敵はハノファードだ。進め!!」
親父の号令の下に兵士らが一挙に進軍を開始し、こちらに向かってきた。
「相変わらず、ふざけておる奴らじゃわい。だが、実力は本物じゃからのう。ブラインシュッタットの小僧の前に良い前哨戦とするか! モノども、儂に続け!!」
そう言って、馬に鞭を打ち駆け出す伯爵。
「俺様たちもジジイに続くぞ! ヴァルデンブルク解放戦線、ここが正念場だ!! 行くぞ!!」
レオナードは辺りに響き渡るような大きな声でそう言うなり、前に座るオレを抱き寄せると馬を走らせたのであった。戦争という極限状態で高鳴るオレの心臓など彼は全くお構いなしに…




