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第13話 戦闘狂

 ハノファード軍、解放戦線の連合軍は馬を走らせ、小高い丘から下った先にある林を抜けると、そこには鳥が羽ばたいた様な陣形で敵軍が待ち構えていたのであった。


「儂らの動きを読んで先に丘の上に陣を敷き待ち構えっておったか! やはり、こうでなくてはのう。戦は本当に面白いのう!!」


 伯爵の歓喜に満ちた声が発した内容の通り、オレ達にとっては予想外。しかも、敵軍はこちらを殲滅するために左右の前衛が騎馬隊、後衛が魔術師という大規模な編成部隊を伴った天撃の陣をしいていた。


「動きがバレていたのかしら? それとも…」


 迅速果断な伯爵が自ら兵を率いて決戦を仕掛ける。奴らはそのような決断を伯爵がすると予想をつけていたのだろうか?


「ようこそ、ハノファード伯爵。いや、裏切り者のハノファード! ジーク様に逆らうような貴様のような奴がいつまでもいるから戦いがなくならないのだ!!」


 雨が降る空に響くような声が聞こえたと思うと空に敵将が映し出された。はち切れんばかりの逞しい肉体、厳つい顔。コイツは…


「俺の名はゲオルグ。ご老体が誰によって殺されるのか知らないとかわいそうだと思って自ら名乗りを上げてやったぞ? ハハハ!!」


 伯爵は顔を一瞬だけ歪めた後にケイフォードの小倅と言い、舌打ちをした。


「声を拡大せよ!!」


 そう言って、自らの軍にいる魔術師に音声拡大の呪文を唱えさせる。


「帝国の子飼いに成り下がった逆賊の部下風情が偉そうに言うようになったわい!」


「この声はハノファード!? フフフ、圧倒的な兵力差で、ビビったか。まぁ、良い。今なら降伏も認めて…」


「我が友ケイフォードが生きていたら泣いておるだろうな。寝ションベンが終わる年になったと思ったらハノファードが怖い。怖すぎて大群がいないと安心できないってのう!」


 伯爵は敵軍の将が話していることなどお構いなしに自らの言葉を被せて、暴言を吐く。それを聞いたゲオルグは大きな体を震わせて、


「いつの話をしておるのだ!! くそ、死に損ないのジジイが!!」


 と言う顔も羞恥の所為だろう。真っ赤になっている。


「フフフ、図星を突かれて逆ギレしておるのう。すぐ、そっちに行くからな! 昔みたいにションベンを漏らすでないぞ?」


「ぬかせ! ここが貴様の死に場所だ! 雨が降っているこの状況で貴様など力の半分も出せない。役立たずの老ぼれでしかないだろう? 全軍に告ぐ、逆賊であるハノファードを打ち取ぞ! 俺に続け!!」


 ゲオルグの合図で敵の騎馬部隊が坂を転がるように駆けてくる。


「皆の者、今宵は素晴らしい天気じゃ!! そう雨じゃ。フフフ、恵じゃのう」


 そう言って馬上で笑い転げるように大声で笑う伯爵を見て、同じ馬上にいるレオナードがこちらに問いかけてきた。


「じじい、本当に狂ったんじゃないか? どう思う?」


 どう思うって、そんなことを俺に聞くか? バカなの…


「そんな訳ないじゃない」


 オレがレオナードとの会話が終わる前に、


「皆の者、動揺するな。儂は奴らがこちらにネズミを紛れ込ませていたのを知っているのじゃ! 故にこの地でこのような事態になることは想定済みよ! さてと、雑魚どもがここまでくるのをしばらく待とうかのう!!」


 と伯爵は言って不敵に笑った。そして、しばらくすると眼前までゲオルグが敵軍を率いて駆けてきた。


「よし、そろそろじゃな。儂が育てた魔術師の強さを見せてやれ!」


「お館様の望みだ。あいつらを泥にまみれさせろ!!」


 すると大地が揺れ出したと思うと、突如として土が盛り上がり出した。


「あれはお嬢ちゃんが使った魔術と同じやつじゃないか?」


 そう、あの魔術はオレが壊れた城壁から突破されないようにしたモノだ。だが、数百はいる伯爵の魔術師軍団が放つ割にはそれほど高くはない。精々、子供であるオレと同じくらいの高さだ。


 しかし、突然に現れた壁に次から次へと騎馬隊の馬は衝突して落馬していった。


「さてと、騎馬隊のメンツは1、2、3人と半分も減っておらんか。そう上手くはいかんか。ここが正念場かのう」


 その光景を見ていたハノファード伯爵はそう言って厳しい表情になる。


「どこだ! 老ぼれのクソジジイ! こそこそと隠れて逃げてるのか?」


 先ほどまで、軍を自ら先導していたゲオルグが持ち前の騎乗技術で壁を乗り越えて、落馬しなかった少数の兵を率いてそのまま突撃を仕掛けてきた。


「嘘だろう? 無謀すぎるだろ!?」


「そうね。でも、伯爵の性格を考えるとね…」


 レオナードと同意見だ。将として上に立つ者の行動じゃない。先ほどまで万全の準備をして、待ち構えていた人物とは思えない。ただ単純に頭に血がのぼることで周りが見えなくなるようならば将として失格だ。


 だが、先ほどの会話から奴は伯爵と古くからの付き合いがあり、彼の性格を熟知している。ならば残念なことに愚策に見えるこの作戦は思いのほか良いのかもしれない。


「おい、まじかよ。ここでそんなことするのか? これは王国のすべてをかけた戦争だぞ!!」


 驚愕をしているレオナードが見ている先に視線を移すと剣を馬上で高々と掲げる伯爵が見えた。やはり、伯爵の悪い癖が出たか。


 実に一騎打ちが好きな伯爵らしい行動だけどさ。こんな王国の復興をかけた戦いで自分の流儀を貫くのか…


「さぁ、敵将ゲオルグよ。儂はここにいるぞ! 儂のこの首が欲しくば、ここまでくると良い!!」


 そう言う姿はとても高齢に見えない。それどころかいくさという水を得た魚が泳ぎまわるように力強く若々しかった。

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