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第12話 老将の出陣

 冷たい雨が叩きつけるように降り、その激しさはまるでこれからの戦が激しくなることを予見しているようだった。


 風ではためくハノファードの家紋が印された旗を見るためにアルカザル城の正門前に視線を上げる。それだけで、顔に当たった雨水が大量に滴っていくのを感じるほどだ。


「ガキとは言っても、綺麗な面が泥で汚れているぞ。これで拭いておけよ」


 そう言ってレオナードがオレにハンカチを渡そうと手を伸ばしてきた。


「ありがとう。でも、必要ないわ。どうせ、雨で流れていくもの」


「そうか。うん? あの旗を見ていたのか。嬢ちゃんは前世の記憶で知っているだろうがジジイは元ヴァルデンヴルクの公爵だからな。王家の旗と同じようなデザインが許されていたんだぜ」


 女神アルテイル・ジェイドの象徴である半月を中心に真っ赤な色で染まった旗。そのデザインは紋様が反対の半月で周りが青色であったならば旧ヴァルデンヴルクの国旗である。そう、あれは彼が王家と密接に関わる人物であったために王家から贈られたハノファード伯爵のための旗なのだ。


「フリードリヒ・ハノファード様が通るぞ。開門、開門だ!!」


 この城の主にしてヴァルデンヴルクの重鎮であったハノファード旧公爵が門から出ると同時にアルカザル城の正門前にもう一つの青い半月の国旗が新たに並べられるように掲げられる。そして、兵士が青い半月の旗を各場所に掲げ終わるのを確認した後に咳払いをした。すると辺りにいた兵士たちから彼に視線が集まる。そして、彼の言葉を待つために鎮まっていった。


「勇敢なるヴァルデンブルグの戦士たちよ」


彼は辺りが一様に静かになったのを見計らい、部下たちである兵士たちに向かってドラのような大きな声で語り出した。


「ようやく、我らの旗が帰ってきた。あの大逆人ジークが奪った我らの旗を! ここからだ。陛下がいる儂ら国は再びここから歩み始めるんだ!」


 と言って老齢の彼は真新しい旗を指差した。すると兵士たちが雨などモノともしないように突然の出来事に歓喜の声を上げる。


「そして見るのだ。あそこに掲げられている2つの旗を! あの朝焼けのような赤い海に昇がる半月。さらに昼間の青い海のような旗に半月。二つの半月が重なり満月になっておる。まさに時は満ちたのだ!」


「お館様も粋なことをしてくださる。二つの半月の旗を重ねて満月に仕立てるなんて!!」


「今回はオレ達には王がついている。負ける訳にはいかない!!」


 ハノファード家の兵士、解放戦線の兵士の陣営から口々にそんなことが聞こえてきた。

 

「すでにお主らも知っておるだろう。逆賊ジークがあろうことか死霊使いをこちらに侵入させて市街に住む無辜むこの民らに多大な被害が出ておる! ことは一刻を争う事態である。速やかに大逆人を始末し、戦を終わらせねばならぬ!!」


 そして王もそれをお望みであると言って力強く微笑む。鎧兜を身にまとった老将の言葉を聞き兵士たちは各々の思いを吐露するように語り出していた。しかし、しばらくするとコホンと咳の音が耳に聞こえてきたと思うと伯爵は落ち着けと言わんばかりに手を前に振る。辺りが彼からの言葉を待つために鎮まっていった。すると、用意された馬に跨るなり、


「逆賊にこの街に住む住民を人質に取られ、大逆人が国を滅ぼすことを止めることができなかった。さらに情けないことに孫娘が儂を庇って逆賊に人質になるような始末じゃった。実にそれは屈辱的な日々であり、己自身を責めたものじゃ」


 彼は顔を俯け、憂と悲しみに満ちた声音でそう言う。


「だが、そんな苦渋に耐える日々は終わりを告げ、儂らの誇りを取り戻すときがついにきたのだ!」


 彼は急に顔を上げたかと思ったら、長年に渡って我慢していたことが終わりを告げる様な晴れ晴れとした表情で、


「モノども、今こそ、ヴァルデンヴルク王国再興の時じゃ! 儂に続け!!」


 と言い、アルカザル城の主人あるじであるフリードリヒ・ハノファードが馬を走らせて、出立したのであった。

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