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第11話 死霊魔術師と死体たち

 フューネラルが気味の悪い笑みを浮かべたと同時に彼が持つ1冊の本から禍々しい魔力が放たれた。


「おい、クリ坊! 嬢ちゃんを急いであの詰所に連れて行け!!」


「わ、わかった! リリアナ、失礼するよ」


 クリスはレオナードの突然の怒声にいつもなら反発しただろう。しかし、彼はフューネラルの持つ本から放たれる魔力の不気味さを感じ取ったのかすぐにオレを背負い駆け出した。


「え!? あれは、何かしら? 人間の手!」


 クリスに背負われながら後ろを振り返ると先ほどまでいた場所の大地が盛り上がったと思ったら、中から、土をかき分ける様にして人間の腕が突如として出てきた。


 いや、腕だけじゃない。よく見ると砕けた頭を大地から覗かせている。そう埋葬された人間の死体が這い出てきているのだ。あの動いている屍はきっとここで立派に戦っていた兵士達のモノだろう。


 それにしてもジーク軍は酷いことをする。ルクレツィアやフューネラルとか言う爬虫類顔の男もさ。人の死をいったいなんだと思っているのだろうか!


「リリアナ、どうしたんだい? って、なんだ!? 死体が動いているぞ。それになんだよ。あの数はいくらなんでも多すぎる。あれはヤバいよ。絶対にヤバい!!」


 クリスの言う通りでレオナードたちを取り囲む死体の数を見る限り、10人や20人ではない。再度、振り返った時にレオナードやアルフレッドを既に死体が取り囲み彼らを発見することができなかったほどだ。


「落ちつきなさい。クリス、もう詰所前についているわ。早く部屋に入って窓から向こうの様子を見ましょう」


 オレの言葉を受けたクリスは小さく何事かを呟いた。弱っている君を守る必要があるから冷静じゃいられないよと聞こえた気がする。


「うん? 何かしら、私の心配をしてくれていたの?」


 なんだ? コイツは意外に可愛いところがあるじゃないかよ。少年兵をやっていたから、もっと冷静で淡々としているかと思ったのにな。


「いや、それよりも早く詰所に行って彼らの安否を確認しよう」


 って、クリスの言う通りだ。今はそんなくだらないことを考えている場合じゃない。クリスは早口でそう言うとオレを背負ったまま詰所の中に向かった。


「リリア、多少は壊れているけどこれは座れるよ」


 クリスは部屋に着くなり、倒れていた椅子の中から使えそうな物を見繕い、オレに座るように促してきた。


「ありがとう。それよりもって!?」


 奇怪な叫び声が聞こえたと思ったら爆音が響きわたる。それに反応して視線を窓に向けてオレたちは外を見る。それと同時にオレは外の音が聞こえるように呪符を取り出して詠唱し、聴力を強化する。


「燃えなさい。速やかに燃えなさい!!」


 そう言って辺りにいる死体を滅却殺菌でもしているかのように次から次へと爆炎の魔術で片付けていくアルフレッドが見えた。さすが、元近衛のアルフレッドだ。こんな状況でもどうじてないのかいつも通りに事もなげな顔で魔術を放つ。


「雨が小降りになってきたので炎の魔術が何とか使えますが次から次へときりがないですね」


「本当にゴミ虫みたいにわいてくるな」


 アルフレッドが淡々と死体を燃やす中、鼻を押さえてバカみたいに騒ぐレオナードが視界に入ってきた。


「アルフレッド、腐乱死体をもっと高温で焼いてくれよ。すげぇ、クセェ! ちくしょう! 動く死体め!」


「善処します」


 …うーん、レオナードって口ばかり動いて逃げ回るだけなのか、カッコワルイ。


「燃やされてしまいましたね。でも、安心してください。まだまだいますからね! さぁ、死体ザコども奴らに目にものを見せてやってください」


 フューネラルはそんなことを言って微笑みながら次々と死体を呼び出してはレオナードたちの下に送り出していく。


「安心じゃねぇ! 臭いんだよ。腐敗した死体が燃える臭いが俺に移ったら、どうしてくれるんだ! もう、死体なんて出すな!」


「知りませんよ。三十路、あれ四十路でしたっけ? まぁ、忘れましたがそんなおっさんの臭いなど腐敗臭がする死体と変わらないでしょう?」


「変わるわ!! ボケが!!」


 レオナードがそう叫ぶと空に黄色の閃光が激しい音ともに上がる。それを見てフューネラルが、


「おっと、あなたとのお遊びの時間はここまでのようですね。そろそろおいとまをしなくてはなりませんね」


 と大声で笑いながら先ほど作った土嚢がある方向とは反対に駆けて行った。


「ま、待てこの野郎!」


「待てと言われて誰が待つのでしょうね? あなたみたいな狂犬の相手などしたくありませんよ。そこで犬は死体の骨とジャレてるといいですよ」


 レオナードの言葉を聞いて奴は振り返ってそんなことを言ってきた。いや、十分に待っているよね。オレならレオナードの戯言を放って走って逃げるぞ。


「俺はイヌッコロじゃねぇ!」


「ハッハハハ、素敵な笑顔だ。爽快だね。さてと満足したからそれでは失礼するよ」


 嫌がらせの結果を確認したいためだけにアイツは振り返ったのかよ。性格がクソみたいな奴だな。


「死ね、死ねこの根暗野郎!!」


 その後、アルフレッドがすべての死体を燃やし尽くすまでレオナードはアホみたいに叫んでいた。オレはそんな奴を哀れに思い、見なかったことにしたのであった。

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