第8話 少女と元軍人
しばらく、雨に濡れながら解放戦線のレオナードと馬に相乗りで、駆けていると遠目からでもわかる程に砕け散った城壁が視界に入ってきた。
「これはまた酷い具合にぶっ壊されたな」
騎乗で鞭を振るうレオナードの言葉に同意を示すために頷きながら、壊れた城壁、粉砕された城門に視線を移す。
やはり間違いなかったか。ここはスカーレット・フィーユ魔導独立小隊に破壊された場所だ。あの窪地なんて、オレとルクレツィアが争った時にできた奴だしな。
そんなことを馬で走行している中で考えていたらどうやら目的地であった城門に着いたようだ。
「城門に着きましたね。ひとまず、あそこに見える厩に馬をおいて行きましょうか」
先行して馬を走らせていたアルフレッドが急に速度を落としたと思ったら、目の前に見える門の脇にある厩を指差した後にこちらにそう言ってきた。
「クリス君、先に城門を調べて来てください。我々は馬を廐に括り付けた後にすぐに向かいますよ」
廐に着くなり、アルフレッドは先に城門探索をするように指示を出した。
「わかったよ。ここに来たことある僕が先に色々と調べとけってことでしょ?」
アルフレッドの指示に従い、馬から降りたクリスは唯々諾々と言わんばかりトボトボと歩いて行った。
「うーん、あのくらいの年齢の子供が1番扱いにくかもしれませんね」
苦々しい口調とは違ってどこか生意気な弟を見ているような微笑みをアルフレッドはたたえていた。
「さぁ、レオナード少佐、我々も馬をおいて早く城門に向かいましょう」
アルフレッドがこちらに近づきながらそんなことを言ってきた。
「ああ、そうするか。それに現状を把握するためにちょっとここら辺を歩いて調べる必要があるしな」
そんなことをレオナードは言うと馬上から飛び降り、オレの存在を忘れたようにアルフレッドと共に破壊された城門の方に足を進めて行こうとする。いや、いや、レオナードさんよ。誰かを忘れていませんかね?
「…レオナードさん!?」
オレからの呼びかけることでようやく気がついたのか気怠げに、
「って、嬢ちゃん。そろそろ、こっちに来てくれよ」
と面倒くさそうな表情でそんなことを言ってきた。いや、いや、いや、足掛けのない馬からこの身長でどうやって降りろと言うのかだろうか。
「…これから大量の魔力を消費することがわかっているのに、こんなくだらないことで無駄に使えと言っているのかしら? 頭がおかしいんじゃない!!」
オレがそんなことをブツブツ言っていると、
「ああ、降りれないのか。ホラよ。嬢ちゃん、俺の手を取りな」
とレオナードはそんなオレを煽るかのようにニヤニヤ笑いながらそう言って手を差し伸べてきた。なんか、その笑い方がとてもムカつくんですけど!
「ひ、ひとりで降りれます! それに嬢ちゃんって失礼な人ですね!!」
オレの憤慨した声を聞いて、顔を歪めて笑うレオナード。ますますムカつくぞ。その態度はよぉ!! もう、魔力の節約なんて考えないぜ。オレは降りるぞ。
「中身は大人だって? ハッ、体がお子ちゃまなら嬢ちゃんは子供だよ。ガキに怪我をされたら堪らないからな」
そう言ってレオナードはオレを抱きかかえるように馬から降ろした。大の男がこんな屈辱的な降ろされ方をするなんて…
他の降ろし方があったのに! こんな風に降ろさなくても!!
「さぁ、時間との勝負ですよ? 城門に向かいましょう!!」
そう言って、アルフレッドは城門に向かって歩き出した。
「おい、アルフレッドが行ってしまうぞ。何をむくれてやがる。行くぞ」
なんか納得いかなかったオレがレオナードを小突いたのは仕方ないことだ。
「イッテ、何だよ? なんかあったのか?」
「別に何でもありません。さっ、時間がないので早く行きましょう」
そう言ってオレは微笑むと城門に向かって駆け出した。少し走って、振り返るとそこには小突かれた腰を押さえながらも、微笑しているレオナードがいた。まるで、懐かしい記憶を思い出して感傷に浸っているような表情で彼は笑っていた。




