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第7話 ヴァルデンブルク解放戦線

 館に火の手が上がりはじめる。そんな状況で落ち着いていられる人などあまりいるものではなく、悲鳴や怒号などがあちらこちらから上がる。だが、その元凶を作った人物は、狂信者のように腕を大きく振り乱し、演説を行っていた。


「ここは我々、ヴァルデンブルグ解放戦線が占領しました。ここから誰1人として逃げ出すことはできません」


 壇上で、眼鏡をかけた男が熱くそう言う。そんな中で、1人の人物が壇上まで、駆けていくのが見える。あれはジーク…


「何事かと思ったら、旧ヴァルデンブルク王国元海軍少佐のレオナード君ではないか」


 どうやら、壇上の男レオナードはジークと知り合いのようだ。旧ヴァルデンブルク王国元海軍少佐か。


 全くオレは彼のことを知らない。オレが国王時代は将官級は会うことがあっても佐官クラスと面会したのは数える程だ。


 しかし、こんな故国のことを思うレオナードのことをもっと早く知っていればよかった。この国が滅んだあとで、今更かもしれないがな。


 それにしても、レオナードは遠目だと若い男に見える。王国末期に佐官になったのだろうか?


 おっと、今はそんなくだらないことを考えている場合ではないな。旧王族で現公爵の妻という立場にあるために裏切り者扱いを受けているだろうセリアを彼らから何としても守らなくてはならない。オレはセリアの手を握る手に力を入る。


「これは、これはジーク・ブランシュタット元陸軍大将閣下ではありませんか」


「いつまで、過去に取り付かれているんだ? 私はジーク・ド・ヴァルデンブルク公爵だぞ?」


 ジークの奴め。おまえがオレの一族の名を語るな! 腹が立つなもう。ヴァルデンブルク王家を帝国の傘下の公爵にしやがって… 


「おまえにヴァルデンブルクを名乗る資格はない!!」


 ジークが目の前に現れて口調が急に変わったな。しかし、そんなことはどうでも良いか。それよりも良く言った。レオナード元海軍少佐。そうだ。こんな最悪な奴に代々続いた一族の名を冠させてたまるかよ。ご先祖様ごめんなさい。


「俺達はジークおまえを糾弾する。前王を廃位するだけでは飽き足らずに殺し、さらにその領土を我がものにするために年端もいかぬ亡き王の遺児であるセリア姫を妃にした。恥を知れ!」


 こうやって客観的に聞いても、悪党としか言いようがないな。ジークの奴はオレの主観からだと即死刑と言えるくらいに最低な評価だがな。


「さらにそれだけではない。こいつの最大の罪は帝国にこのヴァンデンブルグ王国を売り払ったのだ! そして、貴様はその功績で公爵の地位につくことになった。ふざけるな! 亡き王に! そして、この国を守り続けてきた英霊達に詫びろ!!」


 レオナード元海軍少佐は熱い男だな。やはり、海の男は熱いな。素晴らしい漢だ。


「これはおかしいことを言う。亡き王や英霊達だって? 亡霊たちに何ができるというのだい? 残念だよ。海軍の中でも君は特別に優秀な男だったのにここで殺すことになろうとはね」


 ジークのようなリアリストに先祖や幽霊等の話をしてもナンセンスと捉えられるだけだと思ったが、英霊達を亡霊扱いとは酷いな。


 それに亡霊になにができるかって質問をオレに聞かせるとはな。オレならレオナード元海軍少佐の代わりに答えれるのにな。


 オレが英霊達に代わってお前を殺すとな!


「ほざけ、帝国の三大公爵家の者がここで亡くなったら、名目だけのタダの公爵であるお前が生き延びようとも失脚することは必死だ。我々はそのためにここにきたのだ」


「その程度で、私が失脚することはない。本当に愚かしいことだ。無駄なあがきだぞ。本当に見苦しい」


 ジークはまるでレオナードを馬鹿にするかのように盛大に笑い出したぞ。


「余裕だな。俺達はすでにお前を包囲しているぞ」


「包囲だと? なんのことだい?」


 ジークがそう言うと周りの屋敷を燃やす火はいつの間にか消えていた。いつの間に消えていたんだ? オレが周りを確認するために見渡すと扉の方から松明を持つ多くの兵士が屋敷に傾れ込んでくるのが見える。


 しかし、どうやら、ジークは消火の時間稼ぎを目的としてレオナードと話し込んでいたようだな。


 それにしても、ショボい。ショボ過ぎるぞ。ヴァルデンブルグ解放戦線。独立を宣言しておいて、もう既に多くの解放戦線の兵士が取り押さえられてるのか?


「喋るのに夢中で自分の部下が捕まっていることはわからなかったのか?」


 ジークがレオナードをあざけるようにそう言うのが聞こえる。屋敷を燃やしている火が消えた為に辺りは暗闇に包まれている。例外として松明を持つ兵士の周りのみが灯火で辛うじて見えるくらいだ。


「陸軍の裏切りどもめが!」


 レオナードが地団駄を踏み盛大に絶叫しているようだ。遠目でよく見えないが壇上から凄まじい声と音が聞こえてくる。そう思っていると急にセリアが悲鳴をあげた。


「誰!? いや、引っ張らないで! お願い放して」


「黙れ! 殺されたいのか?」


 セリアは脅されて体が震えながらも口をつぐむ。

 

 おい、セリアを引っ張るなよ。オレから二度もセリアを奪わせてたまるか。オレも奪い返そうとしてセリアをつかむ手に力を入れる。


 だが、所詮しょせんはガキの力だ。当然、勝てるはずもなかった。ちくしょう。オレはセリアから離れまいと手だけはキツく握りしめた。


「ガキがついてきましたが、どうしますか? アルフレッド様」


「構わない。どうせ、ここにいるのは帝国のお偉い方の関係者だろうよ。ついでに連れて行けばあとで取引材料になるかもしれない」


 暗闇でそんなやり取りが聞こえてきたが今までのこいつらの話を聞く限りでは、オレの身分がバレたら、交渉するどころか明らかに殺される可能性が高いな。


 だとしても、オレはセリアの手を離すつもりはない。2度と彼女を失わない為に絶対に娘を守ると決めたのだから…


「レオナード! 確保したぞ」


「アルフレッド、よくやった。ずらかるぞ」


 セリアを引っ張って捕まえた人に指示を出していた男が壇上にいるレオナードにそう叫ぶと部下にオレを抱えて走るように指示を出してきた。


 オレはセリアと手が離れていないまま抱えられた状況だ。実に滑稽な状況だ。でも、この手は放さないからな。絶対だぞ。絶対だ!


「この状況で逃げれると思っているのか! レオナード!!」


「生憎と天候が悪くても進まなくてはならない状況が海軍にはあるんでね。最初から退路は確保して望んでいたのさ」


「なにを言っているんだ!? おまえは?」


 ジークの奴、焦っているな。レオナードがなにかこの状況から脱出する手段を用意していると言われて思いつかなかったんだろうな。


「あばよ。ジーク。貴様を殺せなかったのは唯一の心残りだが、我々は旗頭を得たのだ。そろそろ撤退させてもらうぞ」


 レオナードがいる辺りを急に煙が包み込むのが見えた。たぶん、アイツは煙幕を使ったな。初歩的な方法だな。ジークの反応を見ると奴が焦って、対煙幕用の魔導具を部下に持たせるのを忘れていたな。


「旗頭だと!? まさか、おまえらが捕まえた人物は!! ぐ、ゴホ、ゴホ、ま、待て!!」


 ジークが煙幕でむせ返り、咳き込む音がオレの耳に聞こえる。その後のジークの絶叫がこの館で聞いたオレの最後の言葉であった。

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