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第6話 主人と猟犬

「こんな小細工をしてバレないと思ったのか!?」


 俺の大声が簡易の謁見の間となった部屋に響いた。いや、オレが放ったこの言葉が滑稽だということはわかっている。だって、解放戦線のとった策にあと少しでハマる所だったからね。


 だが、そんなことはおくびにも出さず、オレはさも最初から分かっていたと言わんばかりに力強く微笑ほほえんだ


「何を言っているんだ!? この偽王はバレることが恐ろしくて気でも狂ったか?」


 怒鳴ったと思ったら、急に笑い出したオレを見て、奴らは戸惑ったようにそう声をかけてきた。


「いや、滑稽だと思ってね。お前たちはこんなことをやって、本当にバレないと思っているのか?」


 緊迫した中でのやり取りは意識が集中しているため、些細なことは気がつかない。そう、まさか本物の王かもしれない相手にこんな状況で細工がしてある魔導具を持くるとは普通なら考えらえない。


 なぜならば、これでは王である証明ができないからだ。つまり、奴らの狙いは王の生存以外のところにあるのだろう。それはいったいなんなんだ?


「何のことでしょうか?」


 この状況でまだトボけるのかよ。ありえないと思いながら俺は頭を振った後にため息をついて、気怠げに口を動かしていった。


「魔力を6つ込めることで意味があるこの魔導具の宝玉を1つ壊すと力が分散して、魔術は発動しない。誰だって分かることだろ!! こんな壊れた魔導具を持ってきて何を考えているんだ!?」


「壊れているか。いったい、誰が壊したのでしょうかねぇ」


 嘲るように笑いながらレオナードがそう言ってきた。


「知らんわ。こんな氷結の魔導具を壊したバカなんってさ。うん? この氷結の魔導具はどこかで見たような気がするな」


 どこで、この魔道具を見たのだろう。王家の秘蔵の魔導具は倉庫にたくさんあり、オレですら見ていないモノもあるのにさ。この魔導具は確かに見覚えがある。


「そうだろう? そうだと思っていたよ」


 オレの言葉を聞いたレオナードは笑みを強くしたと思ったら、


「そうだねぇ。ここからは独り言だがこの魔導具を壊したのモノはバカで間違いない。何しろ、王家の秘宝であるアスティールカの六芒星の宝玉を1つ砕いたからね。でも、それを誤魔化すために五芒星に配置を無理やり変えた方も同じくらいにバカだと思うけどね」


 と勝手に喋り出した。


「六芒星を五芒星にして誤魔化した? どこかで、聞いたような。いや、そうか…」


 オレのことだ。いや、ヴァハドゥール・ド・ヴァルデンブルクの頃の記憶が噓偽りでないならばオレだ。


「思い出した。オレは誰がその魔導具を壊したか知っている」


 オレの呟きを聞いた後、どこか勝ち誇ったように微笑みながら、


「だがよ。そいつは本当にすごい奴だったんだよ」


 とレオナードは話を続ける。まるで自分の思いを初恋の人に告白するように真剣な瞳で…


「貴族の五男の愚かな男が起こしたバカな行為を咎めずに壊した魔導具をバレないように細工したんだ」


 苦笑した後、なおもレオナードは言葉を続ける。


「しかもよ。それだけに飽き足らず。その愚か者を海軍に引き入れて出世をさせてくれたんだ」


 おかしいだろうとこちらを見ながら、泣きそうな顔で笑っている。


「いや、その出世はそのバカ者の実力だろう。海軍は完全に実力主義だったからな」


 その言葉を聞いても、レオナードは首を振って、


「海軍が実力主義になれたのもそのお方がいたからさ。そして、その愚か者は今も感謝してその方が残したモノたちと共に歩みを進めているわけだ」


 と言った後に急に今まで黙っていたアルフレッドが頭を垂れた。


「今のやり取りから、私はあなた様が我々の崇めていた王であることがわかりましたので、ここに…」


「おい、おい、アルフレッド。それは時期尚早だぞ?」


 慌てて、忠誠の言葉を紡ごうとしたアルフレッドを唐突にレオナードが口を挟んで諌める。


「何が時期尚早なものか! この方こそ、我らの国の主人ではないか!!」


「お前はおめでたい奴だ。本当に俺もお前みたいにできたらどれだけ、よかったんだろうな。いや、今もどこかでお前と同じような期待はしているんだ。そんな自分がいることも否めない。だけどな…」


 アルフレッドにそう言った後、オレをキッと睨んできた。


「でもさ、オレが海から駆けつけたときには既に生首になってたんだよ! そいつはな!!」


 オレを指差しながら、レオナードはなおも言葉を続ける。


「群衆の中からだったが見間違えようがない。あいつの、いや陛下の喉元にあるあの傷を作ったのは俺だ!! 若い頃の愚かな俺だったんだ!!」


 普通ならば打ち首さになってもおかしくないようなことをしたのにと言葉を続けて顔を両手で隠す。


「覚えているよ。ああ、だから、お前はこの魔導具を持ってきたのだろう?」


「このように陛下はおっしゃっておるぞ?」


 伯爵がオレの言葉を引き継ぐようにレオナードに畳み掛ける。だが、レオナードはその言葉を聞くなり、苦虫を噛み潰したような顔をした後、


「俺に知識がないと思うなよ。ハノファード公爵、いや、帝国に降ったハノファード伯爵様よ!!」


 とそう言って怒鳴った。


「俺たちは独自に調査しているんだ。だから、あの石のことも知っているんだ。記憶を引き継ぐあの秘宝のことをね」


「小僧、その話をどこで仕入れた」


 伯爵のドスの効いた声。それの声にビクともしないレオナードは微笑みながら、


「そんなことを言えるかよ。だからよ。今の俺にはお前がどちらか、まだわからない。もしかしたら、本物かもしれない。だが、記憶を引き継いだだけの偽りの存在かもしれない」


 本物であって欲しいだが、と言ってレオナードはオレの前まで来て、


「ここではお前のために働いてやる。だが、オレが忠誠を誓ったのは一人だけだ。その確信が持てるまで、頭は垂れない。それでよければ協力してやる!!」


「それで構わないさ。共にこの国を立て直そうではないか」


 そう言って近くに来たレオナードに手を差し伸べようとした時、


「親方様、敵兵です!! ジーク・ヴァルデンブルクの軍がこちらに向かっております!!」


 斥候からもたらされた情報を抱えて、兵士が慌てて部屋に入ってきた。


「さてと、早速出番んだな! ヴァルデンブルク解放戦線の力。いや、 陛下が残したヴァルデンブルクの力を見せてやる!!」


そう力強くレオナードが叫び、扉から駆けて行った。まるで、猟犬が戻ってきた飼い主を前にしたような喜びの声を弾ませて…

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