第5話 仕掛けられた罠
額から流れる汗が止まらない。や、やばいぞ!? ど、どうする。周りを見るオレ。もちろん、その視界にはこちらを真剣に見ているヴァルデンブルク解放戦線のレオナード、そしてアルフレッドだ。
「って、奴らの目は真剣どころじゃないぞ!?」
凄まじくギロギロと凝視してきているよ。なんというプレッシャーだ。ここで、誤魔化すようなことを言って逃げ出したら殺されるんじゃないか!?
魔術を貴様が使えなかったらわかってるな? さっさと詠唱しろよと言わんばかりに鋭い視線でこちらを睨んできているぞ。
ここは何としても魔術を発動させないとヤバイ! だ、だが、子供である今のオレの魔力であの魔術が発動できるのか!?
「おい、おい、いつまで待たせる気だ? もう、既にその魔導具を渡してだいぶ時間が経ったが、魔術の発動の気配すらないぞ!! おい、本当はこいつ、この魔導具を使えないんだろう?」
「陛下は集中しておられるのだ。黙れ!!」
クッ、ここは詠唱するしかない。頼むから発動してくれよ!!
「我は命じる…」
やはり、詠唱を唱えても魔術は発動しそうにない。そのため、まるで別の生き物のように早く脈打つオレの心音。額から汗がさらに溢れ出してきた。頭の中にある記憶を振り返ってみても、確かに詠唱は合っている。合ってるけど。や、やばい。どうしよう!? 足りない。絶対的な魔力が足りない!!
「………」
オレが唱えていた詠唱の声が鳴り止む。だが、魔術は発動しなかった。ああ、終わった。解放戦線を味方につけることも、伯爵を助けることも、そのなにもかもを…
「おや、おや、これはもう決まりだな」
レオナードがそう言って、口元を歪ませて微笑むながらオレに歩み寄りそう言ってきた。まるで、オレが詠唱できないことを喜ぶように…
「ハノファード公爵。いや、帝国に忠誠を誓ったハノファード伯爵様とお呼びすべきかな? こんな偽物など立てなくてもさ」
王家の秘宝の魔術を使えなかったオレを指差し嘲るように笑いながらそう言う。
「我らは王の意思を継いで帝国の支配に抗うべきではなかったか? いや、今からでも遅くわないのだ」
「ハノファード公爵様、私達と共に来てくださいませんか」
アルフレッドがそう言って真剣な眼差しで伯爵を見つめる。
「ええい、何を言っている! 魔術が発動しなかったのは陛下がお疲れだからじゃ!! 愚かなことをそう申すな」
伯爵はアルフレッドの行為を無視するようにレオナードに向けてそう怒鳴りつける。
「まだ、わかってくれないのかよ。このままだとあんたは死ぬぞ? ジークの軍隊に無残に踏み潰されてさ。さぁ、我々と共に…」
そう言って、微笑みながら伯爵に手を差し伸べるレオナード。おかしい。なぜ、レオナードの奴はあんなに嬉しそうに微笑んでいるんだ。
もし、オレが王でないことを知ったら解放戦線の立場ならアルフレッドのように落胆とまで行かなくても、あんなに嬉しそうにほほ笑めれるものだろうか?
「うん!? あれ? なんだ。この魔導具は!?」
こ、この魔導具、おかしい。6つあるはずの宝石が1つ欠けている!? そ、そうか。そう言うことだったのか。レオナードの奴。最初から伯爵をハメる気でここに来たな。フザケやがって!!
「さてと、おフザケはここまでにしようではないか。ハノファード公爵」
「おフザケ? ハッ、王家の秘宝が使えなかった偽物はさっさと正体でも現していたらどうだ? まぁ、そんなモノに誰も興味などないがな!!」
レオナードからの侮蔑の言葉。フフフ、そんな強気でいれるのも今の内だけだ。クソ野郎!! 迫真の演技にまんまと騙される所だったわ!
「おフザケをしているのはどっちらだろうね? レオナード、この六芒星が欠けている魔導具を必死に使って魔術を発動しようとしたバカか」
ここにいる奴らの視線がこちらに集まったのを確認した後にオレはゆっくりと口を動かしてこう言った。
「それとも、迫真の演技で壊れた魔導具を使って王の証明をしろと誘導したおまえか!!」




