第4話 王である証
「小僧どもがウルサイわ!! ここは陛下の御前でじゃぞ! と旦那様ならおっしゃるでしょうね」
今度はいったいなんだと思い、声がした方向を振り向くと開き放しになっていた扉から執事服を着た人が怒鳴り込んで入ってきた。そして、執事はこちらを見るなり、オレたちの下に駆け寄ってきた。
「コホン、陛下、旦那様、会話に割り込んで大変に失礼いたしました」
と先ほどまでの態度は演技だったのだろうか。咳払いをした後、直ぐに落ち着いた表情になり、オレと伯爵に向かって頭をたれる。
「おっと、忘れていましたね。それとお客人の方々にも頭を下げねば、いや、必要なかったですかな? 陛下に無礼なことを言っておった者などに…」
伯爵の執事は初老の域に達しており、オレの知っている限りだが普段は微笑みを絶やさない。そんないつも白い眉毛でほとんど隠れた優しげな目を感じさせないくらいに…
今は眼光鋭く無礼な来訪者を射すくめている。
「フン、なんだ。このジジイは? 黒い服から言って執事か? しかし、執事にしては客人に対して無礼だな!」
そう言って鼻で笑った後に伯爵の執事であるベネディクトを睨む。
「無礼なのはどちらでしょうか?」
「こっちは客人だぞ! まったく、ありえないぞ。気にくわねぇ…」
「落ち着いてください。レオナードさん。ここはあの執事と面識がある私に任せてください」
レオナードと言われた長髪の男はアルフレッドにそう言われて渋々と言わんばかりに黙る。
「大変、申し訳ないですね。色々と無礼なことを言って。でも、ベネディクトさん、我々にはわからないのです。この陛下が本物かどうかが…」
「それが不敬だとわたくしめは言っておるのです。陛下に対してそのような言葉自体が!」
「まぁ、良いではないか。ベネディクト。それよりも、あれはあるのか?」
「はい、旦那様。指示されていた品を持って参りました」
そういうや否や執事は素早く懐から赤く輝くモノを伯爵に渡す。
「おお、よくやった。どこにしまったのか忘れたとボケたことを言った時はその髭を削ぎ落としてやろうかと思った者じゃが、まぁ良しとしておくわい」
入ってきた扉の方に戻る執事の頬がピクピクしてるんですけど。あ、この執事、口元は笑ってるけど。目が完全に怒ってるよ。ああ、これは内心すごい怒ってるな。
思い出すな。オレがマリーをこんな目にさせた時は後が怖いんだよな。だから、きっと、伯爵も後で厄介なことになるだろうな。
まぁ、オレには関係ないからいいかなどとオレがしょうもないことを考えていたら、伯爵が
「これを見ろ小僧ども」
と言って、赤い光を放つオーブを高らかに掲げる。伯爵はどこか勝ち誇ったように解放戦線の奴らに見せつけていた。
「…伯爵が持っているモノは!!」
懐かしいな。あのオーブはヴァルデンブルク王家に代々伝わっていた宝玉だ。
「なんだそれ? おい、ジジイ!! なに得意げに見せてるんだよ」
だが、レオナードはオーブを見て不思議そうな顔をする。
それも当然だよな。海軍に所属していた奴に王家の秘宝など見る機会もないわな。知らなくても仕方がないよな。
そうなると、伯爵は王女の警護をしていたアルフレッドが知っていることを狙った計略か。でも、もし彼まで知らなかったらお手上げじゃないか! 頼むから知っていろよ。
「あれは、ヴァルデンブルク王家に伝わる。秘宝の1つで火焔回廊の宝玉ですよ」
よ、よかった。アルフレッドが知っていたよ。これで…
「でも伯爵、その秘宝を持っているからと言ってなんだというのですか?」
アルフレッドは首を捻ってそう伯爵に尋ねる。
「アルフレッドよ。トボけたことを申すな。この秘宝の使い方を知っているのは王家の人間ということを知っておるじゃろ?」
「伯爵は王家に近かった人間ではありませんか。もしかしたら、前王の父親として使い方を教えられていてもおかしくはないでしょう? それに偽物かもしれないしね。なので、もし仮にその秘宝からそちらの陛下が魔術を発動しても信じれませんよ」
なるほど、魔導具は発動のさせ方を教えて貰えば誰でも使えるからな。例え王家の秘宝であっても、例外ではないしな。
「儂もこの魔導具の使い方は知らぬ」
「証明ができますでしょうか?」
伯爵の言葉が終わらぬうちにアルフレッドはそう言って微笑む。
「証明などできぬ。うむ。困ったのう。しかし、ならばぬしらはどうしたら信じるのじゃ?」
「ああ? そんなのは簡単だよ。オレ達を誰だと…」
「甚だ不本意ではありますが、伯爵達と同じ手で確認をしようと思っておりました。この我々が取り返した王家の秘宝の中でも強力な氷華の腕輪を使ってね」
そう言って、アルフレッドはレオナードの言葉を遮って腕輪を掲げる。
「大変に貴重なものなので、ここで奪われる可能性もありますが、背に腹は代えられません」
そう言うなり、アルフレッドはオレの下まで歩み寄って、
「あなたがヴァルデンブルク王であらせられるならばこの魔導具を使えるはずです。どうか、この愚かな家臣めに真の王であることを証明し、信じさせて頂けないでしょうか?」
と述べた後にオレにその腕輪を渡してきた。くっ、この複雑に金属が編み込められた腕輪は確かに使った記憶があるぞ。これは王家の秘宝の1つだから、魔力の込め方はわかる。わかるが、だがどうする? 今のオレに使えるのか? 成人していたヴァルデンブルク王の頃の半分も魔力がない今の状態で…
この膨大な魔力を必要とする秘宝を使えるのだろうか…




