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第6話 セリアとリリア

 純白の床、白い柱。高い天井には豪華なシャンデリアがぶら下がっている。どれだけの血税をつぎ込めばこのような立派な館が出来るのだろう。


 もうオレが死んで既に6年も立っているのだからオレが知らない館があることは可笑しいわけではないが…


 オレの記憶が確かならば、オレが国王だった時は王宮の近くにこんな大きな館はなかったはずだ。だから、オレが死んでからこの館は建築されたのだろう。


 6年という年月は短いようで長いようだ。それに時間が立ったことを感じさせるのはこの建物だけじゃない。愛娘を見ると月日がすごい勢いで過ぎていたことがわかる。


「ヴァルデンブルク王国が滅びですでに6年の歳月がたちました」


 セリアは壇上にいた。彼女のか細い声は会場に拡声をするための魔導具によって響き渡っている。今、オレはヴァンデンブルグ併合記念の式典に参加している。元国王としては、実に不愉快な式典だと言わざるえない。


「多くの方が故国を失い戸惑いと混乱に悲嘆にくれたと思います。ですが、私たちは6年の歳月をもって、それらの困難に打ち勝ち、多くの発展をとげてきました。これからも困難なことが待ち受けているでしょうが、皆で協力して今後もこの地域の発展に寄与していきましょう」

 

 セリアには悪いが彼女の言葉はかけらも、オレの心に響かない。どう聞いても、自分が心からそう思って言っている発言には聞こえない。身内のオレですらそうなのだから、他のモノの心中は察しろと言わんばかりだな。


 しかし、やはり、このような式典に彼女が祝辞を述べること事態に驚きを隠せない。昔は人の態度を一々伺うような大人しい子だったのに。こんなに堂々と皆の前で祝辞を述べれるようになったことを考えると本当に立派になったものだ。


 例えまだ上手でなくてもな…


 どうやら、無事にセリアは祝辞を述べきったようだ。会場から拍手が送られている。セリアが席に戻るのと同時にジークの奴が壇上に立ちだした。コイツのツラなど全く見たくないから早く引っ込んで欲しい。


「我が領地の選りすぐりのシェフ達の料理もご用意できておりますので、お召しがりながら、どうぞご歓談ください。では、皆様、ごゆるりとお過ごしください」

 

 ジークが来賓の祝辞が述べ終わったことを告げる。オレが周りを見るとどうやら自由に動いても良いようだな。オレは母をともないセリアのもとにすぐに向かった。


 セリアがいるな。よし、声をかけよう。オレは娘と話せる喜びで隣にいる野郎の存在を無視して話しかけることにする。いや、そう決めた。無礼だ? そんなの知るかよ。


「セリア様、お疲れさまです」

「あら? あなたは昨日の…」


 そう言って、ジークの横にいるセリアはオレを見て言葉を返してきた。それをさえぎるように母が話に割って入ってきやがった。くそ、久しぶりの娘との会話を取るなよ。


「リリアーヌ、まずはヴァルデンブルク公爵であるジーク卿にご挨拶しなさい。ジーク卿、この度は素晴らしい式典にお呼びくださり、感謝しております」


「お美しい方を呼ばないでいったい誰を呼べば良いのでしょうか。寧ろ、こちらまで足を運び頂き、感謝しております。フロイデンベルク公爵婦人」


 ヴァルデンブルク公爵ことジークはオレに視線の1つも寄越さずに母である若きフロイデンベルク公爵婦人の肢体を舐め回すように見ている。


 女性になるとそんな視線もわかるかと新たな驚きがわき上がるのと同時に母とジークが話し込みはじめたのを見て長くなるなと思わざるえなかった。


 いくら、ジークが主賓でいろいろなところをすぐにまわらなくてはならないとはいえ、同格の爵位を持つ男の妻をないがしろにはできまい。ましてや、ジークは新参者なのだからな。


 今のうちにセリアと話そう。いや、話したい。彼女がどんな風にオレの死んだあとに過ごしたのか。今の彼女がどのような扱いを受けているのかを知る為にも…


「セリア様、昨日はどうも。私はリリアーヌと申します。気軽にリリアとお呼びください」


「そう? では、リリアと呼ばせて頂くわね。リリア、昨日はあのような態度でごめんなさいね」


 さすが、我が娘だ。素直に頭をオレに下げてきたぞ。王族とは思えない謙虚さだな。元王族だからだろうか。そういえば、オレの従兄弟達は絶対に自分が間違っていても頭1つすら下げることができなかったな。


「いえ、お気になさらずに…」


「……」


 オレとセリアの会話が続かずに沈黙が続く。ダメだ。実の娘にどうやって話を切り出せば良いかわからない。最近はどうだ元気か? いや、一度会っただけの人にそんなこと言われても困るだろ。どうしたものだろうか。しかし、世の中の親達は一体どんな話題で自分の子供と話はじめるのだろうか…


「痛い、何かに当ったのかしら? おかしいわね。なにも見当たらないわ」


 どうしたのだろうか。セリアが突然に頭を抑えだしたぞ。少しかがんで、涙目になりそうになっている。


「どうかなさいましたか? セリア様」


「いえ、何かが当たったと思ったのですが周りを見ても何もないようですから気のせいなのでしょうね。おかしいですわね」


 そう言って、セリアは首を傾げる。げ、そのポーズを見てなんて、愛らしいんだ我が娘よと思ってしまった。これでは親父のフロイデンベルク公爵と同じじゃん。


 オレがセリアの可愛さに身悶えていると彼女はオレを見て少し考えるように口を動かしてきた。


「不躾ですみませんが、リリア様はとても子供とは思えないようなしっかりとした言葉遣いをなさっていますわね?」


「いえ、まだ私は話し方の勉強をしている最中です。このような場所は不慣れなのでとても苦労しております。できましたら、あまり、敬語等の難しい言葉は使いたくはございません」


 そもそも、オレは男だぞ。女性の言葉なんてわかる訳がないだろ。最初は女言葉を話すだけでむず痒かったわ。前世でガチムチの大男が女言葉を話せたら気持ち悪いだろ!?


 そう思うと今のオレって笑えないわ。なんで、男に生まれ変わてくれなかったんだろう。そんなことを思っていたらセリアがオレに微笑みかけながら話を返してきた。


「ならば、私には普通に話してくださって結構です。私もそうさせてもらうわね。私も敬語とか苦手なのよ」


 妻に似たのか。細かいことをまったく気にしない寛大な女に成長してしまったようだ。寛大というか。ズボラ…


「よろしいのでしょうか?」


「こら、こら、普通に話して良いのよ? それにどうせ、私なんて、旧王族で血以外の価値がないのよ。だから、言葉遣いを注意されてもなんとも思わないわ」


「…...」


「気にしないで、もうなれてるの。私はここではお飾りの人形を演じてればいいのよ。それ以外に存在価値がないしね」


 そう言って、ウインクをする彼女が寂しそうに見えたのは気のせいじゃないだろう。すまない。オレがジークごときに殺されたから、娘に要らぬ苦労をばかりをかけさせてしまった。謝って済む問題じゃないが頭を下げたくなってしまう。


「ごめんなさい。こんな愚痴を言うつもりではないのだけど。つい、口に出てしまったわ」


「お疲れなのですよ。良ければ私ともっとお話をしませんか? 私はセリア様ともっと仲良くなる為にあなたを知りたいと思っております」


 本当に知りたいよ。セリア、オレがいない間の君のことをもっと知りたい。


「不思議ね。リリアといると会話が弾むわ。子供だからかしらね。え? リリアは私をもっと知りたいの? 困ったわね。どうしようかしら?」


 セリアは独り言を呟いていた為にオレの話を遅れて理解したようだ。自分のことを知りたいと言われて、悪戯っ子のような笑みを浮かべてこっちを見てきた。こんな顔を見せられるとイヤな予感しかしない。


 だが、危険を犯さずに欲しいものが手に入ることはない。オレはセリアがどのような生活をしてきたのか知りたい。いや、知らなくてはならない。オレは彼女の親だったのだから…


「知りたいです。教えてください」


「え? リリアが可愛くお姉ちゃん教えてくださいって言えたら、聞いて上げるわ。私は一人っ子だから、妹か弟が欲しかったの」


 そうだったのか。オレは政務にかまけ過ぎて、セリアの気持ちに気が付かなかったな。いや、よく考えると普通にそのまま、オレが生きていれば妹か弟は出来ていただろう。すまない。頼りないお父さんでごめん。


 娘が喜ぶ顔を見れるならば、ここは恥を忍んで…


「お、おねいちゃん、リリアはお姉ちゃんのことをもっと知りたいの。教えてください」


「仕方がないわね」


 なぜか、勝ち誇ったような笑みを見せてセリアはオレを見てきた。オレは恥ずかしすぎて顔が真っ赤になっているんだろうな。嫌でも自分の顔が熱いことで赤面していることがわかるんだよな。


永久とこしえの闇夜を我は再現せん」


 オレとセリアが楽しく会話をしていたら、どこからかだろうか。詠唱が聞こえてきた。


 気が付くと明かりが消え、辺りが急に暗くなる。そのあとにシャンデリアが落ちる音が聞こえてきた。シャンデリアが落ちた場所に人がいたのだろうかすごい悲鳴が聞こえてきた。


 辺りはうるさいくらいに悲鳴と怒号で支配されている。暗闇の中を人々の騒がしい声のみが聞こえてくる。煩わしいが恐怖でみな動揺しているのだろう。


「セリア様、怖いです。手を繋いでもらってよろしいでしょうか?」

「リリア、もちろんよ。お姉ちゃんと手を繋ぎましょう」


 オレが暗闇の中でセリアと離れないように手を繋ぐ。久しぶりに娘と手を繋ぐとオレの手が小さいせいもあるだろうがセリアの手は大きく感じた。あんなに小さかった手が…


 オレがセリアの成長に感慨深げにしていると急に壇上に明かりが灯った。人だろうか? オレの目には明かりの下に1人の眼鏡をした痩せた長身長髪の男が見える。


「併合記念式典という実にくだらない。記念式典にお集りの皆様」


 皆の視線が壇上の男に集まるのを確認するかのように一呼吸の間をあけてから、眼鏡をした男は話を続ける。


「今日が本当の記念日になります。そう、皆様は記念すべき日の目撃者となるのです」


 眼鏡をかけた長身長髪の男はまるで役者みたいに見えるわ。手を大げさに振り上げてお辞儀をしたり、大きな声で喚いたり…


「そして、さらに大変申し訳ないのですが、今日のこのすばらしい記念日を見た帝国の犬の皆様には鑑賞料の代金としてここで皆様の命を頂きます」


 帝国の犬ときたか。中々に良い表現だな。面白い。なるほど。


「ヴァルデンブルク王国に栄光あれ! 我々はこの日をもって帝国から独立をするのだ! さぁ、やれ」


 眼鏡をかけた長身長髪の男の威勢の良いかけ声とともに辺りを炎が包みはじめた。

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