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第21話 亡者と老人

 カンに触るような高い笑い声が部屋に響き渡る。オレは不快な音を口から漏らす少女に反応し、視線をそちらに移した。


「そう、そう言うことだったのね」


 そこには焼け爛れた顔を押さえながらイヤらしく口元を歪め、伯爵を侮蔑の込もったような目で見ている少女がいた。


「あなたは人体実験の被験者だったのね?」


「…」


 彼女のといに対して沈黙で答える伯爵。その無言を肯定と受け取ったのだろう。ルクレツィアはさらに大きな声で笑い出した。


「フフフ、アハハハッ、アハ。ハノファード、あなたは魔導具を体に無理やり埋め込まれた実験動物だったのね」


 痛くて苦しい筈なのに顔を押さえる指の隙間から見える表情は小躍りせんばかりの愉悦。


「最後は魔力が枯渇して死ぬだけの失敗作のオモチャ!」


 罵倒、侮蔑、嘲笑。同じ人間におよそ向けるべきでないあらゆる嫌悪がそこにあるのではないかと言わんばかりに酷い態度。


「フッ、言いたいことはそれだけかのう?」


 だが、伯爵は彼女のそんな態度を意に介さないと言わんばかりに苦笑した後、肩をすくめてそう言う。


「もう、強がっても無駄だわ。種が割れた手品は役に立たないのだからね」


 ルクレツィアはそう吐き捨てるように言って伯爵を睨む。


「さて、それはどうかのう。儂から言わせれば寧ろぬしの方が追い詰められておると思うのじゃが。それに現にぬしは儂の魔術を受けて多大なダメージを負っておるじゃろう?」


 その声は実に戯けたものであったが、彼の余裕を持ったような笑みを見ているとなぜか安心してしまう。彼ならばあの魔女ルクレツィアに勝てるのではないかと思ってしまう。そんな安堵を伯爵は醸し出していた。


 しかし、当然があちらは違う感想を抱いたようだ。


「それはあなたの不意打ちの所為よ! それにこの程度の怪我なら、まだ私の方が断然に上なのよ!!」


 彼女は伯爵を睨みつけた後、壮絶な笑みを彼に向ける。


「あなたにこのスピードがついてこれて?」


 消えた!? 気がついたらルクレツィアがオレの視界からいなくなっていた。いったい、奴はどこにいったんだ!?


「…痛い!!」


 オレが悲鳴に反応してそちらを振り返ると伯爵に首を掴まれて踠いている彼女がそこにいた。


「何を勘違いしておるかわからんが儂が失敗作のオモチャじゃと? では、オモチャと言われたそんな儂に簡単に捕まるような者をなんと言えば良いのかのう。ゴミとでも呼べば良いのかのう?」


「は、離しなさい」


 呼吸のできない奴は伯爵を睨みつけた後、火炎魔術を彼に放つ。伯爵は素早くルクレツィアを投げ捨てると同時にサイドステップをして魔術を寸前のところで避ける。


「ハー、ハー、ハァ、ええ、そうよ。あなたは失敗作のオモチャでしょう?」


「ふふふ、ぬしも面白いことを言うのう」


 笑みを強める伯爵。うーん、怒っているね。明らかに怒ってるわ。


「常に戦の絶えなかったこの国でその禁断の研究をしていたのがジークの小僧だけだと思っておったのか? 奴が行った実験は儂という成功例があればこその実験じゃよ」


「戯言を! もう、あなたとの会話も飽きたわ。そろそろ、黙って貰おうかしら! 壊れたオモチャにはここで退場してもらいましょう!」


「亡国の亡者には言われたくない台詞じゃわい」


 早口で捲し立てるルクレツィアに対して伯爵は抗議する。


「誰が亡者よ!!」


「主じゃよ。遅いぞ。皆の者、さぁ、ここであの魔女には死んでもらおう」


 そう伯爵が言うと扉から次から次へとローブを着た兵士たちが入ってきた。


「雑魚がどれだけ、集まっても!!」


 どんどん増えてくる兵を見渡した後、苛立たしげに叫ぶルクレツィア。


「ここにいるのは儂が長年よりをかけて育てた魔導兵たちじゃよ。普通の一般兵と同じと思うと痛い目にあうぞ?」


 兵たちを愛おしげな瞳で見つめた後、伯爵はルクレツィアに視線を動かす。


「フッ、儂は武人ではあるが将兵でもある。卑怯とは言わせない」


 有無を言わせぬ程に力強い口調でそう言った後、


「過去の栄光にすがる愚かな亡者をそうそうに滅せよ。皆のもの、放て!!」


 と伯爵の怒号のような号令によって、彼の部下からルクレツィアへ向けて灼熱の炎があちらこちらから放たれる。その光景は前世で見た鉄壁と思われた城門が落とされた時のようであった。

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