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第19話 伯爵と魔女

 髪を振り乱しながら、絶叫するルクレツィア。彼女が痛みで叫ぶのは当然だろう。先ほどまで、生きたまま焼かれていたのだから…


「ああ、私の美しい顔が!? よくも私の美しい顔を! 死に損ないの老いぼれめ!!」


 炎を水の魔術で消した後、焼き爛れた自らの顔を触りながら、怒りに声を震わせて魔術を放った人物を睨みつけ、罵倒する。そんな彼女の視線の先には、


「美しい顔? 何度も他人の体を奪って生きているつもりでおる醜悪な魔女の本性に相応しい姿ではないか。そうじゃろう?」


 と言いながら、過去の記憶と同じように不敵な笑みで敵をおちょくるおじさんの姿があった。


「生きていたの? 死んでいたと思ったのに。おじさん…」


 死んだと思っていたフリッツおじさん。もとい、ハノファード伯爵がそこにはいた。黒ずみになった部下の屍体を悲しげに見渡した後にオレを見て、


「儂をそう簡単に殺すでないぞ? この程度のことは儂にとっては日常茶飯事じゃからのう」


 と言った後に力強く微笑むおじさん。オレはそんなおじさんにグチャクチャになった顔を見られないように水滴を手で拭いながら彼に話しかけようと口を動かした。


「…お、おじさん」


「老いぼれ! 貴様、魔導具は持っていなかったでしょう!? なのにどうやって生き延びたの! あの炎の中を!!」


 ルクレツィアはオレの話を遮り、フリッツおじさんに怒鳴りつけた。


「ぬしは儂がどうしやってあの状況から生還できたか知りたいのかのう?」


 そんなルクレツィアの焦っている反応を見てニヤニヤ笑うおじさん。


「見ているだけでイライラするわね。その表情。でも、本当はあなたが言いたいんでしょ? 聞いてあげるからさっさと答えなさいよ!」 


 苛立ちの所為だろう。今までの彼女からは考えられない程にヒステリックな声をあげてそう言う。


「フム、おぬし、痴呆がはじまっておるな?」


「老いぼれと一緒にしないでちょうだい!」


「いや、ぬしは絶対に痴呆症じゃよ。もし、ぬしが誠にルクレツィアならば、儂のこの性格をわかっておるはずじゃ。だって、儂がこんなことを言うときは相手を煽る時だけじゃからな!!」


 さらに儂が素直に教えると思うとはぬしも存外にかわいいところがあるのうと言って微笑むフリッツおじさん。うん、年を取っても、相変わらずの性格だ。相手をおちょくって楽しんでいるな。


「クッ、あああ、老いぼれの相手は本当にイラつくわ! 消えなさい!!」


 ルクレツィアは火傷を負った顔を片手で隠しながら、火炎の魔術を伯爵に向けて放つ。


「消えるのはおぬしの方じゃよ」


 不敵な笑みを浮かべたフリッツおじさんはルクレツィアの炎を瞬時に消し去る。そして、落ちていた自らの剣を拾いあげて、


「さっさと過去の亡者は消え去れ!!」


 と言葉を叩きつけるように発した後、ルクレツィアと間合いを素早く詰め、剣を斬りつけるのだった。

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