第18話 狙われたリリアの身体
「何を泣いているの? あなたは伯爵領の人だったのかしら?」
オレの頬には気付かないうちに水滴が伝っていたようだ。我ながら、身勝手で気恥ずかしい。セリアが伯爵に殺されたと思い込んでフリッツおじさんを自らの手で殺そうとしたのに…
「うるさい! おまえにオレの気持ちのなにがわかるってんだよ!!」
ついつい、怒りの余りに地が出てしまった。ああ、本当にオレは身勝手な奴だ。フリッツおじさんを殺したこいつに話しかけられただけで、怒りの余りに我を忘れてしまうなんて!!
「イヤねぇ、ヒステリックになっちゃってさ。あんな耄碌したジジイの死にあなたの涙はもったいないわ!!」
なにがもったいないだ! ふざけるな!! 貴様に家族を殺された奴の気持ちがわかるのか!!
「でも、その泣き顔も良いわ。本当に素敵! よし、決めたわ!!」
オレがあらん限りの力で奴を睨んでいたらルクレツィアはおもむろに頷いた後に微笑みかけてきた。ケッ、ヘドが出るような邪な笑みだぜ。舌なめずりしやがって…
「ちょうど、その屍になったバカの所為で、何体かのスペアの体を失ってしまったから、あなたの体をもらうわ!!」
そう言うなり、ルクレツィアはオレとの間合いを詰めるために飛びかかってきた。
速い! オレは咄嗟のことで反応が遅れてしまった。ルクレツィアの手刀が目前に迫る。万事休すだ! ちくしょう!!
「フリッツおじさんを殺したこんな奴にヤられる訳にはいかない! なんとかしないと!!」
オレがそう決意を新たにしながら、なんとか後方に飛び間合いを取ろうとした瞬間、
「なに!? な、なんなの? 痛い、痛い!! も、燃えている。わ、私の顔が!!」
とルクレツィアから悲鳴が聞こえてきた。なんだ、なんだと奴の顔を見ると凄まじい勢いの火炎が彼女の顔を焦がしていた。人間の肉が焼けたような不快な臭いが辺りに充満する。そんな中、どこからか笑い声がしてきた。う、嘘だろ? まさか、この声は…
「フォフォフォ、隙だらけじゃな。おっと、そんな目で見るとは思いの他うまくいったようじゃな」
そう言って、死んだはずのフリッツおじさんが黒焦げとなった屍体をかき分けて現れたのだった。




