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第15話 転生の真実と己の存在

 双方の魔術がぶつかると同時に駆けるハノファードとルクレツィア。まばたきをする間もない程に高速で移動する二つの影を目で追いかけるが、視界に収める頃にはすでに姿もなく、ただ魔術による衝撃音だけが虚しく響いてきた。


「あなたは本当に人間なのかしら? 今の私の動きについてこれているなんて!!」


「尋常でない魔力。儂に匹敵するほどじゃな」


 互いに高速で詠唱して魔術を次から次へと放つ2人。ようやくオレも彼らのスピードに慣れてきたのか視認できる程度にはなってきた。


「魔術の展開速度では主を打ち取れぬならば、これならばどうじゃ?」


 そう言うとおもむろに伯爵は腰にある剣を抜きルクレツィアに突撃をかけた。それを見ていたルクレツィアも素早く腰に下げていた細身のレイピアを抜き構える。彼女は伯爵の突きを素早く振り払い微笑む。


「ハノファードは剣も魔術も当代最強と言われていたのにこの程度?」


「…ふむ。懐かしいのう。そのようなことを昔は言われておったのう。それにしても、儂の力をそんな細いレイピアで受け止めて折れぬとはのう。さてはそのレイピアは魔剣の類じゃな」


 言葉を交わしながらも2人は剣と剣を激しく打ち合うのをやめない。


「魔剣? 面白いことを言うわ。そんなモノは世界に何本もないわよ。これは魔導具よ。私の飛びっきりの自信作のね」


 なるほど、だから体格差があるにも関わらずルクレツィアは伯爵の剣を受け止められたのか。あんな細身のレイピアで伯爵の力強い剣撃を受けようものならばすごく簡単に折れるのが普通だからな。


「かなり強力な魔導具をも自ら作れるのか。これほどの能力がある人物を儂が知らぬとはのう。まぁ、良いわ。次で終じゃろうからのう」


「楽しみね。あなたの本気を見せて? 強い相手との戦いは面白いわ!!」


 互いに睨み合ったと思ったら、火花が散る。どうやら、互いの武器が擦れる衝撃で閃光が走ったようだ。その後、互いに構えたまま両者は一歩も引かずにらみ合う。


「今の儂はそこそこに本気じゃったが、あれを受け止めるとはのう。お主の名前はなんじゃ? こんなに凄まじい使い手を儂がしらぬはずがないのじゃがな…」


「お褒めに預かり、光栄よ。私の名前はルクレツィア・ファ・サフィール」


「…バカな!? 奴はすでに死んでいる。いや、同姓同名なだけじゃろ。なにを儂は焦っているのか」


 ルクレツィアの名乗りを聞いた伯爵は顔を驚愕で染めると動揺したようにそう呟く。


「あなたが知っているルクレツィア・ファ・サフィールで間違いないわ」


「…嘘じゃろ? 奴が生きておるならばもっとヨボヨボじゃろ? 儂よりも年上。まさか、お主…」


 そう言って微笑む彼女を見て伯爵はなにか思い至ることがあったのか徐々に険しい顔になっていった。


「私は永遠の命を手に入れたのよ。そして、あなたの魔力を喰ってさらなる高みに私は行くわ」


 そう言って、魔石ソール・ジュエルを見せるルクレツィア。


「…やはり、転生者か。しかも、魔石ソール・ジュエルを使って自らの精神を他人に複写したのか!!」


「さすが、ハノファード伯爵様はよく知っているわね」


 そう言って、嘲笑するように笑うルクレツィア。


「おまえが周りを少女で囲んでいるのはそれが理由か」


「だって、かわいい姿だと楽しいでしょう?」


 彼女の話を要約すると周りにいたスカーレットフィーユのメンバーは彼女の替えのボディと言う訳か。とんでもない話だ。


「若い者の未来を奪ってどうすると言うのじゃ。なにが転生者じゃ。そんなのはただ記憶があるだけの別人じゃよ。転生などありもしないまやかしに縋るバカめ!!」


 転生がない? オレは前世の記憶があるが…


「フフフ、記憶が引き継がれるだけでもいいと思うわ。だって、記憶自体が私の生きた証ですもの」


魔石ソール・ジュエルから他人へ記憶をコピーするだけの紛い物の転生をなぜそんなに信奉できるのか儂にはわからん」


 …記憶をただコピーするだけ? 伯爵はなにを言っているのだ?


「それに記憶があろうとも元の人物とはすでに別人であろう」


別人? 魔石ソール・ジュエルは生まれ変わるための魔導具ではなかったのか? そうなるとオレはいったいなんだんだ!?


「それを儂が証明してやる。儂が知っていたルクレツィア・ファ・サフィールはどれだけ儂が頑張っても勝てないと思った相手じゃった。だが、主には勝てる気がするのう。主など奴の足元にも及ばぬことをここで示してやろう」


「そう楽しみね。是非とも試してちょうだい」

 

 そう言って不敵に微笑む2人の魔術師。オレはそんな魔術師達の戦いをただ呆然と見ていることしかできなかった。

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