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第13話 伯爵の嘆き

 多くの兵士に囲まれている中で、すべての喧騒がやんだ。まるで時が止まったのではないかと錯覚すようなほど静まり返った部屋の中で多くの兵士の視線がオレに突き刺さるのを感じる。


 生唾を飲み込む喉の音が大きく聞こえるような気がする。ああ、汗っかきではないオレの手が緊張で湿っているように感じる。


 どうかオレの言葉を信じてほしい。義父上ちちうえよ。


「…ハッハハ、小娘が! 儂の最愛の義理息子むすこの名前を語るな!!」


 まるで、狂ったかのように高笑いをしながら、額を手で押さえる。


「儂には一人の息子むすこしか、おらぬ」


 押さえた手の隙間から、光る雫が僅かに見える。義父上とは思えぬほどに弱々しい声でそう言う。


「フ、生まれ変わり? 戯けたことを言う小娘だ」


 手を額から離していつもの勝気な笑みが義父上に戻る」


「…ハッハハ、小娘か」


 オレもフリッツ義父上のように笑う。笑うしかないよな。だって、誰が見てもオレは小娘だ。こんなちっぽけな子供だしさ。わかってるよ。フリッツ義父上。


「気でも触れたか!? いや、まだオシメも取れていないような娘だから怖くて異常行動をしただけかの」


 突然に笑い出したオレを伯爵は目を細めながらこちらを観察するように見てそう言う。


 酷いな。気が触れた人間扱いかよ。いや、冷静に考えると小娘が変なことを言い出したと思うのが普通だな。誰もオレが本当のことを言っているとは信じないだろう。


「いえ、気など触れておりませんよ」


 バカな行為だと分かっていても、信じてくれるのではないかと淡い期待があったんだ。本当にオレは愚かだ。いや、まだだ! これを知っているのはオレと死んだ数名の王家のものだけだ。これを聞いたら、義父上も信じざる得ないはずだ。


「フリッツお義父上…」


「儂をそんな風に呼ぶな!! 黙れ!!」


「黙りません!」


「黙れ!! 黙ってくれ!! 貴様に義父と言われる言われはない!! 儂の子供達は殺されたのだ! 義理の息子も、実の娘も…。儂は助けることができなかった!!」


 泣き叫ぶ歳を取った一人の男は悲痛な心の声を漏らす。それを聞いていた周りの兵士達から彼の気持ちを思って涙を堪えるように啜る音が所かしこから聞こえてくる。豪胆で破天荒であった義理の父がこうも、意気消沈しようとはな。


 いや、それは普通のことだよな。誰だって自分の愛した家族を失えば嘆きたくなる。


「…フリッツ義父上」


 オレが沈痛な面持ちで嘆く義父に声をかけようとしたその時、突如として爆音が鳴り響いた。音に反応してそちらの方向を振り向くと、そこには少女達がいた。


「みーつけた! こんな所にいたのね?」


 場に似つかわしくない甲高い可憐な声。


「貴様らは誰だ!!」


「わざわざ、名乗る必要も感じないわ。ここで死ぬ、あなたにね」


 まさか、既にジークの部隊がハノファード伯爵の本拠地に到達できるくらいまで攻め込んできていたなんて!?


「では、伯爵の命。ここで貰い受けるわ!」


 そう言うとスカーレット・フィーユ魔導独立小隊の面々が魔術を放つ。辺りが光で包まれた。

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